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境界の娘 ~人ならざるものと生きていくのも楽じゃないけど、それなりに楽しくやっています~  作者: 狐のボタン


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一つずつ掴む幸せ



日が昇って暖かくなる頃、洗濯物を干していたら雪乃さんがきてくれて、奈子さんが待ってると…。

子狐丸はお留守番してるそうだから、雪乃さんと二人で向かった。


「子供の顔を瑠璃に見せたいってうるさくてかなわねぇんだ…」

雪乃さんはそう言うけど、表情は嬉しそう。



奈子さんの家にお邪魔したら、玄関を開けるなり目の前に壁が…。って源さんか…。大きいからなぁ。

「瑠璃。本当に助かった。二人の命の恩人だ…」

「奈子さんは私にとって姉のような人で、恩人です。源さんにも色々とお世話になりました。 ですからお気になさらないでください」

「ありがとう」

普段は寡黙で、女の人が苦手な源さんがお礼を伝えてくれたのが本当に嬉しかった。また、それくらい奈子さんとお子様を大切に思ってる証でもあるんだよね。素敵なご夫婦です。


「瑠璃ちゃん? きたんやったらはよこっちきてーな! 今ちょうど起きとるし。見たってー」

「行ってやってくれ」

「はいっ!」

道を開けてくれた源さんの横を通り抜けリビングにいくと、赤ちゃんを抱いた奈子さんがソファーに座り、待っていた。


「ほら、よう見たって!」

覗き込むと小さな小さな赤ちゃんが…。可愛いとかそういうレベルじゃない。なんかもう愛おしいっていうのかな。そんな言葉さえ陳腐に思える程の存在。赤ちゃんってすごい…。


「…瑠璃ちゃん。ありがとうな…。こうやってこの子と居られるんも瑠璃ちゃんのおかげや」

「私は大切な姉とその子供さんに無事でいてほしい、そう願っただけです。むしろ願いが叶って私の方こそありがとうございます! って気分です」

「あははっ。 ほな元気なとこしっかり見せたらんとな!」

「はいっ。 可愛いですね…。赤ちゃんってこんなに小さいんですね…」

「うちがちっこいのも影響はしとるやろうけどな。ダンナはでかくても、この子は座敷童子やから」

「そうなんですか!?」

「妖怪同士で子供ができるとな、どっちかに寄るんよ」

「ハーフにはならないんですね」

「そらそや。 元が人型やあらへんのもいてるのに…」

確かに! ……なんか色々と怖い想像をしそうになったから思考をカット。


「オレも早く子供がほしい」

「雪乃が親になれるんか? 未だにそんなファンキーなカッコしよって。 ろくな親にならんやろ」

「服の趣味はかんけーねぇだろうが!」

雪乃さんが大きな声を上げたせいで赤ちゃんがびっくりして泣き出してしまった。

「よしよし…。うるさいアホがいてるからごめんなぁ」

「悪い…」

「…子供ほしいんやったら、瑠璃ちゃんに頼んだらええやん」

「もう頼んだし、快諾も貰ってる。 ただ、酒が手持ちにねぇんだよ」

「そんな事か…。 んーうちもこないだの引っ越し祝いで飲み切ってもーたしな…。 せや、街ならまだ売ってんのとちゃうか?」

「ちょっと行ってくる! 瑠璃、待っててくれ」

「は、はい!」

雪乃さんは嵐のように出て行った。


「せわしないやっちゃな…。 あんなでも子供産めば落ち着くんやろか…」

「やっぱり親になるというのは特別なのですか?」  

「どやろなぁ。 産んだから言うてぱっと変わって親になれるもんでもあらへんし、子供と一緒に成長してってほんまの親になるんやない?」 

「そうなのかもですね…」

「なんぼたっても親になれやん、自覚もない、そういう無責任なのも勿論いてるやろうけど、子供を大切に可愛がろ思たら自然と親も成長してくんやと思うよ」

私はもし、自分がその立場になった時、ちゃんと親になれるのだろうか…。禄に親というものを知らない私が…。


「瑠璃ちゃんもいつかお母さんになる時が来る思う。 そん時にな、これだけは覚えとき」

「はい?」

「無理に親になろうとせんでええ。そんなん無理やから。 考えるんは子供と自分らの幸せや。うちもこうなってようわかった。 この子とどうやって生きてこ。何したろ、何食べさせたろ。ダンナとこの子とどこ行こ…そうやって考えてるとな、自然と幸せな気分になるんよ」

「素敵ですね…」

「せやろ? 目の前の幸せを一緒に一つずつ掴んでったらええんよ」

「はい。 それは今にも当てはまりそうです」

「せやな。 無理しとると必ずどっかで破綻するんよ。 そうなってからでは遅いやろ?」

「はい…」

無理せず幸せを一つずつ掴む。子狐丸と一緒に…。

きっとそれは一歩ずつ前に進むのと同じなんだよね。


奈子さんに”触ってみ?“って言われて、赤ちゃんの頬にそっと触れてみた。

意味わかんないくらい柔らかいし、温かい…。

あまりの感動に触れてた指をそのままにしてたら、赤ちゃんがきゅっと握ってきたものだからもう…。

「よう懐いとるなぁ。 やっぱわかるんやな」

「なにをですか…?」

「うちらの恩人やからな!」

「そんな…。気にせず元気に育ってくれたらそれで…」

可愛すぎるのよ…。今すぐ私もほしいって思ってしまうくらいに…。


「お名前は決めてるのですか?」

「まだ今からや。 性別もわからへんかったし、候補くらいしかあらへん」

早く名前で呼んであげたいな。返事してくれたらどうしよう!? って赤ちゃんが返事は無理よね。

身近な人に赤ちゃんが産まれるっていう、現実離れした状況に頭がついていってない。しかも可愛すぎるし…。



「酒! 手に入れてきたぞ!!」

「せやから、やかましいゆーとるやろが!」

「奈子もうるせーだろ…」

あぁ…赤ちゃんが泣いちゃった!!

「ごめんな、そろそろ腹も減ったやろうし、乳やらんとな」

「…瑠璃、オレ達は席を外すぞ」

「はい…」

ああ…もっと近くで見てたいのに…。


雪乃さんに引きずられるようにして自宅へ連れ帰られちゃった…。

「可愛いのはわかるが、母親の邪魔はしたらダメだ」

「はい…」

ごめんなさい…。


「瑠璃、酒だ。 頼む…」

「わかりました。 産まれたら絶対に会わせてくださいね?」

「ったりめーだろ。 オマエの弟か妹なんだからな」

お酒の瓶を受け取り、妖力を込める。雪乃さんが子供を授かりますように…。そう願いを込めて。

「えいっ!」

「なんだその…えいってのは…」

「子狐丸にそう言った方が信憑性があるからといわれて…」

「アホか。妖力の流れを感じとれるオレに必要ねぇよそんなもん」

そうだった……滅茶苦茶恥ずかしい! これ、なんて辱め!?


「ありがとな…。 これでオレの…オレたちの夢が一つ叶う」

「あの、そのお酒私にも…」

「ふざけるな。 酒も飲めんガキが何言ってやがる。オマエには早い!」

「私も赤ちゃん…」

「あのな? お前はまだ学生だぞ! 学生には学生のやるべきことがあるだろーが」

「はい…」

「気持ちはわかる。可愛い姿を見たら羨ましいと思うのもな。 だけどな、お前自身がまだ子供みたいなものだろう?子狐丸もガキだ。一時の感情で決めることじゃねぇのは理解できるな?奈子が今まで産まなかったのも子育てが大変だからだ」 

言ってた…。やっと余裕ができたからって。


今の私はどう? 

とても余裕なんてない。学校に、家の事…。自分自身の役目も果たせていない。 子狐丸との間にもまだ考えるべきことが多い。なんといっても人と妖怪だものね。

うん。絶対に今じゃない。冷静になれた。


「わかりました…。雪乃さんの言うように、今の私の状況では誰も幸せになりませんものね」

「それでいい。 まだおまえは若いんだ、焦る必要なんてねぇよ。 もっと色々と学んで、遊んで…それからでも遅くねぇさ」 

「ですね! でも弟か妹が生まれたらめちゃくちゃ可愛がりますから!」

「そうしてやってくれ。 オレも瑠璃がいてくれたら心強いからな」

まずは母じゃなく、姉になろう。 私にとっての奈子さんみたいな頼れる姉に!








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