新しい命
どれくらいの時間祈り続けたかわからないけど、赤ちゃん特有の元気な泣き声が家の中から聞こえて…。
ようやくホッとして力が抜けた…。
「瑠璃!!」
「ありがとう子狐丸…」
よろけたのを支えてくれたお陰で倒れずにすんだよ。
このだるさは…相当妖力消費したなぁ。
なにかすごくよくない予感がしたから、必死に願ったのだけど…。
「大丈夫か?瑠璃…」
「はい。ちょっと妖力の消費が激しかっただけです」
「それはわかってる。真横であんな力を使われたらな…」
妖力の動きってわかる人にはわかるんだものね…。子狐丸も気がついてるはずだけど何も言わないでいてくれてる。
家の扉が開き、顔を出したのは助手の女の子。
「皆さん入ってもらって大丈夫ですよぉー。先生から説明がありますのでー」
私達は頷き合うと、源さんを先頭に家に入った。
「無事に生まれたわよ。可愛い女の子! 母子ともに健康よ」
良かった…。
奈子さんの隣に置かれた小さなベッド…。予め源さんが用意してたものに、小さな赤ちゃんが寝てて。
ソファーには奈子さんが横になりながらも元気そうに微笑んでる。
「奈子! 大丈夫か!?」
駆け寄る源さん。すごく心配してたから無理もない。
「平気やよ。大の男が何を慌ててん…」
私達はお二人を少し離れた場所から見守ってたのだけど、先生に手招きされて移動。部屋の隅っこへ。
「瑠璃ちゃん、ありがとう。私達だけではどうにもならなかった…。奈子って座敷童子だから元々身体が小さいでしょ?よほど苦しかったのね、あの子の変化が解けてしまって…。 赤ちゃんの大きさに小さくなってしまった身体が耐えられなくて、二人とも本当に危なかったわ」
「もう平気なんですか?」
「ええ。瑠璃ちゃんの凄まじい妖力を見せてもらったわ。まさか外からの妖力で変化するなんて初めて見たわよ」
私が願ったのは二人の無事だけ。どうやってそれを成すかまでは考えもつかなかったけど…。まさかそんな事態になってたなんて。
「瑠璃、よくやったな。奈子と子供を守ったんだよオマエが」
「雪乃さん…。ありがとうございます。 私はお二人が無事ならそれだけで…」
妖力で何でもできるというのなら、こういう使い方が一番いい。
なにより妖力をくれている子狐丸に顔向けできないような使い方はしたくないから…。
「僕は瑠璃を家につれて帰って休ませる」
「ああ。オレもしばらくこっちにいるから何かあったらすぐに言えよ。瑠璃も奈子も心配だからな。 しっかり休めよ瑠璃」
「はい…」
そろそろ意識も朦朧としてきたから、やばいな…。訓練で減った時の比じゃない…。
子狐丸に抱き上げられて家に帰り、寝室に寝かせてもらった所までは薄れゆく意識の中、何となくおぼえてた。
次に気がついた時には、窓の外も部屋も真っ暗になってた。
「瑠璃!? 起きて平気?」
すぐに声をかけてくれたのは、隣に座ってこちらを見下ろしてる子狐丸。
「うん。 心配かけてごめんね。妖力って使い切ると体力まで持っていかれるんだね」
「そこまでって…かなり無茶したね…」
「大切な姉と子供さんの為だもの。私にできる事は全力でしたかったから」
「瑠璃らしいよ。 辛いだろうから少しだけ応急処置で妖力を渡すね」
「手加減して…んっ!?」
思ってたのと違う事をされて一瞬思考が飛んだ…。
「…っん…」
でも嫌じゃ…ない…。今は辛いし、これなら…。
「っ…はぁ……」
「どう…?妖力渡せれた?」
「うん。ありがとう。でもまさかこんな方法があったなんて…」
「僕も瑠璃にしてもらうまではわからなかったよ」
それって、私からしてあげたときの…? ああ、確かにアレでも妖力は貰えてたもんね。
でもまさかキスでもここまで回復するとは思わなかった。
思考もクリアになったし、怠かった身体も嘘のように軽い。
「私、これで充分かも…」
「そう言われるのが怖くてやらなかったのに…」
「ふふっ。緊急時はこっちでお願い。それ以外はちゃんと子狐丸の想いにも答えるから。ね?」
「わかった…。約束だよ」
「うんっ」
私も子狐丸と何もしないのは寂しいって感じるもの。
「私が寝てる間に何かあった?」
「雪乃が一度様子を見に来た。 瑠璃が寝てたからまた明日来るって」
「奈子さんのところに泊まってるの?」
「客間があるから、そこを借りるって」
大きいもんね、あちらの家は。うちに客間はないけど、私達二人だけだしこれで充分です。
子狐丸は何も食べてないって言うし、多分源さんも雪乃さんもだろうから、食事だけ用意。
奈子さんには玉子粥を。起きてたら食べられるかもだし…。
奈子さん宅には子狐丸が運んでくれた。”起きたばかりの瑠璃が行くのは絶対にダメ“って言われたら逆らえない。心配かけるくらいならおとなしくしてます。
すぐに帰ってきた子狐丸と食事を済ませ、お風呂にのんびりと浸かったら身体も本調子を取り戻したように感じる。
「お先に。子狐丸も入っておいで」
「出かけたらダメだからね」
「わかってるよ。大人しく家にいるから」
子狐丸も心配症よね…。 ううん、違うね、私がいつも心配かけてるからだ。
「子狐丸、いるか?」
この声、雪乃さん?
玄関をあけると食器を抱えた雪乃さんが。
「瑠璃、起きてて大丈夫なのか!? って、食事を作ってくれたのもオマエだったな。ありがとな。慌ただしくて食事まで気が回ってなかったから助かった」
「良かったです。 あの、奈子さんの様子はどうですか?」
「うるさいくらい元気だよ。オレたちのおかずを奪うくらいにな」
「お粥では物足りなかったですかね」
「ま、元気な分には問題ないだろ。 それより瑠璃、オマエは本当に大丈夫か?無理してないか?」
「はい。休んだら落ち着きました。食事もしましたし」
「…すまなかったな。 お前は本当にこっちでやれることをしてたんだって、この目で見せてもらったよ」
「今回のはたまたまですし…。私一人ではやっぱり何もできなかったと思います。子狐丸がいてくれて…、こちらでは奈子さんを始め沢山の妖怪の人達にお世話になりましたから」
「そうだな。 瑠璃、オマエの力はオマエが思うように使うといい。 瑠璃なら間違った使い方はしないだろうよ」
「いえ! それはわかりません…。なので間違った時は叱ってください! お願いします」
「ったく…。世話の焼ける娘だ。 わぁったよ! バカやったら叱ってやるから安心しろ」
「はいっ!」
雪乃さんと一緒に洗い物をしながら他愛のないお話をして…。
また明日来てくれると言って、雪乃さんは奈子さんの家に帰っていった。
「子狐丸、もういいよ」
ずっとお風呂へ続く廊下の扉の向こうで待ってるんだもんなぁこの子。
「バレてた」
「バレないと思ってる子狐丸は甘いよ?」
「そうだね。 瑠璃も今日はもう休んで」
「うん。 寝よっか」




