コウノトリの話 4
「さて、物語も終盤に差し掛かってきたわね」コウノトリのママが言った。
「え、もうかい」ぼくは思わず返す。
「ええ。早いって思った?」
「うん」ぼくは頷く。「だってさ、彼はあの街にやって来て、まだ一日しか過ごしていないんだよ。それも、ただ時計塔を目指して歩いていただけ。道中、いろんな出会いがあったけど、これから二日間、もっと何か起こるような気がするんだよ」
ぼくは、すっかりママの物語の虜になっていた。
初めこそ、突然、寝室に現れた言葉を話すコウノトリには驚いたけれども、すでに気にならなくなっている。彼女は異境の地の出身だと言うし、現に目の前で起きている現象なので、ぼくはこの状況を自然に受け入れていた。
そんなことよりも、かの少年の物語がどのように進んでゆくのかのほうが、ぼくにとっては大切なことだった。
「残念だけど、これ以上、彼の身に何かが起こることはないの。このあと彼は図書館で本を読んで、街の人たちと少し交流をして、約束の日に、時計塔に赴く。それだけなのよ」
コウノトリのママが嘴を横に振った。呆れ気味に肩をすくめるような仕草もした。もちろん、コウノトリに肩があるのかは、ぼくにはわからない。
「ほんとにそれだけ?じゃあ、あのマガ子さんという人物は?なにか物語のキーマンじゃないの?」
「彼女は、少年に関する重大な秘密を知っているみたいよね」ママは言う。
「彼は、マガ子さんからその秘密を教えてもらえるの?」ぼくは訊ねた。物語の続きが気になって仕方ない。
「ええ、時計塔に向かう日にね。けれど、さほど面白くもない内容よ」
「そうなんだ」ぼくは少しがっかりする。
「そんなことより、重要なのはここからよ」
「どういう意味?」
「ほら、最初に言ったでしょ。あなたに手伝ってほしいことがあるって」
ママの目元がにやりと歪んだ。ように見えた。
さて、ここからが本題だと、彼女は腕を広げる。月明かりを浴び、発光してさえ見えるその翼には、美しさを超えた恐ろしさがあった。圧倒されるほどの存在感だ。
「ねえ、ぼくが何をできるっていうんだい」
あくび交じりに、ぼくは言った。物語の続きを聞くことができないと知り、もはや彼女から興味が失せ始めていた。
今夜は、思いもよらない面白い話が聞けたわけだし、もう寝てしまって、明日、妻を探しに行くのだ。ぼくの頭の中はそれでいっぱいだった。
「あなたには、私の世界を救ってほしいの」ママは真剣な声音で、そう言った。
「意味がわからないよ」
そんな言葉、日常的に耳にしないし、規模が大きすぎて夢物語に思えた。
ああ、そもそも、これは夢か。
コウノトリが喋るはずがないし、ぼくが浮気をするはずがない。
夢から覚めれば朝になっていて、ぼくは浮気をしていないし、妻も出て行ってない。平和な日々が戻ってくるのだ。
「これまでのおとぎ話は、そのためのものなの。あなたに協力してもらうために、まずは私の世界のことを知っておいてもらいたかったから」コウノトリのママは嘴を振った。人間でいうところの、唾を飛ばす話し方なのだろう。
「協力と言ったって、ぼくは何をすればいいわけ」と、訊ねてみた。すでに嫌な予感はある。
「マガツ区に行ってほしいの」と、ママが答える。
「え」と、ぼくは溢す。
「そして、彼の野望を阻止してちょうだい」ママは容赦なく、言った。




