コウノトリの話 3
「マガ子さんとは、何者なの?」ぼくはコウノトリのママに訊ねた。話を遮るかたちになったが、やはりママは気にしていない。
「マガツ区のマガ子さんよ」
「そう言ってたけど」
それだと所在地と名前だけしかわからない。ぼくが知りたいのは、彼女は何者なのかということだ。
「マガツ区という街にいる、謎多き少女なの」
「彼を時計塔に案内するって言ってたよね」
「それが目的みたいね」
マガ子さんという人物の正体については、コウノトリのママもいまいち、掴めていないようだった。
「でも、彼を手伝ってくれているみたいだから、わるい人ではなさそうだよね」
ママの話を聞いていて、ぼくは、この物語の主要人物である少年に、感情移入していた。
愛する人を失った悲しみと、それを取り戻すために行動する彼の心情は理解できる。今のぼくも、近しい立場にいるからだ。
もっとも、ぼくの場合は、浮気が原因で妻に逃げられただけなので、厳密には似通った感情ではないのかもしれないが、愛する人が自分から離れていく苦痛は、同じだろう。ぼくはいつしか、この少年を、自分の家族のように見立てて、話を聞き入ってしまっていたのだ。
「わるい人。そうね、わるい人かあ」コウノトリのママは、嘴を振った。「彼にとってみれば、わるい人ではないわね。悲願である妹との再会に、協力してくれているんだから」
「彼以外にとっては、そうじゃないってこと?」ぼくは訊ねた。
「実は、そうなのよねえ」
ママは不安げに、眉を曲げた。正確には、ぼくの目に、そういった表情をしたように映った、だ。コウノトリに眉があるのかなんて、やっぱり、ぼくにはわからない。
「問題は、時計塔なのよ」
「時計塔がどうかしたの?」
マガ子さんが少年を案内する場所だ。願いを叶える力があるとか。
そして、少年の妹を攫った男――彼曰く、隊長と名乗った眼帯の男――が、残した言葉の中にも、その場所があった。
「願いが叶うってことは、つまりなんでも望むがままってことなの」
「そうだろうね」
「彼が妹との再会を望むなら、そうなるだろうし、世界の終末を望むなら、そうなってしまう」
「終末を望む?」
どうして、そんなことが。
「彼はまだ、この世界の真実を知らないわ。すべてを知ってしまった時、彼が何を望むかは誰にもわからない。ひょっとすると、妹のことは後回しに、終末を望むつもりかもしれないし」
「そんなわけないでしょう」
言いながら、ぼくの頭には、おやと疑問が浮かぶ。
この少年の物語は、コウノトリのママが住む、曰く、別次元の世界で起きたおとぎ話だ。
ならば、彼女は物語の結末を知っていて、少年がどうなったかも、すべて知っているはずだ。
それなのに、どうして、こういった言い方をするのだろう。
ひょっとして、ママは物語の行く末を知らないのではないか。この物語に登場する少年は、今現在、マガツ区にいて、時計塔を目指している真っ最中なのではないのだろうか。




