断片的な記憶 4
「人はなんでも見た目で決める。そういうものらしいです」ミヤビが言った。
「何のこと?」と、僕は訊いた。
「人は、相手を評価するとき、視界から得られる情報をもっとも頼りにする傾向にあるらしいんです」ミヤビは早口に答えてくれた。「そんな物語を読みました。おとぎ話には、常に作者のメッセージがこめられています。作者は、人間がなんでも見た目で決めてしまうことを発信したかったのでしょう」
「へえ、それはどんな話だったの?」
訊ねると、ミヤビは待ってましたとばかりに、口の端をあげた。物語の話になると、ミヤビはとても嬉しそうにする。彼女が嬉しそうにしているのを見ると、僕も嬉しくなる。
「国民に愛されていたお姫様が、ある日、呪いによって蛙に変身してしまうお話なんです。その国で蛙は、忌まわしいものとして嫌われていましたから、国民はお姫様を嫌うようになってしまうんです」
「かなしい話だね」
道徳的な教示がある物語のようだ。ミヤビはこの手の話が好きなのだ。
「国民は、お姫様が蛙になってしまったことを知っています。会話も自然なかたちでできています。それでも、みんなは距離を取るようになるんです。それはお姫様の姿が蛙だから」
「同じお姫様でも、見た目が変わるだけで、そんなに周りの態度も変わるものなんだね」
「それこそが人間なのだと、お姫様が嘆く場面があるんです。街から離れ、人気のない林道の端で、ひとりで」
「可哀想なキャラクターだ」
「けれど、そのお姫様も過去に、容姿で他人を貶したことがあったんです。とても優秀な家庭教師を、醜いからと拒絶したり、他国からの商人を、着物が古臭いからと追い出したり。その罰がくだって、人の愚かしいさがを悟るわけです」
「それは?」
「人はなんでも見た目で決める。お姫様は言いました。これは自分の悪戯な性格に限ったことではなく、人は皆そうなのだ、と」
「そのお姫様はどうなるの?」
「呪いを解くために奮闘し、やがて元の姿に戻ります。そして、学者になります」
「学者?勉強し始めるの?」
「はい。魔法使いについてです」
この物語にも、魔法使いは出てくるのか、と僕は思った。
ミヤビが好きな類のおとぎ話では、大抵、魔法使いが登場する。それだけ、魔法使いという存在がもたらす教訓は多いということでもある。
「魔法使いは、人間が、アポロニウムによって変化した姿ですから、元は人間です。獣の頭蓋骨のような頭と肥大化した胴体は、確かに人間とはかけ離れた姿ですが、それは蛙になっていたお姫様にとっては、些細なことなんです。問題は、彼ら魔法使いが、破壊的な力を持っていて、意思の疎通が不可能なことです。どうにかコミュニケーションを取ることができれば、仲良くなれるかもしれない。彼らを元の姿に戻す方法が探せるかもしれない。そう考えて、学者になったそうです」
「行動力のある人なんだ」
「はい。見た目で決めるのが人のさがであるならと、彼女は誰かと会うとき、必ず目隠しをするようになりましたし」ミヤビは、自分の目元を両手で覆うようにする。
「どうしてそんなことを」
「見た目で判断しないためだそうです。視覚情報を限りなく無くすことで、自分が常に世界と対等だとかなんとか、言っていました」
そのあたりは、作者の意図が読めなかったです、とミヤビは溢した。
「とにかく、行動力のあるキャラとして書かれていたわけだ」
「はい。そして終盤には、お姫様が大陸の境界線に赴き、魔法使いに接触を試みる場面があります。彼女は目隠しをしたまま、魔法使いに近づいていくんです」
「危険なことをするね」
大陸の境界線とは、勇者と魔法使いが戦っている場所のことだ。
詳しくは、人間の暮らす南側の大陸に侵攻しようとする魔法使いを、勇者たちが食い止めているという構図である。当然のことながら、激戦地区だ。
「さて、ここで問題です」
指を立てて、ミヤビが言った。愛らしいいたずらな笑みを浮かべている。
「なに?」
「この物語の結末は、どうなったでしょう」
「ううん」僕は唸る。「ちょっと考えてみるね」




