第14話 異世界転生大学生 -最強の装備屋になれば、女性冒険者が“装備”する瞬間を見られるのでは? さらに追放した“あいつ”が実は最強……どうか戻ってきてください-
気がついたら死んでいた。
俺、陣内先輩、リーベルト、マスカラスマンの四人が同時になんか文明が発展していない謎の世界に飛ばされ、多分今日の金曜ロード―ショーの『紅の豚』が見られない。くそったれ。
「あぁ、これ異世界転生ってやつか!」
「わたしたち、四人同時に死んだんですね。わたしたちはティガレックスから“生肉”でも奪おうとしたんでしょうか?」
とりあえず俺たちはお互いに近づいて、心のAボタン的なものを押してみた。
じんない:角王剣アーティラート
スキル: 抜刀術、斬れ味レベル+1、集中、アイテム使用強化
リーベルト:老山龍砲・極
スキル:攻撃力UP【中】、属性攻撃強化、自動装填
マスカラスマン:砂猿薙【ゴゴゴ】
スキル:見切り+3、業物、斬れ味レベル+1
「この装備でティガレックスに負ける訳はないな」
「せやニャ!」
「おうおう、お前もそう思うか」
足下に可愛い猫ちゃんもいる。まさかこんな猫ちゃんを連れてティガレックスなんかと戦うはずがない。
「とりあえず魔王倒しに行くか」
「魔王とかいるんですかね?」
「わかれ愚図ゥ……愚図ゥ!!!」
よかった。陣内先輩はいつも通りのパラハラだ。この人は狂っていない。
そうして俺たちは旅立った。
「“抜刀アーティ”!」
「“自動装填老山龍砲・極”!」
「“ゴゴゴ”!」
「ニャアン!」
こうして一時代を築いた抜刀アーティ、ラオート、ゴゴゴ、そしてこの猫……猫? のパーティは次々と敵を倒し、なんと四天王、魔王の腹心である悪魔大統領、そして魔王をすぐに倒した。あまりにもあっさりと倒してしまったのでやることに困った俺たちは、とりあえず魔王の城のダンジョンを探検することにしたのだが、そこには非売品含め大量に強力な装備が眠っていた。さらに抜刀アーティ、ラオート、ゴゴゴ、猫のパーティでも戦闘はオープンワールドだったりRPG風のコマンドバトル、アクティブタイムバトルなど様々だったが、ほぼ全てワンパンで沈めてきた俺たちは、その戦闘の一つ一つで明らかに異常とわかる報酬金と報酬アイテムを貰っており、装備もアイテムも金も売るほどあった。
そして俺たちの強さについてこられる冒険者は一人としておらず、魔王の城の一つ前の村人でさえ魔王の城には立ち寄れず、ここに来られる冒険者すら俺たちが十数年ぶりだというのだ。
つまり、俺たちが魔王を倒したことでこの世には悠久の平和が訪れ、その後戦乱の世が始まりあらゆる魔物が攻めてこようと抜刀アーティ、ラオート、ゴゴゴ、にゃんこがいれば問題はないのだが、俺たちは普段は現実世界で生きている普通の人間のため、現時点で金が余っていてもやはり金を生んで生きていかねばならないと本能的に刷り込まれている。俺たちは全員文学部生であり、経済学部や経営学部よりもそういった金に対する知識は薄いが、貧困を描いた文学、或いは経済的余裕のある高等遊民による名作にも触れており、金は生きるための必需品であると同時に文化でもある。
「装備品の店でも開いてみるか。一度言ってみたいもんな、“ここで装備していくかい?”」
「いいですねぇ」
「でもリーベルトは一回も装備変更しなかったな」
「だって装備変えたらラオートじゃなくなりますし、装備って服じゃないですか。店頭で着替えるのって恥ずかしくありません?」
「……それだ」
つまり、めちゃくちゃ強い装備(女性専用)を店頭で売り、試着室や更衣室は設けない。さらに装備屋を開く町の宿は全て買収し、自らの経営下におくことにより宿での装備変更は認めない。こうすることで、堂々と女性のお着替えを覗けるという訳である。
さらに魔王を倒した事実は伏せることで冒険者は、夢を追いかけ旅を続ける。時折、魔王の城まで到達しそうな冒険者がいたならば、身分を隠して抜刀アーティ、ラオート、ゴゴゴといった最強装備で魔物を装い“教会”送りにすればいいだけである。完璧だ。これを完璧と思える時点で俺は……。まるで下着を履いていないようなスリルと同時に、大事な何かを失っているような気さえした。
「そんなのダメニャ! みんなお遊びで冒険している訳じゃないニャ! 平和になったというのなら、それはみんなに伝えるべきニャ!」
「はいお前解雇」
ばつん、と急に猫にスポットライトが当たり、猫は寂しげな表情をした後はっと取り繕ってお辞儀をし遠くへ去って行った。そこには何か光るものが零れ落ちたような気がした。そして一度、名残惜しそうに振り向いた。
「……本当に解雇するニャ?」
【はい】 いいえ
「俺に逆らうやつに、例外はない!」
すげぇや陣内さん……。セリフも、やってることも、もう“魔王健在のふり”じゃなくて魔王そのものだぜ……。
「で、今後はどうするんですか? 装備を作る技術も必要ですし、経営方針も固めていかないと」
「まずは普通の鎧や兜を販売していく形になるだろうな。あそこの防具屋はすごい! と常連客を増やし、この店なくして冒険は出来ず、という評判を立ち上げる。何しろ魔王の城付近の魔物と戦えるのは俺たちだけだ。魔王の城の残党共をブッ倒し、そいつらから装備を作ったり強奪したりする。そして魔王の城に辿り着いちまった冒険者共は俺が抜刀アーティでブッ潰す。まずは魔王の城まで進められる程優れた装備、という評判、そして次は下着の販売も開始する。ハァハァ……“ここで装備していくかい?”」
こうして装備屋:陣内は、冒険中盤の町に開業した。陣内先輩の描いた絵図通り、まずは良質かつセクハラに当たらない装備の販売から始め、徐々に口コミやメディアの露出も増えていった。陣内先輩、リーベルト、マスカラスマンの三人は時折素材回収に出かけ、「新商品発表!」の知らせを出すと転売ヤーが三日前から並ぶようになった。リーベルトがプロデュースした女性用のオシャレな装備品、マスカラスマンのデザインによるプロレスマスク風兜などは見た目の面でも評価が高く、装備としてではなくファッションとして身につけるものも多いなど普通にアパレルショップとしてそこそこになってしまった。
やがて、冒険者たちも強くなっていく。一組のパーティが、いよいよ最後の村までたどり着いたという話が世界を駆け巡った。そろそろ魔王の城で“魔王”にならねばならないと、我々は魔王の城へと向かった。
「抜刀アーティ!」
「ラオート!」
「ゴゴゴ!」
以前より苦戦したような気がしたが、さすがは時代を築いたバランスブレイカー。この三人は魔王の城の残党を倒し、いよいよ二代目魔王となるべく、魔王の玉座を守る最後の将、悪魔大統領の間へと再びやってきたのである。
「久しぶりニャ、ご主人様」
「まさかお前は……ヴィトン!?」
ヴィトンというのは陣内さんの家の飼い猫である。死んでこの世界に転生した時、同じタイミングで送られてきたしゃべる猫にヴィトンと名付けたのは、陣内さんに最後に残っていた人間の心であった。そしてそれが最後の人間の心であったと証明するように、陣内さんの悪事に反発したヴィトンはいっさいの弁明や抵抗、呼びかけの余地もなく解雇されたのだ。ヴィトンを解雇した時点で陣内さんは人間を辞め、現実世界の常識を破棄したのである。
「そろそろ来る頃と思っていたニャ」
「何故お前がそこにいる?」
「ご主人様……。僕は間違って生まれた存在ニャ……。だから、正しく生きていたいと思ってるニャ。ご主人様を止めることが、僕に出来る正義……なんだと思うニャ」
「ご主人と呼ぶな! フッ……抜刀アーティに勝てるとアイルーごときが!」
やっぱりアイルーなんだ。
「ニャッ」
チュウン、と白い風が甲高い音を伴って空を裂くと、マスカラスマンの頭部がごろりと転がり、胴体は血を噴き出してしばらく前後に揺れたのち、ぐしゃりと崩れ落ちて骸に変わっていた。かつてのオトモアイルー……ヴィトンは涙のように頬から返り血を流し、どんぐりネコ装備の棒を振った。陣内さんの身の丈をはるばると超える巨大なアーティと比べればそれはとても小さい武器だが、もはやその迫力はアーティを超える殺りく兵器だった。
ようやく気付いた。何故、ヴィトンを解雇してから少し苦戦するようになったのか? 一撃で昇天させられたマスカラスマンがハッキリと証明している。強いのは我々ではなく、ヴィトンだったのだ。
まさか、ヴィトンと名付けられたこのアイルー……。
「あ、あ、あ……“悪魔猫”だァー!!!???」
悪魔猫……。噂には聞いたことがある!
所謂チート!!! 想像をはるかに絶するステータスへと改造されたオトモアイルーは、大型モンスターすら数発……いや、一撃で屍へと変える!
それ故に抜刀アーティ、ラオート、ゴゴゴといった屈指の装備すら無に変える程の影響力を持つのが、この悪魔猫である。
抜刀アーティ、ラオート、ゴゴゴといった装備が“正”の強さであれば、悪魔猫は“負”の強さ! 存在してはならぬ……存在してはならぬ命! 全ての装備を無意味にする! 故に“悪魔猫”!
「まさか、そういうことか……」
「どういうことです陣内先輩! このままではわたしたちはヴィトンに殺されますよ!」
「俺たちは、ヴィトンを作り出したことでC社に人生からBANされちまったんだ……」
「ご主人様。僕はここで魔王の城を守り続けるニャ。冒険者たちを待ち続けるニャ」
「ヴィトン……。お前、本当は負けたい、死にたいんだな……」
それが、不条理によって生み出され、理不尽な力を与えられた、存在してはならぬ命の使い方であるというのならば……。
じゃきん、と陣内さんはアーティを納刀した。“角王剣アーティラート”! 最適にスキルを整えた場合、この武器が最大の威力を発揮するのは抜刀攻撃である! 納刀と抜刀を繰り返し、抜刀攻撃により強打を叩き込む。これこそ、“正”の力である最強の戦術“抜刀アーティ”である!
「ようやくご主人様に戻ってくれたニャ。でも、さよなら……。僕はここで罪を償い続けるニャ。ご主人様の罪を……」
【力尽きました】
【力尽きました】
【力尽きました】
……。ふと気付くと、俺たちはサークルの部屋にいた。それぞれの手の中ではきゅるきゅると特有の音を立ててPSPがディスクを読み込んでいた。何故だかわからないが……。陣内先輩は泣いていた。
「チートは、あなたからゲームの楽しみを奪う絶対に許されない行為だな!」
「ええ、チートは違法であり、あなたの個人情報が報道されてしまったり、退学・懲戒解雇といった重い処分がとられる場合もあります!」
「もちろん、転売目的の買い占めも許してはならないな!」





