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【エヴァに乗れ 乗らねば帰れ レイを呼べ】第13話 哀悼 陣内一葉さん4 ~俺が死んだら三年は隠しておけ~

 ……衝撃的な知らせだった。陣内さんが今朝、都内の病院で息を引き取ったそうだ。

 思わず電話を落としてしまった俺は家族の「大丈夫?」という控えめな問いかけに虚勢を張って「大丈夫」と答え、自室に戻ってあの陣内さんが死んだのか、もうあの傍若無人な行動に振り回されることはないのかと無性に悲しくなり、自分が死んだわけじゃないのに青春時代が走馬灯のように脳裏をよぎって両の目から涙がこぼれ始めた。確かに俺は幾度となく陣内さん死ねと思ってきた。包み隠さず本人にその気持ちを伝えたことも幾度となくあった。だがあまりにも早すぎる死、少なくとも俺よりはあの人の方が長生きするだろうと思っていたのに……。


「旅に出ようや」「バ~カ~野郎!」「そん中見てみろ、テント入ってるぅ!」「ぶっ殺す」「あっはっはっはリーベルトさぁん!」


 知らせを受けた後、俺、良崎、マスカラスマン、小林さんは水原さん(旧姓)に呼ばれ、陣内家に集まった。

 溢れんばかりの満面の笑みの遺影、そして安らかな死に顔を見てまた涙がこみ上げてきた。俺の青春は常にこの人と共にあった。だってこの人、結局俺が大学卒業した後も大学にいたんだもん。あの何よりも楽しかった大学生活を誰よりも長く満喫できたからこそ、この遺影と死に顔の笑顔があるのだろう。

 陣内さん、ありがとう。あの世で権藤教授と二人で待っていてくれ。


「集まってくれてありがとう。本当に……」


 目を晴らす水原さん。金婚式まであと数年だったのに……。水原さんを泣かすなよ陣内さん……。


「葬儀は家族葬で行うつもりだったけど、明星さんと漆原くんの計らいで、一葉さんは“学葬”にしてくれるそうよ」


 鬼畜お姉さんは俺と良崎が卒業する年にもっと偏差値の良い別の大学に移籍したが、武者修行を積んで戻ってきて晩年は教務部と学生部の事務部長を兼任するという恐ろしい偉業を成し遂げた。

 漆原くんとは変態デンテストの本名であり、歯学部で博士号を取った後は母校で教鞭をとり、名誉教授にまで上り詰めた。

 鬼畜お姉さんと変態デンテスト、この二人が現在の学友会のツートップであり、陣内さんなき今、現時点のOBOGの中では最大の権力を誇る。その二人が国葬ならぬ学葬なるものまで提案してくれたのだから、陣内さんの影響がいかに大きかったかが伺える。

 事実、陣内さんの死は文学界、出版界、書道家を始めとする文化人界隈にも影響が大きく、陣内さんの死の報告と同時に株価が暴落、或いは急上昇する企業も多いという。

 だが俺たちにとっては、面倒見のいい暴君にしてプロ大学生のまま、永遠に憧れの先輩のままなのだ。だがその陣内さんもここ数年はしばらく体調が悪かったらしく、表舞台にも出ず我々とも連絡を取っていなかった。学友会の代表をデンテストに譲ったこともその理由の一つなのだろう。

 そのデンテストと鬼畜お姉さんは既に学葬の準備として参列者へ配るプリントの発注や大講堂の確保まで済ませたという。


「みんなには大切なお知らせがあります。一葉さんからのお手紙です」


 水原さんが一枚の便せんを取り出し、開いて読み上げた。


「『演劇サークル』初代会長水原銀子、二代目会長マスカラスマンの時代に会員だった者に告ぐ。この手紙を水原銀子が読んでいる時、俺はもういないだろう。俺にも死期はわかる。驕りでもなく、俺の死は世間に影響が大きいだろう。明星さん、漆原くんにより学友を対象とした大々的なイベントも行われると想定され、各界への影響は少なくないはずだ。皆に世話をかけた分、皆の世話を焼いた分、皆のものには好きなようにしてもらいたい。好きなように騒げばよいと思う」


「はい……。学葬、盛り上げましょう!」


「ありがとう、アンナちゃん。でも続きがあるの。読むわね。……ただし、繰り返すが俺の死は影響が大きい。そのため、俺の死後三年は死の事実を隠し、影武者を立ててもらいたい」


「ん? ということは、あと三年は死んだことを隠すんですか? アレ……。学葬は!? 準備始めちゃってますよ!?」


「違うの。違うのアンナちゃん。実は、一葉さんはもう三年前に亡くなっていたの」


「ワッツ!?」


「つまり、この三年間の一葉さんは影武者よ」


 まぁここに集まっているメンバー、水原さん以外は三年陣内さんに会ってないから影武者にも会ってないしいいんだけどさ……。


「この事実、知っているのは誰ですか?」


「わたしを含めた陣内さんのご家族だけよ。でも、明星さんと漆原くんには知らせ……」


「ちょっと待った!」


 ビシッ! 良崎、ビチャビチャ冷や汗決死の表情で魂のストップ!


「……三年間影武者を立てていたことは……。ご家族しか?」


「ええ、徹底した緘口令が敷かれていて、わたしと陣内さんのご兄弟しか知らないわ」


「よしわかりました。影武者の事実はこのまま闇に葬り去りましょう」


「でも、それでは明星さんと漆原くんへの誠意が」


「いいですか? いいですか水原さん。陣内さんが死んだことを知っているのはご家族だけというのは、役所も知らないということですね」


「ハァーウゥーッ!!!」


 何かに気付いたマスカラスマン、『ゼルダの伝説 時のオカリナ』のスタルチュラハウスで攻撃しちゃいけないスタルチュラ攻撃した時のリアクション。


「水原さん及び陣内家! 三年間死んだ人物の年金を不正受給しているぞ!」


「ハァーウゥーッ!!!」


 これは……。これはマズイ! 水原さんが現在71歳、陣内さんは水原さんのXX歳上だから年金はバッチリ給付されている!

 なんということだ! 最も偉大なOBの一人として学葬まで執り行われようとしている人物が! 年金不正受給発覚! 一気に犯罪者だ!


「ああ……あああ。どうすればいいの?」


「隠すしかないです。陣内さんは昨日死んだ。そうしましょう」


 陣内さん、誰にも知られず三回忌!

 そしてしめやかに、学葬は執り行われた。三年前に死んだとも知らず、漆原くんのスピーチは感動的だった。

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