【言ってみろ 俺か? 幹部か? 長州か?】第10話 再発見! 豊島園! 最終夜
豊島園に隣接するスーパー銭湯庭の湯! 天然温泉によるリラックス効果に水流マッサージ、サウナプログラムに露天風呂に日本庭園と来た! また、温水のバーデソーンは水着着用が義務付けられているものの、夢の混浴である! 入れ墨はもちろん、子供もお断りなため安らいで入浴できる。
良崎や鬼畜お姉さんのようなダメなやつや怖い人は逆に近寄りたくないが、雨宮さんぐらいのちょうどいい人が来ると裸眼で物が見える嬉しさを……何を言ってんだ俺ァ! 俺の完成形は小林さんみたいな人だ! 小林さんみたいに……。いや、小林さんにもさんざん貢がせる『エヴァンゲリオン』好きの彼女がいた。俺にはもう誰もいない。
まずは水着着用不可の男湯でしっかり休まる男子陣。小林氏はあの腹とヒゲで彼女がいたのか。ざまぁみろ小林。メガネがないとお前は混浴ゾーンでも何も見えまい。
「ハァハァ、雨宮はいるかな?」
ダメな吐息がハァハァの陣内さんのダメなデジベルがバーデゾーンに反響する。誰もいない。他の客も誰もいない。
「ハァハァ、露天風呂かサウナにいるかな?」
と! 扉をくぐって屋外ゾーンに行こうと瞬間!
「ストップ! ストップよマスカラスマンくん!」
プールが波打つほどの喝が入る。この声は鬼畜お姉さんだ。この声の命令を無視することは絶対に出来ない。
「何故でしょうか!」
「マスカラスマンくん、今、素顔でしょう?」
「素顔です」
「マスクを被ってね。その扉の向こうには人がいっぱいいるわ」
この扉の向こうに……人がいっぱいいるというのか……鬼畜お姉さんをはじめとした……。
誰がいる? 良崎か? 鬼畜お姉さんか? 雨宮さんはいるのか? ……女子か!?
「うわぁぁぁ」
陣内さんのゴムでくくった長髪が逆立ちそう。陣内さんも考えている! 果たしてこの先にいるのは鬼畜お姉さんや芸能の女の子たちで、正月からリヤカーを牽いたご褒美が待っているのか!? それともまだ地獄は終わらず何かしらの活動をさせられるのか!?
マスカラスマンに「マスクを被れ」と言ったということは、マスカラスマンという人物のことは知っているがその正体が烏丸椿であることは知らない人が多くいるということ。
「うおおおおお!」
陣内さん、ラグビーで無双するジョナサン・ジョースターの呼吸。
「行くぞぉマスカラスマン! この先に待っているのは、天国だ!」
「何故だ。桜井がいないということはお前のお気に入りの雨宮もいないぞ」
「考えてみろマスカラスマン。鬼畜お姉さんは豊島園は二部構成と言った。一部は豊島園での芸人のネタ。二部は不明だ。だが一部があったということは、この先にその一部で出る予定だったやつらはまだいない! だってあいつらは俺が鬼を止めたかくれんぼをまだ続けているから」
ひでぇ話だ。
「この先に雑魚はいない! 行くぞ、行くぞマスカラス! うぉおおお!」
マスカラスマンがマスクを被ったことを確認し、扉をバチーン!
「お疲れ様、陣内くん。これで最後よ。最後はもちろん! “露天風呂だるまさんが転んだ”!」
「ゴボーッ!?」
吐瀉物は出なかったが空気を嘔吐したと言えるほどの激しい落胆。
「相手になってくれるのはこちらの皆さまよ」
①変態デンテスト
②ゼラン星人
③ドルズ星人
④四天王マグナ(ポケモン大好きクラブ)
⑤メガバシャーモ(ヒーローショー研究会)
⑥愛等不要(悪学部)
⑦アルデンテ先輩
⑧金糸シャツ(じゃけぇズ)
⑨アニキ(じゃけぇズ)
⑩羽場くん(声優同好会)
1月の夜は寒すぎて全員ジャグジー風呂につかっている。縁には大量のバスタオル、鬼畜お姉さんはフカフカガウンだが何かを刺激するように丈は短い。
「メンツが雑魚中の雑魚じゃねぇか! そういうことかぁ……。こいつら、雑魚過ぎて豊島園でのネタ見せまでたどり着けなかったか」
「ということはもうこの人たち単体じゃ何もできない―――じゃないか!」
「全裸だしな」
陣内さんと小林さんが言ったらダメなことをダメなデジベル!
「イェーイ陣内ちゃんカモーン」
変態デンテストがピースサイン。あいつだけは雑魚じゃないもんな。“職人”枠だ。
「ゼラン星人とドルズ星人って誰?」
「ゼラン星人とドルズ星人は、諸事情あって罰を受けているの。なので今は顔を封じられているけれど、シャワーにぶら下げてあるフックに顔のストラップをひっかけ、脱ぐことで顔出しが許されるわ」
「俺のモォチベェーション」
「あなたたちが負けたらリーベルトさんや雨宮さんたち女の子たちが」
「星野は心配いらないな。あいつの体型は地獄に落とされた蜘蛛の糸より真っすぐだから」
「……」
「こういうのって言ったらダメなんだな。よし、ガンバルゾー」
バツの悪さをごまかしながら陣内さん、スタート地点のジャグジーへ向かう。
「ストップよ陣内くん!」
「まだ何かあるのかよおい」
「わたしが鬼をするから、あなたは審判よ。ガウンを着て」
鬼畜お姉さんのパスで広がったガウンに空中で袖を通す陣内さん。息ピッタリだな。
「さぁ陣内くん! 早く始めましょう。メガバシャーモがお風呂に入っているのよ? 死んじゃうわ!」
「OK!」
小林さん、マスカラスマンもジャグジーに入り、メンバーが揃った。鬼畜お姉さんが後ろを向く。
「だぁーるまさんが、転んだ」
ビシィッ!
本気で優勝を狙っており、さらに運動神経のあるマスカラスマン、メガバシャーモや風呂の脱出とバスタオルゲット。激寒の中で体をふき、前を隠す。様子見の小林さんは全く動いていないが、他は中途半端に濡れた体で夜風にあたる。
「……」
「……」
そんな凍える後輩たちに9年生とOGの大学職員は仏頂面。
「陣内、陣内! 次、次!」
「あぁ~ん? 俺にじゃねぇだろ。俺はあくまでジャッジの立場。ゲームを進める鬼は鬼畜お姉さんだろうが!」
「鬼畜お姉さぁーん!」
ようやく鬼畜お姉さんが後ろを向く。
「だるまさんが転んだッ!」
クイックモーション! アルデンテ先輩、スタート地点へ。一方ドルズ星人は顔解禁を狙うべくシャワーに向かって一直線。
「だるまさんが転んだ!」
「モイッ!」
湯船から脱出したアニキが奇声を上げる。そのピッタリと後ろには……デンテストだ。
「玉職人だァー!」
寒い、やる気ない、運動神経ないの小林さんの動きが慎重なのは玉職人の餌食にならないためなのかもしれない。大ヒットドラマ『半沢直樹』においても金融庁の黒崎という頼もしいニューカマーが出現した玉職人界。大学の職人は俺だと言わんばかりに手首の腱をピクピクさせるデンテスト。陣内さんが職人の美技に見入ってしまった。
「モウッ!」
「アニキ! 失格! スタート地点に戻れ」
玉職人-撃墜数1
「だるまさんが転んだ!」
ピタッ。マスカラスマンは体を拭いてタオルを巻き、玉職人のレンジからも逃れて逃げ切りが近い。
「“エキスパンション・ルール”の説明を忘れていたわね。陣内くん!」
「ああ! “エキスパンション・ルール”とは、ただのだるまさんが転んだを盛り上げるシステム! ジャッジの手により、衣服、お湯などのアイテムをもらえるぞ。さらに! なんと日本庭園には現金1万円が防水ビニールに入って隠されている」
防水ビニール。日本庭園の池の中の可能性もあるのか。
「まずは例を見せよう。そうだな、お前」
まだ満足にお湯をふけていない声優同好会・羽場くんに向かってバケツに入った粉末を柄杓でドーン! 絶妙にくさいぞ!
「なんすかコレ」
「鯉の餌を粉末にしたものだ。日本庭園には鯉がいるからな。それから羽場、テメーは去年、俺の顔に麻袋を被せてから女子にエアガンで撃たせたな。忘れたとは言わせんぞ。そして羽場、そんな鯉の餌まみれでテメーは風呂に入るのか? 許されんぞ」
羽場くん、このゲーム中は二度と風呂で暖を取れず。陣内さんの恨みは深い。
「だるまさんが転んだ!」
「ッッッ!」
ゼラン星人、見事脳天のストラップをフックに引っ掛け、覆面脱ぎに成功。
「お前は野生の宇宙海賊キャプテン・ボイルド! テメーもよくもやってくれたな!」
「ええ、あれはちょっとナイわ。キャプテン・ボイルドくんの顔出しは防ぎたかったけど……みんな! キャプテン・ボイルドくんみたいになっちゃダメよ! 振り返ってみる? 野生の宇宙海賊キャプテン・ボイルドの歴史!」
マスカラスマンの歯がガチガチ。
「だぁーるまさんが」
「シャモッ!」
好きで仮面をかぶっているメガバシャーモの目の奥がキラーンと輝く。なんとなく燃えているような気もするぞ。
「ボォワシャーッ!」
「ぐおっ」
ス、スッゲェー! “バーニング閃烈脚”だぁ~。共鳴バースト・バーストアタック“バーニング閃烈脚”でマスカラスマンの不意を突き、効果はバツグンだ! 鯉の餌にもまみれず、覆面取りのおいしい場面もない、そんなメガバシャーモ。マスカラスマンとデッドヒートを演じつつも真面目過ぎて面白くなかったことを察したのか大技を披露。しかも食らわせるのはプロレスで鍛えているマスカラスマンということで相手もちゃんと弁えてる。
「るぅーまさんがぁー」
「!?」
だがマスカラスマンを気に入っている鬼畜お姉さんがそんな蛮行は許さない! 鬼畜お姉さんは鬼としてコールの途中、つまり鬼畜お姉さんが超大技“バーニング閃烈脚”を見ることはない。しかもコールが長引いてマスカラスマンが回復して戦線復帰すれば、鬼畜お姉さんにとっては背後でメガバシャーモが奇声を上げた、という事実しか残らない。鬼畜お姉さん、仕置きのシカト!
「シャァモーッ!」
渾身の“バーニング閃烈脚”をスルーされたメガバシャーモ、憤懣やるかた! そして蹴り倒されたマスカラスマンは足をピッタリ閉じ、体をまっすぐに伸ばしてうつ伏せで倒れる。マスカラスマンにはもうそこまで来ている玉職人が見えていたのだ。
「シャモッ?」
「ろんだっ!」
鬼畜お姉さんが振り向いたタイミングでデンテスト、恍惚のレインメーカーポーズ。
玉職人-撃墜数2
「だぁーるまさんが」
そして鬼が振り向くとナイスな笑顔をマスカラスマンに向けてサムズアップ。デンテストもこんな雑魚たちと同格に扱われることは我慢ならなかったのだろう。むしろ演劇サークル側でいたかったのか。
「だぁーるまさんが転んだ!」
デンテストが体を180度反転、鬼畜お姉さんに背中を向ける。ここから先、通りたいならば俺を倒して行けということだ。
「だぁーるまさんが転んだ!」
こうなってはマスカラスマンの独走を止めることはもうできない。
「だぁーるまさんが転んだ!」
今、感動のフィナーレを迎える!
「マスカラスマン優勝ー!」
パキ、ゴク、カーンと玉職人がコーヒー牛乳を飲み干す。その表情は柔和だった。マスカスマンが握手を求める。そして玉職人はまだ洗ってない手でそれに応じた。
【帰ってきたうぉくのふぉそみつ】
【帰ってきたうぉくのふぉそみつ】
「……」
「……」
全プログラムを終え、リヤカー組も合流。そういうことで陣内さんに目隠しをして豊島園の焼鳥屋にて必要な分を購入。陣内さんは「食べられちゃう対象がマスコットになっている店」を見ると可哀想になって食べることが出来ないという弱点を抱えている。この店の看板は指をグッと上げたニワトリだ。陣内さんに見せることは出来ない。
そうして購入した焼き鳥を摘まみながらベンチに座る。
「なくなるんですね」
良崎、海賊船の光を見上げて感無量。
「仕方ない。終わりは来る。いつもあったものの終わりが来るのは自分の時代じゃないと思い込んでいるだけだ。『こち亀』の最終回とか使ってるSNSの終了とかな。豊島園が終わるのは偶然俺たちの時代だったというだけ。終わりのないものはない。スタート時にお前ら練馬区民が豊島園を蔑ろにしたからだと言ったが、これはしょうがないことだ。俺たちの大学もいつかは終わる時が来る。まぁこれだけデカイ大学だしOBOGからの寄付も多額だから大学が終わる時は日本も終わる時だろうが、少なくともお前らの在学中に大学が終わることはない。だが忘れるな。お前たちはたった四年で大学を通り越えていくが、自分の所属している何かが終わらずにいる、という恵まれたことに。自分たちが当事者でなくなっても決して恩を忘れるな。そして何かが終わる時は、終わりの決断を下した人間の気持ちに思いを巡らせろ」
「珍しくまともなこと言ってますけど陣内さんが豊島園に来た回数って何回です?」
「えぇと、27回かな。ヒーローショーだけでも毎年来てるし」
「陣内さん、お住まい新宿ですよね?」
「ああ」
「地元のわたしより陣内さんの方が多かった……」





