【言ってみろ 俺か? 幹部か? 長州か?】第8話 再発見! 豊島園! その8
「あ゛ぁ~!? ダルい。ダルぃいいい」
「金剛阿含みたいな声出てましたよ。何かありましたか陣内さん」
「リヤカー牽いて豊島園まで行くのマジでダルいんだけど」
「……今更?」
「寒いし録画した『あらびき団』が見たいんだよぉ」
「腹くくれカス野郎。……ちょっと言葉が荒れましたね。でもやる気がないのはあなただけではありません。危なかったです。こんなに自由で地元で屋外なのにフィヨルドに恋をしそうになりました」
フィヨルドに恋をするとは、度を超えた退屈、ダルさによって緊張の糸が弾け飛び、正気を失ってしまう状態のことを指す。既に陣内さんはフィヨルドに恋をしている状態で、彼は耐性がない。意外と良崎は耐えられる方だ。しかもこの二人は極厚ステーキ重を食ってるので今回の旅では負担が少ないはずだぞ。
「ほら、マスカラスマンもリヤカー牽いてくれますよ」
「ああ、対決は任せたぞ」
マッスルボディは傷つかないとでも言いたげにポージング。最近は陣内さんがダメダメすぎるせいでこいつの負担がでかい。
「っていうことで練馬高野台についたけど……。ハァ……石神井公園から出たってことはマジで豊島園まで行くの?」
「リヤカー牽くのはマスカラスマン、対決するのもわたし、しかもステーキまで食べてまだごねますか。陣内さんだけ帰ってもらいます?」
「それはダメだ。俺がいなくなったら絶対にお前らは俺の悪口を言う。本当はお前ら全員、家までついていってずっと監視していたいくらいだ。お前らは俺の悪口を、言う!」
だが日没や積雪など、石神井公園でマリーシア行為を行って旅断念の要素を待つ線はなくなった。いいよなぁ……。星野・桜井・雨宮は大学以前からの同級生、仲良しだからいいだろう。俺たちは大学に入ってから陣内さんの働きバチとして集っているので陣内さんのカリスマがなくなれば瓦解する。
「オラオラオラァ! 元気なしおでございますか!」
そして練馬高野台駅に着いた途端に刺客出現、絶え間なく展開が来てくれるのは陣内さんのモチベーションも下がりづらくていいぞ。
「うるさいんですよぉ。ぶっ飛ばしますよ!?」
「やめて! やめてリンナちゃん! いじめないで!」
「奮破ッ!」
「ほほほ、敵わんなぁ!」
現れたのは長身・和装・フツメンのオーラのない男とどうでもいいような再現VTRで便宜上の美人として扱われそうな微妙美人、優しそうだけど俺には優しくしてくれなさそうな人、雑に脱いでるマスクマン、将棋と鉄道とアイドルとガンダムが好きそうな男だ。
全員『演劇サークル』のニセモノだ! 偽陣内さん、偽良崎、偽水原さん、偽マスカラスマン、偽小林さん! クオリティは高くないニセモノだがマスカラスマンはマスクを交換されるともうわからないぞ!
「ここでの勝負は『一緒にドラ泣きしませんか?』だ。親を泣かせてこそ最強のドラ息子、直接親がいないこの場だけで親を泣かせるドラ息子勝負だ!」
偽陣内ビシッ!
「本物陣内さんはもう9年生ですけどね」
「くっ」
本人以外のジャブが強すぎる。勝てない! 医学部か薬学部か歯学部以外だったら留年プラス再入学してない場合絶対に在籍9年には敵わない。通常の倍以上という異常な数字だ。
「僕ぁ8年生ですけどね」
「くはぁ」
陣内さんと小林さんだけで17年生だ! キャリア17年というと“球界の頭脳”と称された野村ID野球の申し子、古田敦也の現役年数にもう追いついてしまうほどだ。
格が違う。9年生ー!? しかも陣内さんは今年度再入学の1年生なのでまだ先は長い。10年大学にいても揺るがず金を出し続けて余裕な陣内家。親がすごすぎないとドラ息子は出来ないのだ。
「それに偽陣内はもういるから」
そう、9月の学祭でも偽陣内は出現した。しかしあの偽陣内は評価が底辺を彷徨っていた陣内さんが自身の懐の深さとカッコよさを再び訴えるために計った本物陣内さんの回し者の偽陣内さんの可能性が非常に高い。
「まずはしりとりだぞぉ! あ、から始めるかなぁ!」
「オイィィィ! マイペースが過ぎますよぉ!」
そして陣内さんと良崎はただの大声と銀魂ツッコミだとニセモノに思われてるのか。結構頑張ってるのになぁ、本物。
「行くぞぉ陣内! “愛”」
「……じゃあ“硫黄”」
「う? ……“浮世絵”」
「“えびす顔”」
地味だがあいうえお順で次の文字に繋がるしりとりだな。
愛→硫黄→浮世絵→えびす顔。
あいうえお順で必ず一つだけ進み、文字数は一つ増やす! 一手でこの法則に気付き応戦した偽陣内は非凡なものを感じるが、9年も国語を学んでいる本物陣内さんは反応速度が違う!
「お……“折原みか”!」
お→か で6文字だ。だが折原みか……。折原みか?
「フフッ」
「懐かしいですねぇ陣内さん」
長老二人にはウケている。何者だ、折原みか?
「折原みかってのはねぇみんな。正直出した方が負けなくらいな名前だ。伝説のラジオ番組『ケンドーコバヤシのテメオコ』に度々ゲスト出演したグラビアアイドルで、自分以外のグラビアアイドルは全員マクラ営業やってるとか、ほしのあきと熊田曜子は引退しろとか爆弾発言を繰り返した触れちゃいけないウソつきグラドルだよ」
「『ケンドーコバヤシのてめーは俺を怒らせた』の略で『テメオコ』だぞ。間違えるな。テメオコしてますかーから始まるアレ、なぁ!? 面白かったな」
「0時から1時までが『ケンドーコバヤシのテメオコ』、1時から3時までは『アンタッチャブルのシカゴマンゴ』! 懐かしいなぁ。そしてあれだよ。『シカゴマンゴ』が終わった頃にワールドシリーズで松井秀喜がMVPをとったっていうニュース速報がドーンと入ってきてねぇ。柴田の休養に伴って番組は終わったけれども」
ワールドシリーズMVP松井秀喜に柴田休養? 何年前だ……。だが12時から3時なんてド深夜までラジオを聞いていたということはこの二人はその頃にはそこそこの年齢だった。なのにまだ大学生!
「でも大丈夫。ちゃんと俺は録音してたからな」
「さすがですねぇ陣内さん。僕もまた聞きたいなぁ!」
「ああ、貸してやるよこばやっちゃん。“カセットデッキ”ごとな!」
ビシィッ! か→き で7文字だ!
「きぃ……」
偽陣内が『有吉の壁』でよくパンサー尾形が見せるような汗ダラダラの表情。ここから挽回することはまずない。
「この……ダボハゼが……」
「ダボハゼ? ダボハゼって言ったのか今。ゼニゴチが!」
「チ……」
ダボハゼ→ゼニゴチ。悪口っぽく聞こえる魚しりとりが発生しているが……
「チンアナゴ!」
「ゴリ!」
「リュウグウノツカイ!」
「イシダイ」
「イワシ!」
「シビレエイ」
「イイダコ!」
「コブダイ」
イ攻め!
「仕掛けてくる割に全部なまっちょろいなぁ。それとも純粋にドラ息子勝負するか? ちょっと待て。お前らに勝ったら賞金はいくらだ?」
「1000円だ」
「1000円か」
ここまで調子を取り戻しつつあった陣内さん、金額で曇る。
「だが本物陣内、俺がお袋の財布からパクった金額は通算で2万4000円にも上る」
「ほほぅ。ちなみに俺には妹がいるが、お前にはどうだ?」
「ああ、パンツを盗んだ」
……こいつ結構ヤバいな。偽仲間たちにもひかれているぞ。
「さぁ、お前のドラ息子自慢を聞かせてみろ陣内!」
「いや、ここは降参で」
「!?」
「降参で」
あっけない終わりだったな。
一文字進み&一文字増やししりとりで負け、魚しりとりで負け、母親の財布の金と妹のパンツを盗んだことだけ自供して仲間にまで引かれて何も得ず終了。しかも陣内さん&小林さんのスーパープロ大学生っぷりまで披露され、まだ一年も留年していない我々は慄いた!
9年生&8年生。4年で終わるはずの文学部日本文学科に入学した二人がこれだ。財布から2万4000円パクった程度では歯が立たないほどの損失を家計に与えているのだ。
「みんな、俺ももうちょっとだけ頑張れそう」
陣内さんは久しぶりにすごくいい笑顔だった。





