【その狂気! 貴様は断じて トキではない!】第15話 48時間精神と時の部屋体験 その14
「正直、アレ卑怯だよな?」
「マジ汚いですよ。つまんなければつまんないほど難易度上がるってどういうことですか」
「次アレが来た時は雨宮、お前はもう何もするな。……これ時間減らないよな?」
デン♪ デン♪ テーレレレンテレレーレーレー
「減りません」
天の声(鬼畜お姉さん)。なんだよ。あの人、なんだかんだでこの『48時間精神と時の部屋』に天の声として48時間付き合ってくれるのか? 何度も言うけどホントイイ女だよな。
「ハァ……。お、雨宮。『ドラゴンボールZ』終わったからDVD入れ直せ」
自分のせいで『お笑いのシカク』を落としてしまったことを気に病んでいるのか、雨宮さんがゲッソリしている。ゲッソリした雨宮さんがDVDを入れ直し、ホワイトボードに線を引く。
「あぁーあ。つまんねぇな!」
ハイジさんが悪態をついて寝転がる。
「これマジで80時間世界一周の方がよかったんじゃね?」
「あぁん? ブチ殺しますよ!?」
「どうした完璧超人始祖・拾式サイコマン」
「誰が“完幻”グリムリパーですか」
『80時間世界一周』と『48時間精神と時の部屋』、最終的な決断を下したのは良崎だ。ハイジさんはああなっているが、ぶっちゃけハイジさん以外はこのダラダラっぷり、気に入っている節が少なからずある。そういったハイジさん以外の反応が、良崎を救っているところがあったのだ。それをあんな言い方はなぁ。80時間世界一周だったら北海道で死ぬくせに。だが確かに敬語でキレるその様はパーフェクトオリジン・サイコマンだ。
「アルティメット阿修羅バスター!」
「ダイヤモンドパワー! 神威の断頭台!」
マスカラスマンと円谷くんが突如、手を振り上げ謎の威嚇ポーズをとりながら『キン肉マン』の技名を叫ぶ。
「どうしましたぁ!? フィヨルドに恋しちゃったんですか!?」
「どうしたお前ら。ラリったか?」
ハイジさんと良崎もヒいている。ニヘヘヘ、とマスカラスマンと円谷くんが変な微笑。
「大丈夫だよ陣内くん。ボクは大丈夫だ」
「当たり前だろうが。お前は助っ人だろ? しかも喫煙者だ。お前一人だけここに籠ってる時間も短くて喫煙と言うリフレッシュ手段がある。お前がイカれていいのは一番最後だ」
辛辣!
「大体円谷くん、お前は……なんだどうした!? なんだなんだ!?」
ゴゴゴと妙な音と同時にテレビが前後に揺れる。全員が周囲を見渡す。
「円谷くん! お前の超能力か!?」
「いや、ただの地震……いや、ちょっと大きめの地震かな。みんな! 身を低くして頭を守って!」
「頭を庇ったところで元からおかしいお前はモノが落ちてきても影響はねぇ」
どんだけ円谷くんに八つ当たりすれば気がすむんだ! しかしみんな円谷くんに従い、大勢を低くして頭を手で覆う。
「収まったかな?」
デン♪ デン♪ テーレレレンテレレーレーレー
「震度3の地震が起きました。大きな余震を想定し、『演劇サークル』の皆さまは、精神と時の部屋の中にある緊急事態装備の確認をしておいてください。この地震で大きな被害は確認されていません。繰り返します。震度3です」
鬼畜お姉さんの緊急地震速報。ホントイイ女だな。でも震度3程度じゃこの部屋からは出してくれんか……。
「緊急事態装備ってどこにあるんだ?」
「台所のマズそうな粉の近くに人数分あります」
あの食材と小型犬より小さい生き物には優しい鬼畜お姉さんにさえ「マズそうな粉」と言わしめるマズそうな粉よ! 本当にあの粉だけは食う気がしないな。
「じゃあちょっくら装備を確認すっかなぁ、と言いたいところだが悪いな円谷くん」
「またボク、何かしちゃいましたかい?」
「鬼畜お姉さんは人数分、と言った。つまり追加で来たお前の装備は多分ない」
「それでもボクは帰らせてくれ、とは言わないぜ! ボクはネバーセイネバーの円谷だ」
「そういう訳でお前は待機な。他は全員ついてこい」
【帰ってきたうぉくのふぉそみつ】
【帰ってきたうぉくのふぉそみつ】
「おいスゲェぞこれぇ! 見ろよ円谷くん!」
声がこもったハイジさんが大ハシャギ!
「ガスマスクだぜ!」
「ガスマスクかい!? ボクの分はないかなぁ! カッコいいぜ陣内くん!」
「それがなんと円谷くん……。お前の分のガスマスクは……あったぞ!」
「マジかい陣内くん! ボクたちガスマスク・ブラザーズじゃないか!」
なんだこのWWEのCMの茶番みたいなテンション。本当にシラフかこいつら。マズそうな粉吸ったんじゃないか?
ガポッと円谷くんもガスマスクを被り、親指を立て謎のテンション。
「でもこのガスマスクって本当に効果あんの?」
ガスマスク越しの星野さん、またもや頭の悪さがビシィッと露呈する。
「試したくはなるわな。この部屋無臭だからわかんねぇし」
全員がガスマスクで立ち尽くす。全員、ガスマスクを試したいのだ。ガスマスクを被れるという非日常! 我々の幼い好奇心を刺激すると同時に、この精神と時の部屋という閉鎖空間にガス攻撃が起きた場合への安心が欲しい!
「陣内」
「どうした星野」
「これで試せない?」
星野が持ってきたのは噴霧するタイプのゴキブリ殺虫剤である。
「風呂場を締め切り、ガスマスクを被ったままこれが空になるまで出し続ける。それで試せるよね?」
「お前にしては頭使ったな。やろうぜ」
もう俺たちの好奇心はヨダレでバシャバシャだ! 試すのは一人でもいいのに、全員ガスマスクを装着したまま風呂場に入る。
「あ、電気着けると換気扇が回るのか。仕方ない、暗いがこのまま行こう。3、2、1、0ゴォウ!」
星野が殺虫剤の噴霧を開始! みるみるうちに真っ暗な室内が曇っていく。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「あ、これ風呂張り直しですよね?」
良崎が沈黙に耐え兼ねた。
「当たり前だろうが。殺虫剤なくてももう10人近く入ってるんだぞ」
「……」
なんだこの空間……。ドサッ。
「なんだ今の?」
「大変だ陣内! 雨宮が倒れた!!」
星野の声が殺虫スプレーの霧を切り裂く!
雨宮さん、倒れる!
「何ィ!? 雨宮ァ!」
ハイジさん、良崎、星野、桜井が、風呂場に横たわる雨宮さんの肩を揺する。どうやらガスを吸ってしまったようだ。
「円谷くん! 今すぐ換気扇を回せ!」
「ガッテンテン!」
円谷くんも何か吸ったのかな? だがパチンと明りがつき、ゴウンゴウンと換気扇が回り始める。
「とりあえず雨宮を運び出すぞ。やれ、リーベルト、星野。俺が触るとセクハラになる」
「ガッテンテン!」
全員おかしくなってるか!?
そして雨宮さんは2006年パ・リーグプレーオフ第2ステージ第2戦で稲葉篤紀に粉砕されて立てなくなり、ズレータとカブレラに担がれて退場した元ソフトバンクホークス斉藤和巳のように風呂場を去る。
「何が起きた?」
「いや、俺にもわかりません」
桜井に聞いてもわからない。
「だろうな。本人に話を聞こう。雨宮のガスマスクだけ不良品だと本当の緊急事態で雨宮だけ死ぬからな」
ガスマスク遊戯はここまで。全員危険な風呂場を後にする。
「雨宮、無事か?」
ガスマスクをスポっと脱いだハイジさんが雨宮さんの顔色を窺う。真っ青だ!
「どうしたんだ?」
「あの……本当にガスが張ってるのか気になって……」
「!?」
\ ‗\ ‗| |‗ / /
―「!?」\「!?」|「!?」―
― 「!?」|「!?」/「!?」―
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「それでガスマスクを……外したのか?」
「はい……」
「はぇ……」
ハイジさんが眉を八の字にして口をいびつな形に開いて呆れる。そして!
パァン! 雨宮さんにビンタ一閃!
「この馬鹿野郎がッ! 炭疽菌やサリンだったら今のそのウカツな行動でお前は死んでるんだぞ! なぁ円谷くん!」
「そうだよ栞菜ちゃん。イエローガスだったら“帰ってきたウルトラマン”ことウルトラマンジャックでも死んじゃうんだぜ」
ハイジさん、年長者としてそこは危機管理のメリハリは徹底! 久々にリーダーとしての地位を確認できる行動だった。実際それは間違っていない。だが最後に雨宮さんを説得すべく円谷くんに意見を求めたのはショボい。
「本当にごめんなさい」
「退場!」
雨宮さんは泣き出してしまったがハイジさんからは無慈悲な退場宣言。
「頭冷えたら戻ってこい」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
自力で歩けるようになった雨宮さんが悲しく退場。クズめ! この部屋を作ったヤツ!
「……フゥー」
ハイジさんがため息をつく。
「俺のやりすぎか?」
「いえ、陣内さんは間違ってませんよ」
「お前だったらビンタじゃなくてグーパンだったけどな」
「あぁん? そういえばさっきわたしをサイコマンだとか抜かしましたね? 完璧・拾式奥義 輪廻転生落でサイフォンリングに沈めてやろうか!」
「雨宮は……気ぃ使っちまったのかな? さっきのお笑いステージのことがあったから」
「いや、気にしてるのは陣内さんくらいです」
「むしろそうであってほしかった。あれがハードなギャグだって。雨宮は素であんなにポンコツな訳じゃないって信じたかった。ドラゴンボール係と言う一番キツいポジションをやってたわけだし、雨宮には少し外で休んでもらう」





