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欺かれし者の日

今回で最終回です。最後までお付き合いくださったかた、本当にありがとうございました。

歴史的事実である「欺かれし者の日」と史実のシャルル・ダルタニャンの若き日の物語を織り交ぜて描いた小説でしたが、いかがだったでしょうか・・・。まあ、二次選考で落とされているんだから、小説の出来は客観的に見たらダメダメなのでしょうが、個人的には愛着のあった作品なもので・・・。

では、最終回ご覧ください!

八章 欺かれし者の日


 ルイ十三世の馬車が、リュクサンブール宮殿の正門をくぐった。

(国王陛下が、太后様のもとへ!)

 何ということだ、とポールは舌打ちした。わざわざ粗末な馬車に乗り、隠密でマリー太后の宮殿に入ったということは、リシュリュー枢機卿の目を欺くためだろう。

 勘のいいポールは、太后がいまから国王にリシュリューの罷免を迫るのだなと察した。そして、国王がリシュリューから宰相の地位を剥奪した後に、太后はマリー政権を復活させるのだ。

(これはいかん。急いでトレヴィル殿に報告せねば)

 ポールは馬首をめぐらして、トレヴィル邸に向かおうとした。そのときだった。

 ズダーン!

 弾丸が、ポールの左頬をかすめたのである。驚いたポールは落馬してしまった。

「ちぇっ、外したか。五年前にも、こんなことがあったな。あのときは、お前の馬に命中したはずだが」

 その声は、イギリスへの決死行を経験してからの五年間、ポールにとって恐怖の存在となっていた、あの男のものだった。

「な、なぜジュサックが? お、お前はバスティーユ牢獄に……」

 ポールは何とか身を起こして剣を抜いたが、さっき仰向けに倒れた衝撃のせいで、背中の傷口が開いたらしい。痛みが邪魔をして、満足に剣を振るえそうにない。逃げようにも、馬に乗る暇をジュサックが与えてくれるはずがなかった。

「俺はどうも銃の扱いが苦手だぜ。自分の手で殺しているという実感を味わえない。やはり、殺しは剣でズブリとやるのに限るな」

 短銃を懐にしまったジュサックは、右手にレイピア剣、左手にマンゴーシュをだらりと垂らして、ゆったりとポールに近づいて来た。太后の衛兵が五人、ジュサックに付き従っているが、彼らは味方であるこの殺人狂のことを恐れ、ジュサックとは一定の距離を保っていた。

「ポールよ。殺そうとして、二度も取り逃したのはお前が初めてだ。今日こそ俺の剣の餌食になってもらうぞ」

 コンスタンス、すまん。どうやら逃げられそうにない。ポールは心の中で、両想いになって半月も経っていない恋人に謝った。そして、ぎゅっと目をつむる。

 ジュサックは冷酷な微笑とともに、レイピアをポールの左胸に突きつけた。

「さらばだ、ポール・ダルタニャン!」

「キャンキャンと宮殿の外がうるさいと思ったら、枢機卿に捨てられた犬がこんなところにいるではないか」

 背後で聞き覚えのある声がして、驚いたジュサックは振り返った。

「ロシュフォール伯爵!」

 ロシュフォールが、傲然たる態度でジュサックをねめつけていた。彼の足もとでは、太后の衛兵たちが血を流して倒れている。

 シャルルたちと別れてから、ずっと宮殿内で太后と近臣たちの様子を探っていたロシュフォールは、国王が宮殿に入ったのを見て、リシュリュー枢機卿にこのことを報告するためにここを脱出しようとしていた。だが、正門で銃声が聞こえて、

(もしや、シャルルがやられたか?)

 と思い、駆けつけたのである。助ける義理など無かったが、あいつとは勝負がお預けになっている。俺の腕に一突きを食らわせておいて、勝手に死なれては困ると思ったのだ。

 が、いたのはシャルルの兄と脱獄者のジュサックだったわけだ。

「貴様、太后の命令で仲間だった護衛士たちを殺したな」

「俺を見限ったのは、枢機卿のほうが先だ」

 護衛隊にいたころは、枢機卿の腹心であるロシュフォールのことをうわべは敬っていたジュサックだが、もはや敵と味方である。ロシュフォールに対して、殺意を剥き出しにした。

「俺はおのれのためにしか剣を振るわない。ロシュフォール、お前こそ枢機卿の犬ではないか!」

 ジュサックは大きく踏み込み、ロシュフォールの喉元を狙って、渾身の突きを入れようとした。

 だが、突然、ジュサックの視界が暗闇に覆われたのである。ロシュフォールが自分の黒マントをジュサックの顔に投げつけたのだ。(何が起こった!)とさすがのジュサックも狼狽し、慌てて自分の顔にまとわりつく黒マントを取り除いた。

 その間が、命取りだった。

 ロシュフォールの俊敏な一突きが、ジュサックの右目を襲ったのである。

「こ、この! よくも俺の目を!」

 ジュサックは怒り狂ったが、右目に激痛が走り、剣を構える余裕すら無い。

 ロシュフォールはとどめを刺そうと、血刃をジュサックに向ける。しかし、そこで十数人の衛兵たちの怒鳴り声が聞こえてきた。

「曲者だ! 捕らえろ!」

 あと三十秒もすれば、衛兵たちはここに駆けつけて、ロシュフォールとポールを取り囲むだろう。

「やむを得ないな。ポール・ダルタニャン、逃げるぞ」

 ロシュフォールはポールの馬に飛び乗ると、呆然と決闘を見守っていたポールに手を貸し、自分の後ろに乗せた。

「プチ・リュクサンブールまでは、俺が運んでやる。振り落とされるなよ!」

 「はぁ!」と叫び、ロシュフォールは馬を走らせた。


 リュクサンブール宮殿は、にわかに騒々しくなった。

 自室で息子のルイ十三世を責め立てていたマリー太后のもとに、「宮殿の正門にロシュフォール伯爵が現れ、ジュサックに重傷を負わせて逃走した」という報告が入ると、彼女は髪の毛をかきむしりながら、激怒した。

「ルイ、聞きましたか! リシュリューの犬が私の宮殿を嗅ぎまわっていたのよ! あの男は、国母である私を陥れようと躍起になっているんだわ!」

 ルイ十三世は、げんなりとした顔をして何も答えない。「内密な話があるから、リシュリューに気取られぬように来なさい」と、夜明け前にマリー太后からの手紙が届いたときから嫌な予感はしていたが、やはりこのことであったか。

 母とリヨンで交わした約束を果たせ、リシュリューを罷免しろ、あの男を宰相にしていてはフランスが滅びる。リヨンで危篤状態にあったとき、発狂したくなるほど執拗に聞かされた言葉をマリー太后は再び喚き続けているのだ。

「ルイ。あなたはもしかして、母よりもリシュリューをとる気なの? あれだけ毛嫌いしていた陰険な男を?」

 マリー太后は声を震わして、息子の両肩を指が食い込むほどつかみ、叫んだ。太后も必死である。いまごろロシュフォールがリシュリューのもとに走り、国王と太后が密談をしていると報告しているに違いないのだ。あのずる賢い男は、奇策を使って事態をひっくり返す天才である。いますぐにでもルイ十三世にリシュリューを罷免すると言わせなければならなかった。

「リシュリューは無謀にも、『太陽の沈まない国』スペイン・ハプスブルク家と対決しようと考えている。そんなことをしたら、フランスは疲弊するばかりよ。私が摂政だったころのように、ハプスブルク家とは和睦するべきだわ。リシュリューにこの国の舵取りを任せてはいけない。ルイ、もう一度、母の手を取りなさい!」


 早朝に仮宮殿へ出仕したリシュリューは、国王不在と知って、

(マリーめに、してやられたか!)

 と、歯噛みした。ルイ十三世はどこに行ったのか。可能性として高いのは、リュクサンブール宮殿だ。しかし、宮殿に忍び込ませた護衛士たちは、ことごとく帰って来ず、何の情報も得られない状況だった。また、気まぐれな性格の国王なので、本当に約束をすっぽかして狩りに出かけた可能性も捨てきれない。

(確実な情報が得られないまま下手に動けば、自分の首を絞めかねんぞ)

 焦燥感を募らせながら、ひとまずプチ・リュクサンブールに戻ったリシュリューだったが、おのれの勝負運がまだ尽きていないことをすぐに知るのである。

 謹慎中だったはずのロシュフォールが、「国王陛下はリュクサンブール宮殿にあり」という確実な情報をもたらしたのである。

「ロシュフォール、それはまことか!」

「はい。粗末な一頭立ての馬車から、国王陛下がお降りになるのをこの目で見ました」

 ということは、マリー太后はいまごろルイ十三世にリシュリューの罷免を迫っているのだろう。これを阻止しなければ、マリー派一掃計画が失敗するどころか、リシュリュー自身の身が危うくなる。

「リュクサンブール宮殿に行かねば。あのイタリア女の陰謀を止めてやる」

「お待ちください、叔父上。行ってはなりません」

 リュクサンブール宮殿に向かおうとしたリシュリューを制止したのは、リシュリューの姪、コンバレ夫人だった。この年若い姪はリシュリューと同居しており、叔父であるリシュリューとは秘密の恋人関係にある。そのコンバレ夫人が、愛する叔父の身を心配して、敵地に飛び込んではならないとリシュリューを諌めたのだ。

「太后様が叔父上の顔を見たら、あの方はきっと癇癪を起こされるでしょう。私を行かせてください。女同士なら、少しは冷静に話し合えるでしょうから」

 そう言い、コンバレ夫人はリュクサンブール宮殿に向かった。だが、すでに狂乱状態だったマリー太后は、コンバレ夫人を叩き出してしまったのである。

「やはり、私が行くしかない」

 馬車の用意をせよ。リシュリューが召使に指示すると、

「このロシュフォールめも、お供させてください」

 と、どこまでも忠実な剣士がそう願い出た。しかし、リシュリューは頭を振った。

「私は、戦うために行くのではない。陛下に我が身を投げ出すのだ。だから、身の安全を心配して剣士を連れて行くわけにはいかん」

 朝から膀胱の痛みが甚だしい。心労からか、目眩もひどかった。家族内の問題が原因で母に聖職者になってくれと頼まれたとき、大人しく頷いて軍人の道を諦めたのも、この身体の弱さが原因の一つだった。

(だが、私はここまで登りつめたのだ。諦めてなるものか。這ってでも、陛下に拝謁するぞ)

 リュクサンブール宮殿に到着すると、太后の衛兵たちがリシュリューを遮ったが、

「私は枢機卿であり、宰相だ! この私に鉄槌を下せるのは、神と国王しかおらん!」

 死にかけの老人のような病体のどこにそんな力が隠されているのか、大喝一声、邪魔する者たちを退けた。

「リシュリュー枢機卿がこの宮殿に?」

 報告を受けて、まるで妻に浮気がばれた夫のように動揺したのは、ルイ十三世だった。

(まずい。リシュリューをこの部屋に入れてはならない)

 マリー太后は侍女たちに命じて、自室の扉を全て閉じさせ、リシュリューが侵入できないようにした。

 ルイ十三世は、聖職者なくせして陰険で傲岸不遜なリシュリューという人間が嫌いだ。しかし、政治家としては彼のことを尊敬している。ルイ十三世とリシュリューが、切っても切れぬ関係にあることをマリー太后は知っていた。だから、国王と宰相を会わせてはならない。

「陛下、太后様。どうかここを開けてください。リシュリューでございます」

 ドン、ドン、ドン。ドン、ドン、ドン。マリー太后の部屋で、扉を叩く音が響く。

「り、リシュリュー……」

 国王が迷っているのは、はた目からもよく分かった。この息子は、母を信用せず、あの成り上がりの聖職者を頼みにしているのか。コンバレ夫人に罵詈雑言を浴びせたときよりも、さらに狂おしい怒りがマリー太后の心を支配した。

「そんなにリシュリューと会いたいの? だったら会ってもいいわよ。ただし、あの男に宰相職の解任を通達するときにしてちょうだい!」

「は、母上。落ち着いてください。扉を叩く音がおさまりましたぞ。き、きっと、リシュリューは諦めて帰ったのでしょう。で、ですから、少し冷静に……」

 ルイ十三世は、野獣のように吠える母の狂気に震え上がり、このまま絞め殺されるのではと危険を感じた。早くこの部屋から逃げ出さないと。いったいどうすれば?

「陛下、私はまだ帰ってはおりませぬ」

「り、リシュリュー、あなた……!」

 マリー太后は驚愕した。ルイ十三世も呆然としている。赤の僧衣を着た宰相が、いつの間にか目の前に立っていたのである。

「太后様。礼拝堂からこの部屋へと通じる、秘密通路の存在をお忘れでしたか?」

 カツン、カツンと静かな足音とともに、リシュリューは国王と太后に歩み寄ろうとした。だが、太后はそれを許さなかった。

「リシュリュー! それ以上、近づくな! 恥知らずめ!」

 ルイ十三世まであと五歩というところで、リシュリューはピタリと立ち止まり、「偉大なるブルボン王家の国王陛下」と言って跪いた。

「私は、これまで無私の精神で国家に忠義を尽くしてきました。そして、これからもブルボン王家のためにこの命をなげうつ覚悟です」

 ルイ十三世は、青ざめた顔でリシュリューの言葉を聞いている。マリー太后は、国王の腕を女とは思えない怪力で握り締めながら、リシュリューを睨みすえていた。

「あなたにそんなご大層な覚悟があるとは思えないわね」

「お聞きください、陛下。我が父フランソワは、私が五歳のときに戦争で死にました。父には莫大な借金があり、私たち遺族は危うく路頭に迷うところだったのです。それを助けてくださったのが、陛下のお父君、先王アンリ四世陛下でした。

 先王陛下は、『忠実な臣下であったフランソワの家族を見捨てることはできぬ』と三万六千リーヴルの金を我ら家族に下さり、そのおかげで私は貴族としての教育を受けることができました。いまのリシュリューがあるのは、全てブルボン王家の恩寵あればこそ。私はそのご恩を先王の御子である現国王陛下に全身全霊をもって返す覚悟です」

「先王、先王とうるさいっ!」

 もはや女の声とも人の声ともつかぬ、けたたましい喚き声を上げ、マリー太后はリシュリューに駆け寄った。そして、手のひらが血でにじむほど強く握りしめた拳を振り上げ、リシュリューの右頬を殴った。さらに、左頬を平手打ちし、また右頬を叩き、「先王だと! あの女狂いのアンリがどうした! 私を辱めた夫を称えるのか! そうか、お前は最初から私を裏切っていたのか! 私に微笑みながら、私が先王の政策を破棄していくのを憎々しく思っていたのだろう! なぜだ、アンリ! ルイ! リシュリュー! なぜ男どもはみんな私を裏切る!」

 これは死ぬ、とルイ十三世は焦った。早く終わらせないと、母が狂い死にするか、リシュリューが撲殺される。

「リシュリュー! 部屋から退出せよ!」

 夢中になって、ルイ十三世は叫んだ。ようやく発せられた国王の言葉に、マリー太后とリシュリューはハッとする。

「……ポントワーズ(フランス中央部)にて、謹慎を命じる」

 それは、マリー太后の勝利とリシュリューの敗北を意味する命令だった。


 マリー太后は狂喜した。あの憎き裏切り者のリシュリューをついに退けたのである。そして、それはルイ十三世が太后の毒牙から自分を守ってくれる最大の味方を自ら遠ざけたことを意味した。国王に見捨てられ、権力を奪われ、意気消沈したリシュリューは、これ以降、太后のやることに何の手出しもできないだろう。国王の信任を失ったリシュリューなどただの病弱な中年男であり、リシュリューの後ろ盾を失ったルイ十三世など自分の身も守れない軟弱な国王である。

(リシュリューを解任するという役目を終えた不幸息子には、さっさとあの世へ行ってもらおう)

 あとはアンヌ王妃がルイ十三世の毒殺に成功すればいい。そして、国王の死を秘匿し、国璽を所持している法務大臣ミシェル・ド・マリヤックが、「宰相の地位を剥奪されたリシュリューが反乱を企てている。彼の一派を討て」という偽の王命を下す。すでに謹慎を言い渡されているリシュリューに味方する貴族、軍人などはいないはずだ。リシュリュー一派を壊滅させ、事態が落ち着いた後、王弟オルレアン公ガストンを即位させ、その後見としてマリー太后が政治を行なうのだ。

「急いで新政権の準備をしないと。こんな大事なときにガストンはどこへ行ったの?」

 負け犬リシュリューが宮殿を去り、憔悴しきったルイ十三世が仮宮殿に帰ると、マリー太后はミシェル・ド・マリヤック法務大臣を呼び出して、新マリー政権の大臣を決めるための会議を始めようとした。しかし、肝心の次期国王が宮殿内にいないのである。

「今朝、従者らしき少年二人を従えて、大廊下を歩いていらっしゃるのを見ましたが……」

 玉座の間に集まった貴族の一人がそう言うと、他の人々も「そういえば私も見た」「少年二人と一緒だった」「しかし、どうも様子が変だったような」と口々に言い合った。

 マリー太后が不審に思い始めたとき、一人の衛兵が血相を変えて走って来て、二つの報告をした。

 この報告を聞いて、マリー太后は青ざめた。一つ目の報告は、ガストンが罪人の間で糞をもらしながら気絶していたというもの。その報告に太后は十分驚いたのだが、さらに太后を狼狽させたのは、二つ目の報告である。罪人の間にいるべき人間、シャルロットが消えていたというのだ。


 シャルルとアトスは運がよかった。

 シャルロットを発見して、いざ隠し通路のある広間まで戻ろうとした同時刻、リュクサンブール宮殿に国王ルイ十三世が到着し、宮殿の正門付近ではロシュフォールとポールがジュサックら太后の衛兵を相手に騒動を起こしていた。

「太后様のお部屋の警戒を厳重にしろ、もっと衛兵をこちらに回せ!」

「曲者だ! 正門に侵入者がいるぞ! 強敵だ、正門に衛兵をもっと送れ!」

 宮殿内の人々は国王の警護、曲者の来襲におおわらわとなり、子ども三人が廊下をうろうろしているのを見ても、見咎められなかったのである。

 シャルルたちは無事に隠し通路を使って宮殿を脱出し、画家フィリップの家に戻って来た。あとは、トレヴィルにシャルロット救出を報告するだけだ。

「シャルロット、あとほんの少しだけ辛抱していてくれよ」

 シャルルは、アトスに背負われているシャルロットを励ます。シャルロットは、高熱で苦しいはずなのに、「うん、だいじょうぶ」と笑ってみせた。我慢強い子だ。

 シャルルたちは、トレヴィルのもとへ帰還する前に、仮宮殿へ急ぎ向かった。救い出したら、シャルロットの無事な姿を一目だけでも見せて欲しいとアンヌ王妃が頼んでいたためである。

シャルルとアトスは仮宮殿の庭で王妃に謁見した。以前、シャルルがアンヌ王妃と初めて会った場所である。

 アンヌ王妃は、ぼろぼろになりながらも生還したシャルロットと対面して、昨日からもう何度目か分からない涙を流して喜んだ。

「ごめんね、シャルロット。私のせいで……」

 シャルルは、アンヌ王妃がシャルロットを力いっぱい抱きしめる光景を見て、ようやく任務の達成を実感した。ほっと一息ついたが、そういえばアトスはシャルロットの素性をトレヴィル殿から聞いているのだろうかと疑問に思い、友人の顔を見た。

「…………」

 ひどく複雑そうな表情でアトスはシャルロットのことを見つめている。おおかたの事情は知っているのかなと一人納得し、今度は一日振りに見る愛しのコンスタンスのほうを向いた。しかし、彼女もシャルロットの無事を喜んではいるがどことなく浮かない顔である。

(シャルロットが戻って来たのに、他に心配ごとでもあるのだろうか?)

 シャルルは、自分がシャルロットを連れ帰ってきたら、コンスタンスはもっと喜んでくれるものだと思っていたので、少しがっかりである。コンスタンスが兄ポールの心配をしていることなど、知るよしも無かった。

 そんなことをシャルルがああだこうだと考えている間にも、アンヌ王妃がシャルロットに別れを告げようとしていた。

「これからは、シャルロットはコンスタンスの家で暮らすのよ」

「…………」

「あなたは私のそばにいたら幸せになれない……。ごめんね、勝手にフランスまで連れて来て。迷惑だったでしょ? でも、私はあなたといられて本当に……」

「あそびにくるね。おうひさまが、さびしくなったら。コンスタンスにたのんで、あそびにくるね」

 身代わりの愛情だったと知りつつも、孤独な王妃のことを可哀想だと思ったシャルロットは、怪しい発音のフランス語でそう言った。

アンヌ王妃は、シャルロットのその優しさに胸を締め付けられそうになった。シャルロットは王妃とはもう会えない、会ってはいけないのだ。この子はバッキンガム公爵の娘で、アンヌ・ドートリッシュはフランス国王の王妃なのだから……。

「ごめんね、シャルロット。私たちは、もう……」

「会えるときが来ますよ。いつか、きっと」

 コンスタンスが、シャルロットの頭を撫でながら、アンヌ王妃を見つめて言った。

「そのときまで、私が責任をもってシャルロットをお預かりします」


 ルイ十三世が仮宮殿に帰還したのは、シャルルたちがシャルロットを伴ってトレヴィル邸に向かった二時間ほど後のことだった。コンスタンスはアンヌ王妃を心配してとどまろうとしたが、

「私はもう大丈夫。マリー太后の味方なんてしないから、あなたもトレヴィル邸に行きなさい。そして、病気のシャルロットの看病をしてあげて。これは命令よ」

 と、王妃が強く言ったため、後ろ髪を引かれる思いで仮宮殿から退出した。王妃は、コンスタンスがポールの身を案じていることを察していたのである。

 そう、シャルルとアトスがシャルロットを救出したことによって、マリー太后の陰謀は崩壊しつつあった。アンヌ王妃は、太后から離反したのだ。

「……アンヌ。珍しいな、君が朕の帰りを出迎えてくれるなんて」

 ルイ十三世が回廊を歩いていると、いつもは夫の帰りなど知らぬ顔のアンヌ王妃が待ち構えていた。

 母の修羅に接して心身ともに憔悴しているルイ十三世と、一晩中愛憎の思いに苦しみ泣き疲れたアンヌ王妃が、数年ぶりに真正面から向き合い、おたがいの顔を見つめ合う。

「何だ、その小瓶は」

 ルイ十三世は、妻が透明な液体の入った小瓶を指し出したので、不審に思いつつもそれを受け取った。アンヌ王妃は興奮しているらしく、過呼吸ぎみである。

「それは、昨日、太后様から渡されたのよ」

「母上から?」

 香水か何かだろうかと思ったルイ十三世は、小瓶のフタを開けようとする。アンヌ王妃が、震える声で、しかし、はっきりとした大きな声で「だめよ!」と叫んだ。

「開けたら、だめよ。それは猛毒なの。太后様が、ルイの食事に混ぜろと私に渡した……」

「まさか。何を言っているんだ、君は」

 悪い冗談だろうとルイ十三世は一笑に付そうとした。愛想の無い妻もたまには面白いことを言う。笑いながら、彼女の顔を見た。

 王妃の美しい顔は異様にひきつっており、恐怖のためか身体は指の先まで震えている。懸命に何かを言おうと、「あ、あ、あ……」と口を開け閉めして、ついに、

「わ、私、お義母様にあなたを殺せって言われたの」

 そう告げたのである。その言葉を聞いて、ルイ十三世はよろめいた。ガンガンと頭が痛くなってきて、母マリーの悪魔のような怒鳴り声が耳の中で壊れた教会の鐘のように響き、「そ、そんな……。まさか……」とうめき声をあげながら両耳をふさいだ。

 そして、少年王だったころに聞いてしまい、記憶の奥底に閉じ込めていたはずの侍女たちの噂話が、ふいに蘇った。

「マリー様が……先王陛下を……した」

 ああ、そうだった。なぜ忘れていたのか。いや、忘れようとしていたのだ。母がそんな人であって欲しくないと願って。

「る、ルイ? しっかりして」

 顔や手足の痙攣を起こしかけていたルイ十三世の肩をアンヌ王妃が揺する。

「触れないでくれ!」

 パシンッと、国王は王妃の頬をぶった。王妃の白い頬が赤く染まる。

「ごめんなさい、ルイ。でも、私はあなたのことを殺したくなんて……」

「殺そうかと迷ったんだろ! まる一日、悩んでいたんだろう!」

 ルイ十三世は、取りすがろうとするアンヌ王妃を突き飛ばした。

 倒れた王妃は、童女のように号泣して、「だって、だって」と連呼した。

「だって、あなたは私を愛してくれないじゃない!」

「そんなこと、よく言えたものだ。朕をこんなにも苦しめているくせに」

 国王は自らの頭部に手をやると、人前にいるときはけっして外さないそれをもぎ取るようにして外し、床に叩きつけた。それは、国王の頭を覆っていた黒髪のカツラだった。

「君がイギリスの公爵と浮気している間、朕が苦しんでいないとでも思っていたのか? 嫉妬のあまり、物狂おしい夜を送っていないとでも思っていたのか?」

 ほとんど毛髪のない頭を両手で覆い、ルイ十三世は叫んだ。

「ああ! これだから、女は信用できない!」

 アンヌ王妃は、夫が去った後の廊下で泣き崩れることしかできなかった。

 愛も、恋も、最後には人を傷つける。十四歳で出会った、同い年の若き国王と王妃が抱いた初恋の甘い感情は、十五年の歳月の間に、嫉妬と憎悪によって黒々と塗り潰されてしまっていたのである。

 永遠の愛など、この世には存在しないのだろうか。


 一方、ポールの報告により、ルイ十三世がマリー太后のもとにいることを知ったトレヴィルは、国王の身を案じつつ、じっとシャルルたちの帰還を待っていた。マリー太后が、リシュリューの言う通り国王に害意があったとしても、自分の宮殿内で国王殺害に及ぶ心配は無いだろうが、あの女性は逆上したら暴挙に出る可能性がある。

「トレヴィル殿、シャルルとアトスが無事に任務を果たして戻りました」

 側近の銃士がそう報告したのは、国王がリシュリューに謹慎の命令を下したという情報が入った三十分ほど後だった。正午までに帰還するようにという命令だったが、正午になるちょうど一分前であった。

「そうか……。やりおったか……」

 焦り、苛立ち、不安など様々な感情を押し殺して、トレヴィルはこの吉報を待っていたのだ。トレヴィルは大きく頷き「シャルルたちをここに呼びなさい。君たちは出撃の命令が下るまで待機するように」と銃士に指示を与えた。そして、興奮した声で「勝ったぞ……」と呟いたのである。

(マリー太后はリシュリューに勝ったが、シャルルに負けた。あの少年、リシュリューが固執するだけのことはあるな)

 トレヴィルは、机の引き出しから小瓶を取り出して、窓から屋敷の外に放り投げた。瓶は庭で跡形も無く砕け散り、ルイ十三世の命を奪うはずだった毒はトレヴィル邸の庭の一輪の花だけを枯らして地中に消えた。昨日のうちにコンスタンスが、本物と偽物をこっそり取り替えて、トレヴィルに毒入りの小瓶を渡していたのである。

 いまごろ、ルイ十三世はアンヌ王妃から何もかもを聞かされ、リュクサンブール宮殿でマリー太后と約束したリシュリュー罷免の決断を翻しているはずだ。近衛銃士隊の出番はもうすぐである。

「トレヴィル殿、失礼します」

「おお! シャルル! アトス! よく帰った!」

 ガスコンの少年二人が部屋に入ってくると、トレヴィルは二人まとめて抱き締め、「でかした、でかした」と褒めてやった。シャルルとアトスは顔を見合わせて、照れくさそうに笑った。親にもこんなに手放しで褒められたことが無いため、少し恥ずかしいのだ。

「トレヴィル殿、俺は銃士としての資質を証明できたでしょうか?」

「もちろんだ、シャルル。いまこのときをもって、二人を近衛銃士の見習いとする」

 「やった!」と二人は叫び、小躍りした。まだ銃士隊の隊服は着られないが、これは自分たちの夢のための大きな前進である。

「君たち、国王陛下が枢機卿に謹慎を命じたことは知っているか」

「え? 初耳です!」

「だが、今日中に覆るだろう。そして、マリー派を逮捕せよとの王命が下る。そのときは、君たちも近衛銃士隊と行動をともにして働くのだ」

「承知しました!」

 シャルルとアトスは、胸の高鳴りを感じながら拝命した。

「うむ。いまは命令があるまで、身体を休めていなさい。……そういえば、シャルロットは病気だと聞いていたが、いま誰があの子の面倒を見ているのだ」

「コンスタンスです。シャルロットの看病をせよとの王妃様のご命令ですので」

 シャルルがそう言うと、トレヴィルは「そうか。コンスタンスが戻って来ているのか」と呟き、しばらく何ごとかを悩んでいる様子だったが、

「一昨日、君たちが寝泊りした部屋にポールがいる。シャルル、悪いがポールにコンスタンスが帰って来たことを知らせてやってはくれないか」

「はぁ」

 なぜ兄貴にコンスタンスの所在を教える必要があるのかと、シャルルは首を傾げた。だが、トレヴィルの指示なので黙って従い、ポールのもとに行って、コンスタンスがシャルロットといる部屋まで案内した。

 その後のことは、記憶が曖昧である。あのときの想い人と兄のやりとりを詳しく思い出せないのだ。ただ、ポールがコンスタンスの唇に顔を近づけたとき、

「シャルルさんとシャルロットがいるから……」

 コンスタンスが恥らって顔をそらした場面だけは、シャルルの心に鮮明に刻み込まれ、永遠に忘れることはなかったのである。

 泣きたくなるほど、そのときの彼女は美しかった。


 その日の夜。

 マリー太后が陰謀の失敗を予感して近臣たちに喚き散らしているころ、国王ルイ十三世はリシュリューをヴェルサイユに呼び出していた。

 後年、太陽王ルイ十四世の絶大なる権力の象徴となったヴェルサイユ宮殿だが、このころはルイ十三世が狩りの休息をするための館に過ぎなかった。

「我が宰相よ、来たか」

 投獄、国外追放……いや、処刑もありえるだろうと観念して国王の前に跪いていたリシュリューは、国王に「宰相」と呼ばれたことに驚き、顔を上げた。ルイ十三世は愛用の椅子に腰かけてリシュリューを見下ろしているが、いまにも椅子から崩れ落ちそうなほどに衰弱しているように見える。先月まで死の床にあった身体だ。奇跡的に助かったといっても、もともと病弱な国王がすぐに万全な健康状態になるはずがない。わずか一日の変事で、めっきり頬が痩せこけていた。

「ひとつだけ、リシュリューに聞いておきたいことがある」

「ははっ。何なりと」

「現在、我が国は、王妃の実家であるスペインや神聖ローマ帝国と対立する姿勢をとっている。ハプスブルク家は強大だ。母上も指摘されていた通り、これは危険な戦いとなるだろう。それでも戦うのか?」

「強大ゆえに、戦わねばなりません。ハプスブルク家、中でも『太陽の沈まない国』スペインの勢威は、ヨーロッパの国々を覆うほどです。これを放置すれば、フランスもやがてスペインに呑み込まれるでしょう。ですが、その『太陽の沈まない国』に勝利したとき、フランスは大きく成長します。その成長こそが、我が夢の達成へとつながるのです」

「その夢とは、いったい何のことだ」

 ルイ十三世が、身を乗り出して問うた。リシュリューは国王を仰ぎ見る。

「フランス国王を、太陽の王とすること」

 沈まぬ太陽などはない。スペインの栄華もいずれ終わる。このリシュリューが終わらせる。そのとき、スペインに代わって、ヨーロッパに燦然と輝く国家はフランスでなければならない。フランス・ブルボン王家の国王を太陽そのものの絶対的な君主とするのだ。

「できるのか、そんなことが。年中病気に苦しんでいる病弱な国王と宰相が実現できるのか?」

「仰せの通り、陛下と私は長生きなど望めぬ病身です。だからこそ、神より賜った一日、一日を懸命に生きねばならない。死と隣り合わせの二人だからこそ、大きな野心を抱き、太く短く生きる道を歩むのです。たとえそれが実現の難しい果て無き夢への道のりであったとしても……」

「太陽の王……。それが、我ら主従の果て無き夢だということか。……そなたに、その夢への舵取りを任せてもよいのだな?」

「私の第一の目標は国王陛下の尊厳、第二の目標はフランス王国の盛大。どうかこのリシュリューめに全てをお任せください」

「朕は、そなたのことがこの世で最も嫌いだ。だが、最も信頼しているのも、そなただ」

 ルイ十三世は、リシュリューの手を取った。この瞬間、国王は母と決別したのである。


 深夜、マリー太后の一味と目された法務大臣ミシェル・ド・マリヤック、ルイ・ド・マリヤック元帥、バッソンピエール元帥らを逮捕するべしとの王命が近衛銃士隊に下った。

 銃士隊の動きは迅速で、直属の兵士たちを集めて抵抗を試みようと企てていたマリヤック元帥の屋敷を準備が整わないうちに襲撃した。

「ちぃっ! 病弱な国王の犬どもにしては行動が速すぎる! ええい、こうなったら、囲みを破ってパリから逃亡するぞ!」

マリヤック元帥は五十数人の手勢で迎え撃ち、銃士隊長モンタラン卿と隊長代理トレヴィルが率いる銃士隊精鋭二十人と激突した。この精鋭隊の中にシャルルとアトスも加わり、マリヤック元帥の兵たちと戦った。しかし、どういうわけか、シャルルの剣さばきにいつものような冴えが無い。敵に後れを取り、危ういところをアトスに助けられるという場面が二度、三度とあった。

「いったい、どうしたんだ、シャルル! ぼさっとしていると死ぬぞ!」

 アトスに叱られ、自分もこれではいかんと思っているのだが、力を振り絞って戦おうとすると、コンスタンスの笑顔が、泣いた顔が、怒った顔が、そして、頬を赤らめた顔が、シャルルの目の前に現れ、胸を締めつけるのである。言い表しようも無い苦みを伴って。

「死ねぇ! ガキども!」

 シャルルをかばいながら戦っていたアトスが不覚にも剣を取り落した直後、屈強の兵士が猛獣のような雄叫びとともに斬りかかってきた。(しまった!)とシャルルとアトスが死を覚悟したとき、

「きぇぇぇぇぇぇい! ひょぉぉぉぉぉ!」

 小人の妖精のようなおっさんが奇声を上げながら信じられない跳躍力で屈強の兵士に飛びかかり、空中で剣を三突き、敵兵を絶命させたのである。

「危なかったのう、油断するなよ」

 なんと銃士隊長モンタラン卿だった。トレヴィルに銃士隊を任せっきりの頼りないおっさんだとばかりシャルルは思っていたのだが、相当な剣の使い手のようである。やはり、この人もガスコンの戦士なのだ。

「ルイ・ド・マリヤック元帥! 国王陛下のご命令により、貴様を逮捕する! 大人しく縛につけ!」

「黙れ、トレヴィル! そのような大口は、儂を倒してからにしろ!」

 猛者ぞろいの銃士隊が、数で勝るマリヤック元帥の手勢を圧倒し、追い詰められたマリヤック元帥はついにトレヴィルに対して一騎打ちを挑んだ。フランス最強の剣士と称されるトレヴィルを殺せば、逆転できると考えたのである。マリヤック元帥とて数多の戦争で軍功を重ねた武人だ。「トレヴィルだけが勇士ではないぞ」という負けん気があった。

「さあ来い、トレヴィル。三分だ、三分で片づけてやる!」

「ならば、俺は三秒で貴様を倒そう」

「な、なんだと? おのれ! 儂を愚弄する――」

 「愚弄する気か」と最後まで言い終えるまでに、マリヤック元帥は吐血し、仰向けにぶっ倒れていた。トレヴィルがマリヤック元帥の懐に飛び込み、剣で右胸を貫くまで三秒もかかっていない。まさに神速の技、マリヤック元帥は自分がやられたことも知らず、気絶していた。この法務大臣の弟は、裁判の後に処刑される。

「シャルル、アトス。マリヤック元帥をきつく縛れ。連行するぞ」

 剣を鞘におさめたトレヴィルは、ガスコンの少年二人にそう命じた。数十分にわたる乱戦の後だというのに、まったく息が乱れていない。シャルルとアトスは(破格の強さだ……)と舌を巻くのであった。

 こうしてマリヤック元帥を逮捕したトレヴィルら銃士隊本隊は、別働隊の応援へと向かった。他のマリー派の人物たち――ミシェル・ド・マリヤックやバッソンピエールらを逮捕しなければならない。


 優秀な軍人として人々の信望が篤かったバッソンピエールは、反リシュリュー派だったが、国王を害そうとする計画については知らなかった。先王アンリ四世以来の古参の将ゆえに、その陰謀を知ればマリー派を裏切るとマリー太后に警戒されていたからである。

「さあ、君たち。罪無き者を連行するがいい」

 バッソンピエールは、何一つ抵抗せずに逮捕された。彼はリシュリューが死ぬまでの十二年間、バスティーユ牢獄に監禁されることになる。

 行方が分からないのは、マリー派最大の大物、ミシェル・ド・マリヤックだった。彼は国家の印章である国璽を管理する国璽尚書の職にもついていて、国王の偽の命令書をつくることができる。ミシェルから国璽を奪わなければ、偽りの王命を乱発されて国内が混乱するおそれがあるのだ。

「太后様が、リュクサンブール宮殿に匿っているのでは?」

 ポールがトレヴィルにそう言った。ミシェルの屋敷、親族の家は言うに及ばず、パリの街中を銃士たち、枢機卿の護衛士たちが捜し回っても発見できない。ならば、太后が宮殿内にミシェルを隠している可能性が高いと考えたのである。

 陰謀の中心人物であっても、マリー太后は国母だ。命を狙われたとはいえ、実の母に罪を問うことをルイ十三世がためらったため、太后を捕らえろという王命は下らなかった。そのため、誰もマリー太后とその宮殿に手出しはできないのである。

 だが、トレヴィルは「それは無い」と頭を振った。

「太后様とて、反逆罪容疑で逮捕状が出ている人間を匿うような愚は犯さないだろう。おそらく、太后様は法務大臣をパリの外に逃がそうとしているに違いない。大臣がパリを脱出するまでに、何としてでも彼を見つけ出すのだ」

 トレヴィルの読み通り、マリー太后は逮捕状が出された近臣たちを慌ててリュクサンブール宮殿の外に出した。だが、太后にとって大きな切り札の一つであった国璽を所持するミシェルだけは、国王側に手渡してはいけないと考えたのだ。

「ジュサック。あなた、まだ剣は使えるの?」

「片目を失ったぐらい、何の問題もありません。いや、この面白き、血なまぐさい夜に命のやりとりができると思うと、いつもよりも剣が冴えそうです」

 マリー太后は、ジュサックと三人の手だれの剣士を呼び、ミシェルを護衛してパリの外まで脱出させるように命じたのである。

 老体のミシェルは、四人の屈強な剣士たちに囲まれて、怯えながらリュクサンブール宮殿を馬車で出ると、コンピエーニュ城を目指した。コンピエーニュは、マリー太后が、陰謀が失敗してパリにいられなくなったときの逃走先の一つとして考えていた城である。

 ミシェルの馬車がパリの出口の一つ、北東のヴィレット門のすぐ近くまでたどりついた。これで助かると老大臣は安堵のため息をつく。だが、門を目の前にしたとき、夜空から一人の少年が降ってきて、馬車の屋根の上に落ちたのである。


 時間を遡ること、数分前。

 ヴィレット門の警戒にあたっていた二人の銃士見習いが、門の近くに建つ民家の屋根の上で揉めていた。高いところから町を見下ろして、不審人物を捜そうとしていたのだが……。

「アトス。俺を殴ってくれ」

 午後からずっと元気が無く、押し黙ったままだったシャルルが、いきなり口を開いたのである。先刻のマリヤック元帥との戦いにおいては、シャルルは腑抜けみたいになり、まったく戦力にならなかった。そんな友人のことをずっと心配していたアトスだったが、急に変なお願いをされて、眉をひそめた。

「断る。理由も無く、友を殴りたくない」

「あるんだ、ちゃんとした理由が。俺の気合を入れ直して欲しい」

 いたって真面目な顔でシャルルが言うので、どうしたものかとアトスも困り果てた。

「何か、あったのか」

「失恋した」

「ば」

 馬鹿か、こんなときに。そう危うく言いかけて、アトスは口をつぐんだ。アトスはまだ恋をしたことがない。恋を知らないのに、そんな無神経なことを言う資格は、自分には無いと思ったのである。

「ええと……コンスタンスに振られたか?」

「振られる以前の話だった。この十一日間、俺は一人で空回っていただけで……。ああ、もう! 俺はコンスタンスが好きだった。短い初恋だったが、幸せだった。それでいいではないか。コンスタンスは俺に優しい気持ちを与えてくれたんだ。彼女のことで、こんなにもじめじめしたくないのに、俺は情けない男だ!」

「物理的に殴られて、気持ちの整理がつくものなのか?」

「殴られてみないと分からん!」

「だったら、後にしようぜ。いまは任務中だぞ。それに、こんな足場の悪いところで」

「落っこちても構わないから、いますぐ思いっきり殴ってくれ。俺は立ち止まってはいられないんだよ。初恋は終わった。すっきり忘れて、前に進みたいんだ」

 アトスは、やれやれとため息をつくと、「だったら、いくぞ」と合図をしてシャルルの右頬を殴りつけた。異様に頬骨が硬く、殴った側のアトスの左拳がひりひり痛んだ。

「もう一発、頼む。今度は左頬を。護衛士にやられた右手の怪我は、もうほとんど治っているんだろ? 手加減するなよ」

 アトスが「もう勘弁してくれ」と言おうとしたときだった。馬のいななきと車輪の音が聞こえてきたのである。シャルルもそれに気がつき、「あそこだ。こっちに来るぞ」と指差した。もしかすると、ミシェルという大臣の馬車かも知れない。

「さあ、アトス。早く殴ってくれ。馬車がこっちに来てしまう」

「もうそれどころではない」

「これも友のためだと思って、お願いだ。こんなもやもやした気持ちでは戦えない!」

 ええい、存外、面倒くさい奴だ。アトスは力いっぱい、シャルルを張り倒した。


 ガタン!

屋根の上で大きな衝撃を感じたため、馬車が急停止した。御者台で馬を操っていた剣士の一人が「何ごとだ!」と叫んで飛び降り、馬車の屋根を見上げた。そして、「あっ」と驚きの声を上げる。

 夜の暗がりにもよく分かるほど両頬を赤く腫らした少年が、屋根の上でレイピア剣を抜いていたのだ。

「近衛銃士見習い、シャルル・ダルタニャン、見参。この馬車に法務大臣は乗っているか」

 「このガキが!」と剣士はレイピアを抜こうとしたが、シャルルの意表を突く現れ方に面食らったため、動作がまごついてしまった。剣を半分ほど抜いたところで、馬車の屋根から飛び降りたシャルルの踵落としを脳天に食らい、昏倒してしまった。

「ああ、畜生! アトスに殴ってもらったおかげで、もやもやした気持ちは吹っ飛んだが、今度はだんだん腹が立ってきた! 何だこれ? 俺は誰に対して怒っているんだ? コンスタンスにでもない、兄貴にでもない、自分にでもない。俺が失恋したからって、誰かが悪いわけではないのだ。でも、この業腹な気持ちを発散したくて仕方無い! ……おい、馬車の中に引きこもっている奴ら! さっさと出て来いよ! 取り調べされるのが嫌なら、かかって来い! 今夜の俺は最高に機嫌が悪いから、ぎったんぎったんにしてやる!」

「ひ、ひぃっ!」

 もうほとんど強盗と変わらぬ悪者の台詞を吐き、シャルルが馬車を数度に渡って蹴ると、馬車の中から年老いた男の悲鳴がした。シャルルが「法務大臣か!」と怒鳴ると、代わりに馬車から躍り出てきたのは、なんとジュサックだった。

 ジュサックのレイピアが、シャルルを襲う。闇夜に殺人狂の刃が三度、四度と閃いた。

(ロシュフォールが言っていたことは、本当だったようだな。太后の手下になっていたか)

 五度目の刺突をかわしたとき、ジュサックの猛攻に一瞬の隙ができた。それを見逃さず、シャルルはジュサックの腹に素早く突きを入れた。ジュサックは身をひねらせてよけ、わずかに脇腹が傷ついた。

「片目を無くして、少し剣の腕が鈍ったな。五度も突いて、俺は無傷だぜ」

 シャルルが、眼帯をしているジュサックの右目を見てからかった。

「貴様はこの俺を下等な剣士だと愚弄した。絶対に許さん。惨たらしく殺してやる」

「それはどうも。けれど、俺の相棒が、馬車からよぼよぼのお爺さんを引きずり出しているが、お前はあのお爺さんを護衛しなくてもいいのかい?」

「何だと?」

 ジュサックが驚いて振り返ると、アトスが馬車の中で震えていたミシェルを外に出し、縄をかけていたのである。馬車の車輪の横、馬の尻の下では、ミシェルを護衛していた剣士たちが倒れ、苦しげにうめいている。

「シャルル、こいつが法務大臣のようだ。国璽らしき物を持っていた」

 シャルルに続いて馬車の屋根に飛び降りたアトスは、ジュサックとシャルルが戦っている間に、残りの剣士二人を瞬く間に突き伏せ、ミシェルを捕らえていたのであった。

「こ、このガキども……。何という奴らだ」

「何という奴らだって? 俺たちは、誇り高きガスコンの剣士だ!」

 気勢をそがれたジュサックに対して、今度はシャルルが遮二無二レイピアを連続で突き出した。ジュサックは三撃目まではかわしたが、次に繰り出された攻撃で右ももを突かれ、さらにシャルルの剣の切っ先はジュサックの左胸を狙った。

 そうはさせるかとジュサックは左手に持つマンゴーシュで刃を弾こうとした。しかし、シャルルの剣の軌道は蛇のごとく直線からそれ、ジュサックの右胸をぐさりと刺したのであった。子どもにここまでいいように翻弄されて、ジュサックは激怒した。

「もう終わりだ! シャルル・ダルタニャン、次の一撃で貴様を殺してやる!」

 憤激のあまり冷静さを欠いたジュサックは、「これでくたばれ」と憎悪の念を込めて、シャルルの顔面めがけて渾身の突きを放った。

 シャルルは、右腕を広げて剣の切っ先を迫り来るジュサックに向け、右足を左前方に踏み込んで、ぎりぎりの瞬間で敵刃をかわす態勢をとった。

「うりゃぁぁぁぁ!」

(……いまだ! かわせ!)

 ジュサックの剣は、シャルルの顔にかすりもしなかった。そして、自らの勢いでシャルルのレイピアに飛び込み、その不幸な一撃は左目を貫通した。シャルルの狙い通り、ジュサックは仕掛けられた罠にかかったのであった。

「力みすぎだ、殺人狂」

 「俺の目が! 左目が! 右目が! 両目がぁぁ!」とジュサックは絶叫した。がむしゃらに剣を振り回すが、ただ虚しく空を切るだけだった。盲目の男はあらぬ方向によろよろと歩いていく。

「あいつ、逮捕しなくてもいいのか」

 アトスが、ミシェルを引っ立てながらシャルルに聞いた。ミシェルはぶつぶつと「り、リシュリューめ。あの非カトリック教徒め……」と呟いている。老大臣ミシェルには投獄された後、非業の死を遂げる末路が待っているのであった。

「ジュサックは命を弄んで、おのれの剣を汚した。だから、最後は剣に身を投げて自滅したんだ。放っておいても、あいつはもう誰も殺せないさ」

 闇の彼方、ジュサックの慟哭が聞こえてきたが、彼の姿はもう見えなかった。


 マリー太后のその後についてである。

 彼女と息子のルイ十三世が和解することは、二度となかった。太后はパリに居続けることに身の危険を感じてコンピエーニュ城に退いたが、リシュリュー枢機卿はこの女が国内にいれば新たな陰謀を画策してフランスの害悪となるだろうと考え、ある噂を流した。

「国王が、ついに太后を逮捕する決意をした」

 この噂を聞いたマリー太后は、一六三一年七月、フランスを脱してネーデルランド(当時はスペイン領)に亡命した。その後もヨーロッパの国々を放浪し、一六四二年七月三日にドイツのケルンでこの世を去る。

「私の生涯を描いたあの絵は、けっして偽りなどではないのよ。アンリが私を愛してくれていたら、ルイが私を信じてくれていたら、リシュリューが私から離れなかったら……。男どもが悪いのよ、全部」

 母が亡命先で口癖のようにそう呟いていたことをルイ十三世が知ることはなかった。だが、彼は母がパリに残していった「あの絵」を大事にして、絶対に手放さなかったのである。

『マリー・ド・メディシスの生涯』

 母の人生を描いた連作絵画である。この絵画は絵のあるじが国外へと亡命した後も大切に保管され、二十一世紀の我々もルーヴル美術館に行けば、これを鑑賞できるのだ。

 ルイ十三世が、母の絵を守り続けたのは、この連作絵画が巨匠ルーベンスの作品だったからだろうか。それとも、最後に残った母親への情がそうさせたのだろうか。いまとなっては、後世の我々が勝手に想像するしかない。


 後に『欺かれし者の日』と呼ばれることになる、マリー太后の事件が解決して半月が経った。

「シャルルは、なにをかいているの?」

 コンスタンスに連れられて、ダルタニャン兄弟の下宿屋に遊びに来ていたシャルロットが、机で何かを書いているシャルルにしがみついた。病気もすっかりよくなったようだ。

「我が家の家訓状だよ。パリに来てすぐに泥棒に盗られて、ちり紙に使われちまったんだ。だから、全条暗記していた俺がこの紙に新しく書いているのさ」

 全部で二百条ある。ちなみにポールは十条までしか覚えていない。

 そのポールはというと、コンスタンスに新しくつくってもらった冬用の服を試し着していた。コンスタンスは縫い物が得意なうえに趣味でもあるらしく、週に一度はダルタニャン兄弟の、破れたり、ほつれたりした衣服を直しに来てくれる。ポールの留守中、コンスタンスが下宿屋に来たことがあったのも、修繕した服を届けるためだったのである。

(さて、俺は邪魔者だな……)

 自分がついでなのはシャルルもわきまえていて、ポールとコンスタンスだけの空間に異物は存在するべきではないことも知っていた。

「シャルロット、ちょっと散歩に行こうか。そうだ、アトスの下宿屋へ遊びに行こう」

 数時間かけてようやく書き終えた家訓状を壁に飾ると、シャルルはシャルロットを連れて外に出ようとした。コンスタンスがそれに気がつき、シャルルに声をかける。

「シャルルさん。シャルロットはよく迷子になるから、気をつけてあげてね」

「ああ。コンスタンスも気をつけてよ。兄貴はすぐ調子に乗って、わがままを言うから。困ったことがあったら、俺に相談してくれ。ガスコン流でガツンと一発……」

「い、いいから、早く出かけろよ!」

 怒ったポールに追い出されるようにして、シャルルとシャルロットは下宿屋を出た。

 パリの街は冬の装いをした人々で賑わっていて、身体は冷えるけれども、心まで冷えびえするということはなかった。迷子にならないように、シャルロットと手をつなぎながら冬の街を歩いていく。

「コンスタンスは、ポールのこいびとなの? シャーロットは、シャルルのほうが、コンスタンスに、おにあいだとおもうけれど」

「いや、あの二人はお似合いだよ。幸せになってくれたら、いいと思っている」

「ほんとうにすきなひとが、こいびとじゃないと、しあわせになれないよ」

「コンスタンスの好きな人は、兄貴だ。俺じゃないんだよ」

「かわいそうなシャルル。だったら、シャーロットがすてきなミレディ(貴婦人)になって、こいびとになってあげるから、まっていてね」

「だったら、俺はそれまでに正式な近衛銃士になれるように、がんばるよ」

 子どもなりに俺の失恋を慰めてくれているのだろうと思って、シャルルは少女のブロンドの髪を優しく撫でてやった。シャルロットは嬉しそうに、無邪気な笑い声を上げる。

 さて、フェール街にあるアトスの下宿屋に着き、彼の部屋に行ってみると、ニコラが大きな瓶を抱えながら、アトスに追いかけられていた。

「やあ、シャルル君。見てくれ。アトス君は真面目な少年ぶって、こんな物をベッドの下に隠していたんだぜ」

「ただのワインだ。いかがわしい物ではないのだから、別にいいだろ」

「アトス。お前、酒を飲むのか?」

 驚いたシャルルが聞くと、実はまだ飲んだことはないという。つい先日、思いきって買ってはみたが、一人でちびちび飲むのも寂しいと思って、ベッドの下にしまっていたというのだ。

「よし、三人で飲むか。この酒で、今度こそ俺たちの永遠の友情を誓おう!」

「シャーロットも、ちかう!」

「シャルロットは牛乳な」

 シャルルにそう言われると、シャルロットは「むぅぅ」と頬を膨らませて唸った。それを見て、ニコラがゲラゲラと笑う。アトスはというと、ニコラにからかわれことをまだ怒っているらしく、シャルロットと同じように顔を赤くしている。

「それでは、乾杯!」

 どこの産地かも分からないワインの瓶を囲んで、シャルル、アトス、ニコラは人生で初めての酒を飲んだ。そして、アトス以外はあっけなく酔っ払い、眠りこけてしまった。

「まったく! なさけないのね!」

 シャルロットが、いびきをかいているシャルルとニコラの身体をつついている横で、アトスは空になった酒瓶の口を物足りなさそうにペロペロと舐めていた。この生真面目なガスコン、割といける口らしい。

「なあ、シャルロット」

「なぁに? アトス」

「ん……。いや、何でもない……が、身体の具合はもういいのか?」

「うん!」

 シャルルやコンスタンスも知らないシャルロットの秘密をアトスは知っている。だが、そのことを口にすることで、少女の無垢な笑顔を曇らせてしまうのではとアトスは恐れ、シャルロットにそれ以上のことは問わなかった。マリー太后が少女に植え付けた心の闇の種が、毒を含んだ百合の花として咲かぬことを祈るしかない。

「そうか……。困ったことがあったら、俺やシャルルに何でも言うんだぞ」

「ありがとう。でも、いまのシャルルにはなにをいってもダメみたいね。ぐーすかねてるんだもの」

「ふふっ。そうだな。いったい、どんな夢を見ているのやら」


 シャルルは、夢を見た。

 栗色の髪の少女が、そっと手を差し伸べて、シャルルは彼女の白い手にキスをする……。そんな甘くて切ない夢だった。

「いまさらこんな夢を見たって……。本当、神様は意地悪だぜ」

 夢から覚めた後、シャルルは泣きそうな顔をして笑うのであった。

                                   了

これにて完結です。読んでいただき、ありがとうございました。

シャルルの失恋、シャルロットの正体・・・など、ちょっと続編を意識しすぎたかなぁって個人的には思います。もし続編があったら、シャルルとコンスタンスが少しずつ接近して、コンスタンスがダルタニャン兄弟の間で揺れ動く・・・みたいなことを考えていたんですよね。でも、新人賞に送る作品はその作品内でちゃんと物語にケリをつけないと評価は厳しいかも知れませんね・・・。

というわけで、「ダルタニャンとマリー・ド・メディシスの陰謀」完結!

みなさま、またどこかで・・・(今度投稿する時は下ネタやめようと誓う草もちであった)

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