第9話 ストリートビューの過去
暇つぶしに、地図アプリのストリートビューで自分の家を検索してみた。
画面には、見慣れた我が家の外観が映し出されている。
このアプリには、過去に撮影された写真に遡れる機能がある。
数年前はどんな感じだったのだろうかと、軽い気持ちでタイムラインを5年前、10年前へと遡らせてみた。
10年前の我が家。まだ壁の塗り替え前で、少し古びている。
懐かしい気持ちが湧いてくる。スワイプして、画面の視点をぐるりと切り替えた。
10年で変わったところもあれば、全く変わっていないところもある。
月日の流れを楽しんでいると、ひとつ目を止めるものがあった。
家の前の電柱の陰に、誰かが立っている。
拡大してみると、それは長い黒髪に、真っ白なワンピースと、そのワンピースよりも白い肌をした、細身の女だった。
顔はモザイクがかかっておりわからないが、じっと我が家を見つめているような気がした。
気味が悪くなる。もちろん、こんな女に面識はない。
厭な予感がよぎり、私は撮影時期を【5年前】へと進めてみた。
やはり、そこにもあの女が写っていた。
しかし、位置がおかしい。10年前は電柱の陰にいたはずが、5年前の写真では我が家の門のすぐ前まで来ている。
門扉のすぐ前、私の部屋の窓を凝視しながら。
「嘘だろ……」
思わず声が漏れる。
震える指でスワイプし、さらに時間を【3年前】、【1年前】と現在に近づけていく。
3年前――女は敷地内に侵入していた。庭の芝生を踏みにじり、窓へ向かって歩いている。
1年前――女は私の部屋の窓の、目と鼻の先まで近づいていた。
そして――【直近】の撮影データ。
女が私の部屋のすぐ前まで来ていた。じいっと、窓を凝視している。
身体が震えてくる。
私はゆっくりと、音を立てないようにその窓まで近づいていった。
大きく息を吸い、意を決し、カーテンを開けた。
――誰もいない。
ホッと息を吐く。
やはり、ただの悪戯だったのだろう。しばらくは家の周囲を警戒したほうがいいかもしれない。
そう思い、振り返った。
私の顔のすぐ前に、狂気じみた笑みを張り付けた白い女の顔があった。




