第73話 宿り鏡台
フリーマーケットに出かけた私は、そこで一目惚れしたアンティーク調の美しい三面鏡付きのドレッサーを購入した。
大正時代のものだというそれは、どこか妖艶な佇まいがあった。
かなり古い品だが、元の所有者が非常に大切にしていたようで、手入れが行き届いていて綺麗だった。目立った大きな傷もなく、鏡面にも曇りひとつない。
念願だったレトロ家具を手に入れた私は、すっかり満足していた。
その晩、私は早速そのドレッサーの前に座り、髪を梳かし始めた。
三面鏡の角度を調整し、左右の鏡をすこし内側に傾ける。
鏡の中に合わせ鏡が出来、無限に続く「鏡の中の部屋」が映し出される。
どこまでも連続する奇妙な奥行きをぼうっと眺めながら、髪にブラシを通す。
その時、ふと、違和感を覚えた。
無限に並ぶ「私」の列。本来ならばすべて横顔のはずだったのだが、その十数枚目、はるか奥の暗がりに映る自分が、こちらをじいっと見つめている気がしたのだ。
ぱっとその方向に顔を向けると、当然だが、鏡の中の「私」たちも一斉に動き出す。
見間違いだろうか。
私は深く考えずに鏡を閉じて、その日は眠りについた。
しかし。
翌日も、その翌日も。合わせ鏡を作ると、「奥の私」は私の視界の端に確かに存在していた。
しかも、確実に、日に日に1枚ずつ、私のほうへと近づいてきている。
私は恐ろしくなり、左右の鏡を閉じると、それからしばらく再び開くことはなくなった。
数日後。
時間が経ったこともあり、恐怖が薄らいだ私は、何気なく、久しぶりにその鏡台を開いた。
すると――正面の鏡に映っていたのは、全く見知らぬ女の顔だった。
見知らぬ女が、にやりと口元を吊り上げて笑う。
その瞬間、私の口も、私の意志に反して大きく歪んだ。
女が右手で自分の頬に触れる。私も震える手で、それと寸分違わぬ動きをする。
女は鏡ごしに、その「向こう側」にいる私を一瞥すると、左右の鏡に手をかけ、一気に内側へ引き寄せた。
バタン、と重い音が響き、私の世界は完全な暗闇に包まれた。




