第71話 宿り包丁
リサイクルショップで掘り出し物を探していると、その片隅に、1本の古びた包丁を見つけた。
使い込まれて銘は消えかけているが、職人手仕込みの重厚な佇まいが気に入り、「格安」と書かれていたこともあって、私は迷わずそれを購入した。
その晩、私は早速その包丁を使ってみることにした。見た目通り、切れ味は完璧だった。硬い野菜でも力を入れずに、豆腐のようにすとんと切ることができた。
次は鶏肉だ。
同じように包丁を入れた瞬間――全身に妙な感覚が走った。
野菜と同じように、ほとんど力を入れずとも、すとんと切れる。
しかし、肉の繊維を断つ感覚が、異常なほどに心地よいのだ。
2度、3度と包丁を振るう。
その度に脳髄が痺れるような快感が駆け巡る。
それからというもの、私は毎日のように塊肉を買い、ひたすら細かく切り刻むようになった。
最初は鶏肉ひと塊で満足できていたのだが、次第に感覚が麻痺していくと、物足りなくなり、さらに大きな塊肉を買い求めるようになっていった。
精肉店で買った5kgの牛肉を解体しながら、私はこの狂気的な状況に恐怖を覚えていた。
このままいけば、私はじきにこの程度では満足できなくなるだろう。
このペースで肉を買い続ければ、すぐに貯金も底をつくだろう。
包丁を手放さなければ。そう頭で理解していても、この、肉を「解体」する快楽には抗えない。
すとん、と肉を断ち切るたびに、全身を何とも言えない快楽が満たす。
「次はもっと、あたたかい肉がいい」
無意識に、そんな悍ましい言葉が口から漏れた。
そんな狂気に抵抗する意思を置き去りにし、筋肉が勝手に駆動する。
私の左腕が、吸い寄せられるようにまな板の上に乗せられた。
それを見た瞬間、私は抗うすべもなく、口元が歓喜に歪んでいくのが自覚できた。




