Extra Track スマホのWi-Fi
深夜2時、長距離のドライブの途中で猛烈な睡魔に襲われた私は、高速道路の途中にあるパーキングエリアに車を止め、少し休憩することにした。
休憩中のトラックの1台くらい停まっていてもおかしくない時間だが、不思議なことにそこには車が1台もなく、どこか不気味な雰囲気が漂っていた。
トイレに行くために車外へ出ると、じっとりとした生暖かい空気が肌にまとわりつく。辺りは妙に静かで、遠くを走る車の音さえ聞こえてこない。
オレンジがかったナトリウム灯と、自販機の青白い光が無機質に照らす中、トイレに向かう。「ジジ……」という電灯のノイズと、自分の靴底がアスファルトを叩く音だけが響く中、用を済ませて外へ出た。
戻り際、自販機で缶コーヒーを買い、それをゆっくりと飲みながらスマホを取り出してみる。電波は届いていないようで、画面には『圏外』の文字が表示されていた。
だがその隣に、扇型のマークが1つ灯っていることに気が付いた。どうやらフリーWi-Fiが飛んでいるらしい。こんな寂れたパーキングエリアに、と少し驚き、私は設定画面を開いた。
接続されたネットワーク名の欄には、奇妙な文字列が表示されていた。
『WELCOME_TO_ANOTHER_SIDE』
私は気味が悪くなり、すぐにそのWi-Fiの設定をオフに切り替えた。
――しかし、その瞬間。
パツン、と厭な音がして、ナトリウム灯も自販機も、すべての明かりが一斉に消え去った。
完全な闇と無音。残された光源は、手元のスマホだけだった。
慌てて車のライトで辺りを照らそうと、スマホのライトをオンにして自分の車があった場所に目を遣った私は、息が止まった。
車がない。
それどころか、先ほどまで目の前にあったはずのアスファルトの駐車場さえ消えている。
スマホの光が照らしだしたのは、どこまでも延々と続く、無機質な「白い天井と蛍光灯だけが並んだ通路」だった。
パニックになり、スマホの画面を見つめる。
先ほどWi-Fiをオフにしたはずなのに、画面の扇型のマークは最大強度の「4本」を示しており、勝手に別の電波を掴んでいた。
『NO_EXIT』
そして、画面の上部に通知がポップアップする。
『接続が再開されました。再度切断した場合、あなたの存在が消去されます』
そして、誰もいない通路の奥から、カチ、カチ、カチ……と、規則正しい足音が近づいてきた。




