第70話 スマホのカレンダー
夏のじっとりした暑さの中、私は出先で急な仕事の連絡を受け、スケジュールを確認しようと、カレンダーのアプリを開いた時だった。
全く入力した覚えのない奇妙な予定が、未来の日付に書き込まれていることに気が付いた。
『7月22日 15:00 階段から転落』
ゾクリと奇妙な寒気が走り、肌が粟立つ。今日がその7月22日だった。画面の時計はすでに14時57分を示している。この先にある古びた歩道橋を渡れば、ちょうど15時頃に、私はあの急勾配の階段を下りることになる。
私は首を横に振り、「まさか、誰かの悪質ないたずらだろう」と自分に言い聞かせ、気味の悪いその予定を急いで削除した。
心臓が厭な鼓動で脈打つが、なんとか落ち着かせる。
引き返そうにも、先方との約束の時間が迫っており、このルートを通るしかないのだ。
そのとき、画面に次の通知が躍り出た。
『7月22日 15:12 病院に救急搬送』
血の気が一気に引いていくのが分かった。先ほど削除したはずの「事故」から時間が進み、繋がっている。これは、予言なのだろうか。
猛烈に厭な予感に襲われ、足がすくむ。階段に近寄ってはいけない。先方との約束に遅れてでも、遠回りをするべきだ。そう決意して足を止めた瞬間、リマインダー機能の通知が来た。
『7月22日 14:59 歩きスマホで階段を踏み外す』
ハッとして顔を上げたときには、すでに手遅れだった。この奇妙なカレンダーの文字に気を取られすぎたあまり、私は無意識に歩みを進め、すでに階段の淵まで達していたのだ。
そして、スマホの画面の上部に表示されている時刻は、まさに「14時59分」であることに気が付いたときには、すでに奇妙な浮遊感に身を包まれ、視界が上下に激しく回転した。
全身を何度も硬い角に強く打ち付け、鈍い衝撃音が鼓膜に響く。
ようやく一番下の踊り場に叩きつけられ止まったとき、私の世界はすでに真っ赤に染まっていた。
全身に走る、これまでに経験したことのない激痛。意識がもうろうとしていく中、周囲の通行人たちが悲鳴を上げ、誰かが救急車を呼ぶ声が遠くで聞こえる。
けれど、きっと私は助からない。
手元から投げ出された、ひび割れたスマホの画面に書かれていたカレンダーのスケジュールが、私の運命を物語っていたからだ。
『7月22日 16:44 死亡確認』




