第66話 スマホの画像共有
深夜1時。私が自室のベッドで動画を見ていると、スマホの画面に突然AirDropの受信ポップアップが割り込むように表示された。
近くにある端末同士が、ワイヤレスで画像などを直接送受信できるという、あの機能だ。
表示された差出人の名前は――『サトウタカシ』。
その名前を目にした瞬間、私の心臓が冷たく跳ねた。
1か月ほど前から突然姿を消して行方不明になっているという、私の「隣の部屋の住人」と全く同じ名前だったからだ。
気持ちが悪い。
悪質な悪戯か、あるいは近頃ネットで話題になっている、見知らぬ他人に不快な画像を送り付ける痴漢行為の類だろうか。私はすぐに画面の『拒否』のボタンを押そうとした。
だが、動揺していたためか、指が滑って隣の『受け入れる』のボタンを誤ってタップしてしまった。
自動で保存された写真を開くと、それは鬱蒼と木々が生い茂る、見知らぬ暗い森の中の風景だった。
変な写真などではなかったことに安堵したが、冷たい静寂を思わせる不気味な写真に、何か厭な予感が湧き上がってくる。すぐにその写真を消そうとした、その直後だった。
ピコン。
通知音が鳴り、再び『サトウタカシ』からのポップアップが届いた。
今度の写真は、先ほどの森の奥から少し進んだのだろうか、似たような荒れた地面の先に、開けた砂利道が写し出されていた。
すぐに3枚目が届いた。
今度はさらに奥へと進んだようで、そこは山奥にある、荒れ果てた共同墓地のようだった。
なぜ、佐藤を名乗る人物が、このような場所の写真を私に送ってくるのだろうか。
いよいよ気味が悪くなる。これは失踪した佐藤からの「自分はここにいる」というメッセージなのだろうか。
そして、4度目の電子音がなり、再びポップアップが表示された。
そこに写っていたのは、古びた1つの「墓石」の写真だった。
恐る恐る、保存された写真の画面をタップして大きく開いてみる。
まさか、これが佐藤の墓だとでも言うのだろうか。
そう思いながら、私は冷や汗の流れる手で画面の写真をピンチアウトし、闇の中に佇む墓石を拡大する。
デジタル補正され、液晶画面にくっきりと映し出された、その墓石に刻まれていたのは。
それは――他でもない、私自身の名前だった。
喉の奥から乾いた悲鳴が漏れる。
何故、こんな所に私の名前の墓があるのか。何故、佐藤はそれを私に送ってきたというのか。
様々な疑問で混乱する頭の中。だが、その直後、何故か妙にクリアになった頭が、1つの事実を思い出させた。
――AirDropの届く距離は、せいぜい10mだということを。




