第62話 スマホの顔認証
深夜2時、静まり返った自室のベッドに寝転びながらスマホを開いた私は、画面を見つめながら小さく首を傾げた。
何度やっても「顔認証」のロック解除が失敗するのだ。
どれだけ真顔を作ってみても、思い切り目を見開いてレンズを見つめてみても、画面には『認証に失敗しました』の文字が冷たく浮かび上がるだけだった。
部屋を明るくしてみたり、画面を近づけたり、逆に遠ざけてみたりと何度も試してみたが、やはり上手くいかない。
その夜は諦めて、パスコードを入力することでロックを解除したが、これではあまりにも不便だった。
私は洗面所の鏡に向かい、じいっと自分の顔を見てみた。
――そこには、見慣れたいつもの自分の顔が映っていた。
カメラかなにかのバグだろうか。
仕方がなく、私は設定画面を開き、顔認証の設定を最初からやり直すことにした。
だが、それから数日が経った、ある夜のことだった。
『Face IDの認証に失敗しました』
また、何度やっても顔認証が弾かれるようになったのだ。
不審に思い、私は再び鏡に向かって自分の顔を映した。やはり、おかしなところはない。
連日の疲れのせいか目の下にうっすらと黒い隈が出来ていたので化粧で隠しているが、鏡の向こうにいるのはいつも通りの私の顔だった。
私は三度、顔認証の設定を初期化してやり直した。
だが、結果は全く同じだった。最初の数日間は問題なく認証するが、それ以降、数日が経つと、どれだけカメラを見つめても絶対に認証しなくなるのだ。
やはり、カメラ自体がおかしくなっているのだろう。
そう結論づけた私は、確かめるためにスマホのカメラアプリを起動し、インカメラに切り替えた。
その瞬間。
私は小さく叫び声を上げ、持っていたスマホをベッドの上に放り出した。
そこに映し出されていたのは、私の姿ではなかった。
今までの人生で全く見覚えのない、酷く青白い肌をした「見知らぬ男」が、狂気的に歪んだ笑みを浮かべている顔だった。
パニックになり、縋るような思いで洗面所へ向かい、急いで鏡に飛びついた。
――だが、そこにいたのは。
スマホに映り込んでいたのと全く同じ、耳まで裂けた口でニヤリと笑う、あの顔が映っていた。
私が恐怖で顔を歪めると、鏡の中の男の顔も、寸分違わぬ動きで顔を歪める。
私の手が、男の冷たい頬の皮膚をなぞる。
この見知らぬ顔は、紛れもない私の「顔」になっていたのだ。
スマホの顔認証は、バグってなどいなかった。電子機器の精密な目は、いち早く私の顔の異変を検知していたのだ。
私の本当の顔は、一体、どこにいったのだろうか……。




