第60話 深夜のトンネル
「はいどーも! 深夜のゲリラ配信でーす!」
深夜2時。見知らぬ土地を巡るドライブ旅行の途中、助手席に乗った私はあまりにも暇だったので、スマホでライブ配信を始めた。
「実は今、旅行中なんですが、移動中暇なので配信しちゃいまーす! ちなみにこの子が安全運転で頑張ってくれてまーす!」
私が運転席の友人へとカメラを向けると、彼女は照れたように苦笑しながら、片手を小さく振ってくれた。
『楽しそう!』
『深夜ドライブとか青春www』
『女の子二人だけじゃ危ないから、俺も混ぜてよ』
『↑お前が一番危ないだろw』
深夜にも関わらず、反応はまずまずなようで、それなりに盛り上がりを見せていた。
「わ、深夜なのにすごい視聴者数。え、初めてじゃない? 同時接続300人超えだって」
予想以上の数字に気分が良くなってきた私は、そのままテンション高く生配信を続けた。
「あ、前方にトンネルが見えてきました。古くて結構雰囲気あって、いかにも何かが出そうです!」
車はそのまま、山奥の長いコンクリート造りのトンネルへと突入していった。
オレンジ色のナトリウム灯の光が、規則正しく一定の間隔で車内をチカチカと照らし出す。私はスマホの画面に流れるコメントを読み上げた。
「えーっと、『どこ走ってるの?』ね。あー、今はね、なんかナビにもない大きなトンネルで――」
「ねぇ……。ちょっと待って。ここ、スマホの電波、届くわけないよね? 配信、なんで切れないの?」
運転席でハンドルを握りながら、友人が急に怪訝そうな表情を浮かべて私を遮った。
「え?」
言われて初めて気が付いた。スマホの画面の上部を確認すると、確かに電波は完全に途切れ、「圏外」の文字が白く表示されていた。
圏外。通信は遮断されている。
それなのに、私のスマホの配信画面では、どんどんコメントがリアルタイムで激しく更新され続けているのだ。
『うしろ』
『うしろにいる』
『くねくねしてる』
画面に流れる、異様な文字列。
視聴者たちの悪質な悪ノリだろうか。
「ちょ、やめてよ。怖いコメント禁止ね!」
私は引き攣った笑顔で、軽く画面の向こうに注意を入れた。
しかし――コメント欄の暴走は止まらない。
『もうだめ』
『もう手遅れ』
『もう帰れない』
コメントはより不穏で、冷酷な内容へと変異していく。
そして、私はさらに最悪な異変に気が付き、全身の毛穴が開き始めた。
コメント欄を埋め尽くす、何百人ものアカウントの「アイコンの顔写真」が。
いつの間にかすべて、同じものへと変わっていたのだ。
それは――生気の一切感じられない、青白い、歪な笑顔を浮かべた男の顔だった。
『帰れない』
『帰れない』
『帰れない』
『帰れない』
『帰れない』
同じ文字列だけが、画面が壊れたかのような凄まじい速度で延々とスクロールしていく。
「何かヤバイよ!? もう配信切って!」
トンネル内の異様な雰囲気を察したのか、友人が狂乱したように叫ぶ。
「う、うん!」
私もこれはただ事ではないと恐怖し、パニックになりながら、配信終了を押すために画面へと指を伸ばした。
その瞬間、文字化けしたタイムラインの最下部に、1通のコメントが表示された。
『配信お疲れ様でした』
次の瞬間。
バチン、と音を立ててトンネルの照明がすべて消え、同時に車のヘッドライトも、スマホの画面も、世界のすべての光が一瞬で消えた。
けたたましいブレーキの音だけが響き渡り、私たちは永遠に終わらないトンネルの闇に呑まれていった。




