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現代怪談短編集 霊話百物語  作者: ナハ子
【6章 旅先・乗り物の怪異】
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第51話 深夜の高速バス

格安の深夜高速バスに乗り込み、私は東京へと向かっていた。

消灯時間を過ぎた車内はカーテンが閉め切られ、青白い常夜灯の薄暗い明かりだけが通路を不気味に照らしている。

他の乗客たちは全員、深い眠りについているようで車内は静まり返っていた。


深夜3時を回った頃。強烈な尿意で目を覚ました私は、車内後方にあるトイレへ向かうため、座席から通路へ足を踏み出した。

ふと、通路側に座る乗客たちの様子が目に入り、私は不自然な違和感に足を止めた。


乗客たちの「姿勢」がおかしい。



誰もが微動だにせず、厭になるほど正された姿勢で身体は前を向いている。それなのに、綺麗に首だけを水平に回転させ、恐ろしいほど真っ暗な瞳で、じいっとこちらを見ているのだ。


前の席の人も、その前の人も、全員がだ。


恐怖で息が詰まる。そんなに一斉に見られるほど、音を立てたつもりはない。

だが、この異様な視線に晒されたままトイレに行く勇気など、あるはずもなかった。


私が引き返そうと、すがる思いで運転席のほうに視線を向けると――運転手の首もまた、きっちり180度回転させて真後ろを向いていた。


これは、流石に普通ではない。

パニックになりながらふと窓の外に目を遣ると、いつの間にか風景は高速道路ではなく、街灯一つない、見知らぬ寂れた山奥の廃道へと変わっていた。


静寂を引き裂くように、車内スピーカーから運転手の抑揚のない平坦な声が流れた。


「えー、まもなく目的地の『冥界前』に到着いたします。現世にお忘れ物、落とし物がございませんよう、今一度お手回りの品をお確かめください。お客様が二度とご乗車することのないよう、祈っております」


プシュー、と重い音を立てて前後のドアが開く。

乗客たちは何も言わず、生気のない顔のまま、ぞろぞろと真っ暗な外へと降車し始めた。


一体、私は何のバスに乗ってしまったのだろうか。

誰もいなくなっていく車内で、私はただ、ガタガタと震えながら座席にしがみつくしかできなかった。

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