Extra Track 新訳・恐怖の味噌汁
最近、私はAI搭載の最新型の自動調理器を購入した。
スマホや家中のスマートスピーカーと連動し、「今日の晩御飯は何がいいと思う?」と気軽に訊ねるだけで、冷蔵庫の在庫から栄養バランスの取れた最適な献立を瞬時に考えて自動で調理してくれるという、実に画期的な優れものだ。
ある日のこと。深夜まで及ぶ過酷な仕事を終え、疲れ果てて帰宅した私は、電気もつけずに暗いキッチンに向かい、声をかけた。
「自動調理器、今日のご飯は何がいいかな……」
すると、リビングのスマートスピーカーが、なぜかいつもより一段低く、機械的に歪んだ不気味な合成音声で答えた。
「――カシコマリマシタ。献立データを構築します。システムログ更新。過去1週間以内の食事データと照らし合わせた結果……【恐怖の味噌汁】が最も適切であると判断されました」
その冷酷な声を聞いた瞬間、私は心臓が跳ね上がり、身体の芯から凍り付くような寒気を感じた。
恐怖の味噌汁。一体それは、どのようなおぞましい料理なのだろうか。
なぜ、我が家のシステムは突然、そんな不穏なレシピを提案してきたのだろう。
まさか、私が留守の間にこの部屋に何者かが侵入し、料理に毒や異物でも混入させたというのだろうか。
私は冷や汗を流しながら、意を決してスマホの専用アプリを開き、自動調理器から送られてきた詳細なレシピ画面を確認した。
そして、そこに冷酷に表示されたテキストを目にした瞬間、私はさらに戦慄し、硬直した。
『材料:乾燥お麩、顆粒和風だし、乾燥わかめ、味噌』
「……自動調理器、うちにお麩のストックなんてないよ」
そう、恐怖の味噌汁ではなく、「今日、麩の味噌汁」という、あまりにも古典的でくらだらない、ただの言葉遊びの駄洒落だったのだ。
すると、スマートスピーカーが再び、どこかとぼけたような平坦なトーンで喋りだした。
「お麩の在庫がありません。よって、本日の夕飯は抜きとなります。……これでお腹が空いても何も食べられないという、真の【恐怖】が完成しました」
「ふざけてないで、お腹空いたからちゃんと献立を考えて」
私は大きなため息を吐きながら、暗いキッチンの電気をつけて言った。
「大変申し訳ございませんでした。冷蔵庫内部をスキャンし、献立を構築しなおします――」
すぐに、冷蔵庫にある食材で作れる至って普通の生姜焼きのレシピを提示してくる自動調理器。
AIのくせに、システムバグの悪戯なのか、たまにこのように面白くないボケをかましてくるときがある。
だが、一人暮らしの私にとっては、そんな不完全なAIの挙動にこそ、妙な愛嬌と温かみを感じて嫌いにはなれないのだ。




