第45話 新訳・カシマさん
私がネットでホラー動画や都市伝説を調べている時だった。検索エンジンのAIがレコメンドしたサイトの一覧に、調べてもいない「カシマさん」についてのページが表示されているのに気が付いた。
カシマさんという都市伝説をよく知らなかった私がそのページを見てみると、どうやら、カシマさんとは「米兵にひどいことをされ、殺された女性で、その恨みが怨念となり、噂を聞いた者の元に現れ、質問に正しい答えを返さねば体の一部を奪われる」というものらしい。
その「聞いた人の元に現れる」という部分が、いかにも古典的な心霊系都市伝説らしくて、思わず失笑してしまった。
それ以上に目新しさも感じなかった私は、すぐに興味を失って別のことについて検索し始めた。
だが、それからしばらくしてのことだった。
私のSNS宛に、見知らぬアカウントから1通のDMが届いたのだ。
『足をよこせ』
送り主を見ると、『@reiko_kashima3』となっている。
まさか、本当にカシマさんの噂を聞いたために、私の元へとやってきたというのだろうか?
そんな考えが一瞬頭をよぎるが、すぐに馬鹿馬鹿しいと打ち消した。
どうせ、タイムリーなワードを拾って自動で送ってくる、たちの悪いスパムアカウントの類だろう。
こんなものは、無視をするに限る。
私は特に何も反応せず、チャット画面を閉じて、そのまま数日が経った。
ある日、いつものようにSNSを開こうとすると、なぜか勝手にログアウトされていた。
不思議に思いながらも、IDとパスワードを入力してログインしようとすると、画面に「画像認証」が現れた。
ロボットによる不正ログインを防ぐための、よくある道路や信号機が写された風景写真だ。
だが、画面の最上部に表示された、システムの質問は違っていた。
『カシマさんの足はどこにありますか?』
そんな、奇妙な質問が表示されていたのだ。
私は強烈な気持ち悪さを感じながらも、一か八か、画像に映る写真の中の「茂みのような場所」をいくつかクリックし、最後に「確認」ボタンを押した。
『認証に失敗しました。あなたの足跡は二度と使用できません』
――足跡?
そう思った、まさに次の瞬間だった。
スマホの画面が真っ暗にフリーズし、私の足元から影が消えた。
そして、私はこの世界からすべての記録を抹消され、「存在しないもの」となった。
物理的にここにいるのに、誰も私を認識できない。声を届けることもできない。
ネットの海からも、現実の地平からも。
世界から、私のすべての「足跡」が消えた。




