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現代怪談短編集 霊話百物語  作者: ナハ子
【5章 新訳・古典都市伝説】
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第42話 新訳・人面犬

深夜2時、連日の猛烈な残業を終えた私は、街灯の消えかけた薄暗い裏路地をふらふらと歩いていた。

疲労で頭が割れそうに痛む中、ゴミ箱の陰から「クチャクチャ」と何かが生肉を貪るような音が聞こえてきた。


今時珍しいが、野良犬だろうか。

襲われたでもしたら堪らないと、スマホのライトを向けた瞬間、私は腰が抜けそうになった。


それは、犬の身体に人間の頭部を持つ、謎の生物の姿だった。


「ひっ」


こちらを向いたその顔を視認した瞬間、私は小さく悲鳴を上げた。

それは、数日前、日々の過酷な業務に耐えかねて自ら命を絶ったはずの、会社の先輩だったのだ。

青白く生気のない先輩の頭部が、赤黒い太い糸で、大型犬の身体に無理やり縫い付けられている。


「あ、○○くん。久しぶりだね……。ごめんね、急に現場を抜けちゃって」


その声も、生前と完全に同じ、先輩のものだった。


「せ、先輩、なんですか?」

私が震える声で訊ねると、先輩の頭部は悲しげに目を伏せて、ぽつりと言った。


「そうだよ……。あの時、死んですべてから解放されたと思ったんだけどね。会社から『死亡は退職事由にならない』って突っぱねられてさ。契約書に基づいてこうなっちゃって、死んでからも、まだ働かされているんだ……」

暗い声で語り続ける先輩を前に、私はあまりの恐怖と理不尽さに、何も言葉が出なかった。


「ああ、またこの後、夜勤のクレーム対応に行かなくちゃあいけないんだ。それじゃあ、ごめんね」


先輩の頭部は、再び四足歩行の身体を不自然に揺らしながら、私を振り返って続けた。


「○○くんも、もしこの会社から逃げ出したくなったら……『自殺』以外の方法をおすすめするよ」


そう言って、先輩は裏路地の深い闇の中へと、静かに消えていった。

どうやら、この地獄のような労働の日々に終わりはないらしい。


夜明け前の冷たい空気の中、呆然と立ち尽くす私の全身を、緩やかな絶望が包み込んでいった。

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