第41話 新訳・口裂け女
最近、私はSNSを通じて知り合った女性と、毎日のようにビデオ通話をしている。
彼女のプロフィールに載せられていた写真は驚くほどに美人で、スタイルも抜群。メッセージのやり取りも弾み、いつしか私たちはビデオ通話をするようになったのだ。
画面に映る彼女は、陶器のような白い肌に、鋭利なほどにとがった顎、大きな目と、まさに理想の美女そのものだった。
「私、可愛いですか?」
彼女が画面越し、伏し目がちに私を見て言った。
その様子がかわいらしくて、声は少しハスキーだが、とても魅力的に見える。
「ああ。本当に可愛いよ。早く現実でも君に会いたいな」
こんなやり取りが、私たちの定番になっていた。
だが、彼女は身持ちが固く、なかなか実際に会う約束までは漕ぎ着けられない現状だった。お互いに住んでいる場所はそう遠くないことは、すでに教え合っているのだが。
その日も、私たちは深夜まで通話をしていた。
他愛のない話をしながら楽しんでいる、まさにその最中のことだった。
通信状況が悪化したのか、彼女の画面に激しいデジタルノイズが走った。
「あれ、電波悪いかな?」
私がそう言った瞬間、システムの不具合によるものか、彼女の画面に適用されていた「AIによるリアルタイム美顔フィルター」が完全にオフになってしまった。
ノイズの向こう側から現れたのは、いつもの美女ではなかった。おぞましい、化け物の顔だった。
その顔は両頬の肉が引き裂かれ、口が耳元まで真っ赤に裂けていたのだ。
フィルターによって尖って見えていた顎は、口元の肉が削げ落ちて骨がむき出しになっていただけだった。
彼女は加工が外れたことに気が付かず、耳まで裂けた歪な口をさらに吊り上げて、いつものハスキーな声で囁いた。
「ねぇ、私、綺麗?」
その瞬間、私は喉の奥から声にならない悲鳴を上げた。
即座に通話を切り、そのまま彼女のアカウントをブロックし、連絡先もすべて着信拒否にした。
そして、その女のことなど忘れて過ごそうとした。
だが、あの耳まで裂けた大きな口が、どうしても頭から離れなかった。
私は意を決して、彼女のリアルの知り合いだというSNSアカウントを探し出し、連絡を取ってみた。
曰く、彼女は美に異常に取りつかれ、整形手術を繰り返し、資金が尽きた挙句に怪しいヤブ医者にかかって失敗し、あの顔になってしまったらしい。
まさにルッキズムが生み出した、現代社会の怪物そのものだ。
彼女に対して少しばかりの憐れみを覚えたが、それ以上に、一刻も早くあの顔を忘れたいという思いが強かった。
だが、それからも私の頭から彼女の大きな口が消えることはなかった。
仕事をしていても、何をしていようとも、彼女の姿が脳裏に張り付いていた。
それどころか――あの大きな口を、もう一度見たいとさえ思うようになっていた。
そんなある日。仕事で遅くなった私が、薄暗い夜道を一人で歩いているときだった。
「ブロックするなんて、ひどいな。ねぇ、私、可愛いでしょう?」
街灯の影から、あの女が遮るように目の前に現れた。
私は目を逸らすことなく、彼女の恐ろしい口元をじいっと見つめた。
「ああ、可愛いよ」
深く頷いて、私は言った。
「俺はどうだ?」
そう言って、私も自分の顔から黒いマスクをゆっくりと外して、彼女に見せた。
彼女とまったくお揃いの、耳まで真っ赤に裂けた、大きな口を。




