第39話 目隠し鬼
大学の夏休み、私は幼馴染の3人――男子2人と女子1人と一緒に、地元の心霊スポットとして有名な廃ビルに肝試しにやってきた。
暗い廃墟の中、退屈しのぎに誰かが「ここで『目隠し鬼』をやろう」と言い出した。
オニが目隠しをして10秒数え、音を頼りに他の3人を追いかけ、相手に触れたらオニを交代、という懐かしい遊びだ。
最初に私がオニをすることになった。目をしっかりとタオルで塞ぎ、ゆっくりと数を数える。
「もういいかい?」
そう声をかけてから、私は手を前に突き出しながら、静まり返った廃墟の床を歩き出した。
「黙るのは卑怯だぞ~」
私がそう言うと、暗闇の奥からコツン、コツンという足音のようなものが聞こえてきた。私はその音を追うように歩を進める。
「鬼さん、こちら」
前方から男子の声が聞こえた。私はそちらへ向かう。
さらに、右側の少し離れたところから、手を叩く音と女子の声が聞こえてきた。
「鬼さん、こちらだよ」
私はさらに声のする方向へと足早に向かおうとした。
「……おいで」
その瞬間、すぐ真後ろの、耳元の至近距離から静かな女性の声が聞こえた。
同時に、私の足元から、ひんやりとした冷気が漂ってくる。
私はビクッとしてすぐに振り向いて、目の前に両手を伸ばした。
指先に、柔らかな人体の感触が触れる。だが、それは生きている体温がまったく感じられないほど、ひんやりと冷たい肌だった。
「○○、見つけた!」
私は女子の名を呼び、目隠しのタオルを外した。
そして、その場で全身の血の気が引いて戦慄した。
私の足元から、ほんの数センチ先。
そこは床が完全に崩落し、地下深くまで繋がる巨大な穴が開いていたのだ。
もし、あの最後の声に反応して振り返らなければ、私はそのまま真っ直ぐ歩いて、暗闇の底へと真っ逆さまに落ちていた。
この高さから落ちていたら、確実に命はなかっただろう。
私は恐怖のあまり腰を抜かし、その場にへたり込んだ。
すると、暗闇のずいぶん遠くのほうから、懐中電灯を揺らしながら3人がぞろぞろと寄ってきた。
「おい、危なかったな。マジで穴に落ちるかと思ったぜ」
「そうそう、危ねぇよ。怪我はないか?」
男子2人が心配そうな顔をして、私の両手を引っ張り上げてくれた。
「もう、本当に心配したんだから!」
後ろから、紅一点の女子も涙目で私の顔を覗き込んできた。
あの時、穴に落ちる直前で引き留めてくれたのも彼女だったのだろう。
私は優しい幼馴染たちに心から感謝しながら、彼らと一緒に、廃ビルを出るための暗い階段へと足早に向かった。




