第34話 壊れたインターホン
一人暮らしを始めてから、毎日深夜にインターホンが鳴る怪現象に悩まされていた。
ピンポーン、と鳴り、慌ててモニターを確認しても、画面には誰も映っておらず、ただ街灯に照らされた無人の廊下が映るだけだった。
友人に相談すると、「誰かが悪戯でカメラの死角から押してるんじゃね?」と、一緒に張り込んで捕まえるのに協力してくれた。
だが、やはりチャイムが鳴った瞬間にドアを開けても、廊下には誰もいなかったのだ。
「やっぱり機械の故障かな……」
「そうかもな。一度、業者に見てもらった方がいいよ」
友人も真剣な顔で同意してくれた。
あまりに頻繁に鳴るため、私は深刻な寝不足になり、ストレスも限界に達していた。
そろそろ本格的に対処しないといけないと思い、出費を覚悟して修理業者を呼んだ。
ベテランの作業員は、インターホンを分解すると、その部品ひとつひとつを細かく点検してくれた。
これならば原因が分かりそうだ。
だが、全ての点検を終えた作業員の報告は、まったく予想外のものだった。
「いやぁ、これ、どこも壊れてなんかないですよ、お客さん」
「え? でも、夜中に何度もチャイムが鳴るんですよ。まさか、幽霊……」
作業員は何か考え込むような仕草を見せた後、言った。
「お客さん、これ自動録画のデータって確認されました?」
私は首を横に振った。その機能の存在を今まで完全に失念していたのだ。
すると、作業員は居心地の悪そうな表情を浮かべた。
「このインターホン、チャイムが押された時点で、出ても出なくても自動的にカメラ映像が録画されるようになっているんですよ。でも、今さっき履歴を確認したら、お客さんの言う『誰もいない映像』っていうの、1件も録画されていなかったんですよね」
それは、とてもではないが信じられない報告だった。
機械は完全に正常。なのに、録画データは残っていない。
それはつまり、外にあるインターホンのボタンは、一度も押されていないということになる。
では、日々私を悩ませていたあの音は、私の幻聴と妄想ということだろうか。
私が頼るべきは、修理業者ではなく、精神科だったのだろうか。
「まぁ、原因はこちらではわかりかねますが、機械自体は100%正常です」
作業員は困ったようにそう言って、帰っていった。
私は自分の脳がおかしくなってしまったのかと、本気で落ち込んだ。
その日の夜。やはり、深夜2時に静まり返った部屋で、ピンポーン、とあのチャイムの音が聞こえた。
――ああ、やはり私の頭が狂っているんだ。
私は明日、すぐに精神科の病院へ行くことに決めた。




