第33話 死体洗いの高額アルバイト
ネットの掲示板で見つけた「深夜の清掃・日給10万円」という超高額バイト。
怪しいと思ったが、金に困っていた私はすぐに応募した。
指定された場所は、郊外の古びた病院の地下室。
そこには、物々しく全身が防護服で覆われた男が待っており、私を見るなり冷酷に命令した。
「ここに寝ている遺体を、この薬品を使って丁寧に洗え」
ベッドの上には、一人の男性の遺体が横たわっている。
まだ死後それほど時間が経っていないのか、非常に綺麗な状態に見えた。
私は厚手の特殊ゴム手袋と、無色透明の液体が入ったスプレーボトルを渡された。
「この『特殊な洗浄液』を遺体の全身に拭きつけて、ブラシを使って丁寧に、満遍なく塗れ。地肌の奥に染み込むまで、しっかりな。死にたくなければ、絶対に薬品に直接触れようとするなよ」
男にそう厳命され、いかにも化学薬品らしい、鼻をつく強烈な刺激臭に顔をしかめながらも、私は言われた通りに液体を塗布していった。
しかし、液体が男性の胸元や首筋に触れた、その瞬間だった。
遺体が、ビクン!と激しく痙攣したのだ。
私が恐怖でのけぞり、慌てて男に視線を向けると、男は平然と言った。
「死体の筋肉が、薬品に反応して動いているだけだ。手を止めるな、続けろ」
私は「お金のためだ」と自分に必死に言い聞かせ、涙目で遺体の洗浄を終え、報酬を受け取って逃げるように帰宅した。
後日。自宅でテレビを見ていると、ある殺人事件のニュースが流れた。
画面に映された被害者の顔写真。それは、あの日給10万円のバイトで、私があれほど必死に身体を拭いた、あの男性の顔だった。
どうやら、あの時の遺体はこの事件の被害者だったらしい。
まさか自分が殺人事件の遺体に直接触れることになるとは思いもよらず、私は少しだけ怖くなった。
しかし、あの時は心を込めて、丁寧に丁寧に遺体を清めたつもりだ。どうか成仏してほしい。
心の底から、そう思った。
画面の中で、ニュースキャスターが神妙な面持ちで原稿を読み上げている。
『司法解剖の結果、男性の死因は「フッ化水素酸」の皮膚吸収による急性心不全と見られ、遺体は同薬品の腐食作用により、全身が壊疽状態で、激しく損壊した姿で発見されました。犯人は、まだ生きていた被害者に対してこの劇薬を執拗に塗り込んだとみられており、極めて残虐な手口による殺人事件として、警察は事件直後に■■の廃病院へ出入りした人物の行方を追っています――』




