Extra Track 時間外の校舎
深夜、誰もいない職員室で、私は一人ノートパソコンに向かっていた。
導入されたばかりの「教育支援型AIシステム」の設定に思いのほか手こずり、なかなか帰れなかったのだ。
「はぁ、もう諦めて帰ろうかな」
私はそう独り言ちて、ふと壁の時計を見た。針は深夜『00:04』でピタリと止まっている。
先ほど見たときも、まったく同じ時間だった気がするが、気のせいだろうか。
なんとなく異様な違和感を覚え、私は職員室を出て廊下へ向かった。
どれだけ歩いても同じような薄暗い景色ばかりが繰り返されている。
もしかすると、私はあのネットで有名な都市伝説「バックルーム」に迷い込んだのだろうか。
スマホを取り出してみると、画面は「AI_CLASS_EVALUATOR」という見知らぬWi-Fiを拾っていた。
そのとき、静まり返った廊下に、けたたましいチャイムの音が響いた。
突然の爆音に、私の身体が跳ねる。
すると、暗闇の奥から、次々と生徒たちが「登校」してきた。
「おはようございます、先生」
私もよく知る、クラスの生徒の1人が礼儀正しく挨拶をする。
通りかかる他の生徒たちも、同じように私に挨拶をしてきた。
礼儀正しいもの、気軽なもの、適当なもの。様々だが、そのどれもが、不気味なほど滑らかで抑揚がなく、まるで機械の合成音声のようだった。
これは――「生徒たちの姿をしたAIの亡霊」だ。
私が先ほどまで教育支援型AIに入力していた生徒たちの個人情報によって自動生成された、生徒たちに似た「プログラム」だ。
無邪気な笑顔で話しかけてくる生徒たち。だが、その瞳は酷く空虚で、私を値踏みするように見つめてくる。
あまりの恐怖に耐えかね、私はその場で意識を失った。
翌朝、私はチャイムの音で目を覚ました。
眩しい朝の職員室。私は自分のデスクで突っ伏して寝ていたのだった。
周りを見れば、同僚たちがいつも通りに授業の準備をしている。
昨日の出来事は、ただの悪夢だったのだろうか。
だが、パソコンの画面に映る映像を見て、私はすべてが現実だったことを悟った。
そこに映っていたのは、登校してくる生徒たちに、笑顔で挨拶を返す私の姿だった。
次々と来る生徒に、何度も、何度も、何度も、挨拶を繰り返している。
不自然に抑揚がなく、寸分の違いもない、すべてまったく同じトーンでの完璧な挨拶を。
私は、今もこの場所から、画面の中の「私」を観測している。
中身がAIに置き換わった、より「合理的」な自分自身を。




