第30話 学校の怪談の4番目
「なぁ、この学校の『三大怪談』って知ってるか?」
放課後の教室で、友人がニヤニヤしながら話しかけてきた。
旧校舎の男子トイレの怪人、夜中に動く創立者の像、人体模型そっくりの皮膚のない化け物。
どれも定番すぎる、古典的な怪談ばかりだった。
「3つしかないのか? 相場は七不思議だろう」
私が呆れ笑いを浮かべて返すと、友人は真面目な顔になって、ゆっくりと首を横に振った。
「実は、誰も知らない4番目があるんだ」
「なんだそれ?」
その言葉に、私は少しだけ興味を惹かれた。
「この学校には、指名手配中の殺人鬼が潜んでるって噂だ。そいつは昼間はひっそりと息をひそめ、夜な夜な校内を徘徊しているらしい」
私は鼻で笑った。
「馬鹿だな。この学校、防犯カメラ完備なんだから、そんな奴がいたらすぐにわかるだろ」
「それもそうだな」
友人も照れたように笑った。
用事があった私はしばらく教室に残り、友人とはそこで別れた。
作業を終えて帰る頃には、すでに日が沈みつつある時間になっていた。
静まり返った校舎。
廊下を歩いていると、ふと友人の語っていた怪談のことが頭をよぎる。
実際にあり得るわけがないと思っていても、「もしかすると」という考えが勝手に浮かんでくる。
その時、夕日の逆光に照らされた人影が、廊下の向こうに見えた。
それは、包丁を持った「あの友人」の姿だった。
口の端を吊り上げた狂気の笑みを浮かべながら、爛々と目を血走らせ、こちらへ向かって猛スピードで走ってくる。
私は必死で逃げたが、友人は包丁を振り回しながら、人間とは思えない速度で迫ってきた。
あっさりと追いつかれ、揉み合いになるが、友人の腕力は凄まじく、まるで敵わない。
やがて、冷たい包丁の切っ先が、私の腹部の皮膚を深く抉った。
鋭い痛みの中、死を覚悟して抵抗する力も抜けていく。
――殺される。
諦めと恐怖に包まれた次の瞬間、なぜか、友人の姿は煙のように消えていた。
痛むお腹を必死に押さえながら、突如、私の脳裏に一つの奇妙な疑問が思い浮かんだ。
――そもそも、私と彼は本当に「友人」だったのだろうか。
いつ、どのようにして彼と知り合ったのか。
どれだけ思い返そうとしても、彼に関する記憶だけが霧のように曖昧なのだ。
もしかすると、彼は――自ら「4番目の怪談」そのものになろうとしたのではないだろうか。
そして、その怪談を外の世界へ語り継がせるために、私はあえて生かされた。
今となっては、そう思えてならない。




