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現代怪談短編集 霊話百物語  作者: ナハ子
【3章 職場・学校の怪異】
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第29話 タイムカードの記録

朝、出勤すると同期入社した同僚が不思議そうにタイムカードを睨んでいた。

どうしたのかと尋ねると、手にしたタイムカードを見せながら言った。


「これ……」


そこには、昨日の通常通りの出退勤の後に、『03:12 【出勤】』と、明らかにおかしい打刻がされていた。


「こんな遅くに出勤したのか?」

「そんなわけないじゃん。まったく身に覚えがないんだよね」


誰かの押し間違いか、それとも悪戯か。

どちらにせよ、妙な気味悪さを感じる。

同僚も同じことを思ったのだろう。私たちは総務課に頼み、オフィスの防犯カメラを確認させてもらうことにした。


画面に映るモノクロの映像を、目的の時間まで早送りする。

そして、時間の表示が「03:12」に近づいたあたりで等速再生にすると――。


画面の中では、オフィスに入ってきた同僚が、普通に自分のデスクでパソコンに向かい、キーボードを叩いている様子が映し出された。


「なんだ、やっぱり夜中に仕事しに来たんじゃん」

そう言って、私は同僚の方に視線を向けた。


だが――。


「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

突如、同僚は声を裏返らせ、耳を裂くような叫び声を上げた。

恐怖に顔を歪ませ、画面を食い入るように見つめている。


「おい、大丈夫か?」


総務課の担当者も心配そうに声をかけた。

だが、同僚は何も答えない。怖いくらいに目を見開き、画面を凝視しながら、歯を食いしばって口の端から泡を吹いている。


これ以上声をかけ続けても、「キチキチキチキチ」と、人間が出せるとは思えない虫の羽音のよう声を漏らすばかりで、まったく反応がない。


いよいよ命の危険を感じた私と総務課の担当者は、顔を見合わせ、すぐに救急車を呼んだ。



救急搬送されて行く間も、彼の口から漏れる「キチキチキチキチ」という奇妙な音は止まらなかった。


彼は今、精神病院の隔離病棟に入院している。

会社側は「過労による精神疾患」ということにして処理を済ませたが、私にはどうしてもそうとは思えない。


あの時、あの防犯カメラの映像は。

彼の目にだけは、一体どのように見えていたのだろうか。


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