第29話 タイムカードの記録
朝、出勤すると同期入社した同僚が不思議そうにタイムカードを睨んでいた。
どうしたのかと尋ねると、手にしたタイムカードを見せながら言った。
「これ……」
そこには、昨日の通常通りの出退勤の後に、『03:12 【出勤】』と、明らかにおかしい打刻がされていた。
「こんな遅くに出勤したのか?」
「そんなわけないじゃん。まったく身に覚えがないんだよね」
誰かの押し間違いか、それとも悪戯か。
どちらにせよ、妙な気味悪さを感じる。
同僚も同じことを思ったのだろう。私たちは総務課に頼み、オフィスの防犯カメラを確認させてもらうことにした。
画面に映るモノクロの映像を、目的の時間まで早送りする。
そして、時間の表示が「03:12」に近づいたあたりで等速再生にすると――。
画面の中では、オフィスに入ってきた同僚が、普通に自分のデスクでパソコンに向かい、キーボードを叩いている様子が映し出された。
「なんだ、やっぱり夜中に仕事しに来たんじゃん」
そう言って、私は同僚の方に視線を向けた。
だが――。
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突如、同僚は声を裏返らせ、耳を裂くような叫び声を上げた。
恐怖に顔を歪ませ、画面を食い入るように見つめている。
「おい、大丈夫か?」
総務課の担当者も心配そうに声をかけた。
だが、同僚は何も答えない。怖いくらいに目を見開き、画面を凝視しながら、歯を食いしばって口の端から泡を吹いている。
これ以上声をかけ続けても、「キチキチキチキチ」と、人間が出せるとは思えない虫の羽音のよう声を漏らすばかりで、まったく反応がない。
いよいよ命の危険を感じた私と総務課の担当者は、顔を見合わせ、すぐに救急車を呼んだ。
救急搬送されて行く間も、彼の口から漏れる「キチキチキチキチ」という奇妙な音は止まらなかった。
彼は今、精神病院の隔離病棟に入院している。
会社側は「過労による精神疾患」ということにして処理を済ませたが、私にはどうしてもそうとは思えない。
あの時、あの防犯カメラの映像は。
彼の目にだけは、一体どのように見えていたのだろうか。




