第27話 退勤用のエレベーター
深夜3時。ようやくその日も残業を終え、プロジェクトのチームメンバーたちと帰路につこうとしていた。
「やっと帰れる……」
誰かが深いため息と共に言った。
誰もいなくなったオフィスの電気を消すと、みんなでエレベーターに乗り込んだ。
私が「1F」のボタンを押した。静かに閉まる扉。
誰もが疲れ果て、会話はなかった。
動き出すと、錆び付いた油の匂いが鼻を衝く。
これだけで頭が痛くなるような心地がした。
するとすぐに、ガタ、と鈍い音がして、エレベーターが不自然に減速した。
見上げると、表示された階数は「4」だった。
私たちのオフィスは5階だ。まだ1階分しか降りていない。
チーン。
間の抜けた音が響き、扉がゆっくりと開いた。
しかし、外は真っ暗だった。照明の落ちた、見知らぬフロア。
静まり返った闇が、開いた扉の向こう側に広がっている。
「なんだ、故障か?」
同僚のひとりが言った、その時。
暗闇の奥から、無数の足音が近づいてくる。
ペタペタと、濡れた素足で床を歩くような、不快な音。
それも、一つや二つではない。
「閉めろ! 早く!」
誰かが叫び、狂ったように「閉」のボタンを連打した。
だが、扉は動く気配もない。
足音はついに、エレベーターのすぐ前まで到達した。
言葉にできないほどの冷気が、一気に密室の中に流れ込んでくる。
不意に、背後から声がした。
「あれ? ひとり足りないよ」
振り返ると、チームメンバーのひとりが、虚ろな目で私を見つめていた。
いや、違う。よく見ると、彼女の首はあり得ないほど細長く伸び、だらりと垂れ下がっている。
他のメンバーも、肌が土気色に変わり、白目を剥いて私を囲んでいた。
そこで、思い出した。
彼らは、とっくに全員死んでいたのだ。
日々の激務による過労や、中には自ら命を絶った者まで。
残っているのは私だけだった。
今、開いた扉の暗闇から這い出てきた「何か」が、私の両足を冷たい手でがっしりと掴んだ。




