第19話 異界へつながる歩道橋
いつもと変わらない夜の帰り道。私は駅前の大きな歩道橋を渡っていた。
深夜のために周囲に人影はなく、自分の靴音だけが夜の空気に虚しく響いている。
階段を上りきり、反対側の道路へ降りるための階段へ向かった。
トントン、とリズムよく階段を降りていく。
しかし、しばらく降りたところで、私はおかしなことに気づいた。
これだけ歩いているのに、未だに下に着かない。
まるでバグったプログラムのように。下っても下っても、一向に地面が見えてこない。
階段は暗闇の中をどこまでも下に、地深くへと続いている。道路のアスファルトは影も形も見えなかった。
恐怖が背中を駆け上がる。
私は引き返し、今度は階段を上がっていく。
しかし、やはりどれだけ段を進んでも、何も変わらない。ただ、無機質なコンクリートの階段が無限に続いているだけだった。
「誰か! 誰かいませんか!」
叫び声は、ただ霧散する。
ふと、手すりから下を覗き込む。ただ虚無だけが広がる空間。
私は意を決して、手すりを越え、そこに飛び込んだ。
目が覚めると、私は地面に倒れていた。冷たいアスファルトの感触と、目の前には、ビルの間に切り取られた青い空がどこまでも広がっている。
――良かった、戻ってこられたんだ。
そう思い、安堵のため息とともに辺りを見回した。
だが、ここはどこだろう。知らない場所だ。
街を歩く人がいる。だが、どこか強烈な違和感がある。言葉では言い表せないが、人間、とはハッキリと言い切れない、そんな微妙な差異。
そして、何よりも奇妙なのは、町を歩く人が皆、寸分違わず同じ格好、同じ見た目をしていることだった。
その中の1人と目があった。向こうも不審そうに私を見た。
近づいてきて、話しかけられた。
だが、その言葉は理解できないものだった。日本語ではない。かといって、どの外国語でもないように思える。
よく見れば、看板や標識に描かれた文字も理解不能なものばかりだった。
異世界の言語。
何故だか、そう直感した。
私は恐怖に叫んだが、その言葉は誰にも理解されなかった。




