第18話 深夜しか開かない古本屋
終電を逃し、薄暗い路地裏を歩いていると、見たこともない古本屋を見つけた。
看板には「深夜営業」とだけ書かれている。
深夜営業している古本屋なんて珍しい。始発までの時間を潰さねばならないこともあり、私はその店に吸い寄せられるように入っていった。
静まり返った店内に店主の姿はなく、古びた紙の匂いだけが充満している。
やはり、古本屋の雰囲気は独特だ。しかも、深夜ということもあってさらに不思議な心地がする。
適当に棚を眺めてみるが、見たこともない本ばかりだった。
そもそも、日本語の本が見当たらない。どこの国かもわからないような文字だけが並んでいる。
その中で、一冊、タイトルの書かれていない、真っ黒な本を見つけ、それを手に取った。
何気なくページをめくる。
幸い、中身は日本語で書かれているようだった。
しかし――
『男は終電を逃し、薄暗い路地裏の古本屋に入った』
そこに書かれていた文章は、まるで今の私を表しているかのようだった。
偶然だろう、と自分に言い聞かせてページをめくる。
『男は棚から黒い本を手に取り、何気なく中を開いた。そして、中身に微かに恐怖を抱いた』
額に脂汗がにじみ、心臓の脈が早まる。これは予言書だろうか。
だが、そこで一つ気が付いた私は思わず笑いを零した。
これはよくできたトリックだ。
まず、最初の『終電を逃し、古本屋に入った』という下りは、深夜営業の古本屋ということから、ここに訪れる人の多くはこの文章に該当する。そして、そのあとの『棚から黒い本を手に取った』という下りも、この文章を目にしている時点でかならず当てはまっていることなのだ。
最初の文章と組み合わせることで、恐怖心も言い当てられたような気になる。
これに該当しないものがこの文章を読んでも、その人にとっては「ただのつまらない文章」でしかないが、当てはまるものが読めば「自分の行動が言い当てられた」予言書のように感じる。
おそらくは店主の遊び心だろう。わざと異国の言葉が並ぶ中に配置したのも、目立たせて手に取られやすくするためかもしれない。
種がわかってしまえば、実に単純だ。
次はどんなことが書かれているのだろうかと、私はさらに読み進めた。
『男は内心で、見当違いな推理を展開している。大きな包丁を持った店主が真後ろで構えているとも気付かずに』
「え?」
ぞくりとした悪寒が身を襲い、私は振り向いた。
そこにいたのは薄く笑みを浮かべた、大きな包丁を構えた老人だった。
腹部に強烈な痛みが走る。
薄れゆく意識の中で、最後に見たのは、私が死に、ばらばらに解体される様子が鮮明に記されたページだった。




