第17話 行き止まりの公衆トイレ
夜遅く、急な腹痛に襲われた私は、公園の隅にある古い公衆トイレに駆け込んだ。
壊れかけた蛍光灯が、ジジジ、と耳障りな音を発し、頼りなく明滅する。
あまり清掃も行き届いていないのだろう。公衆トイレ独特の臭いが鼻をつく、気味の悪い場所だった。
1番奥の個室に入り、なんとか一息つく。
静まり返ったトイレの中に、自分の荒い息遣いだけが響く。
その時、コツン、コツンと静かな足音が近づいてきた。
誰かが入ってきたのだろうか。足音は私の入っている個室の前でピタリと止まった。
トントン。
ノックの音が響く。
返事をするのも億劫で無視していると、今度はドアをがちゃがちゃと開けようとし始めた。
鍵がかかっているので開かないが、それでも諦めず、執拗に開けようとしてくる。
変質者だろうか。
だが、警察を呼ぶほどでもない気がする。
私は返事をする代わりに、ドアを大きく1回叩いた。
静寂が戻る。これで諦めてくれたのだろうか。
安堵のため息を吐く。
しかし、妙に視線を感じ、ふと見上げた先に、首が異常に伸びた女の顔が、能面のように無表情に私を見下ろしていた。
悲鳴が喉に張り付く。
女は眉一つ動かさず、まばたきもせず、ただ大きく見開かれた生気のない眼球だけで、じっと私を見下ろしている。
狂気も、怒りも、笑いすらもない。
その完全な虚無が、この世の存在ではないことを表しているかのようだった。
パキパキと骨が鳴る音を立てながら、女の顔がさらに伸びてくる。
私の顔の、目と鼻の先――すぐ手前まで降りてきた。
私はそこから一歩も動けなかった。




