第11話 格安事故物件のシミ
大学進学を機に、私は格安の事故物件に引っ越した。
前の住人が室内で孤独死したという事故物件だそうだが、綺麗にリフォームされており、家賃も格安だったので一も二もなくここに決めた。
ただ1つ、壁の隅に、薄暗い人間の頭ほどの大きさのシミが残っていた。
どれだけクリーニングしても落ちなかったらしい。
私は気にせず、そこにタンスを置いて隠すことにした。
引っ越して一週間ほど経った、ある日の深夜。
妙に視線を感じて目が覚めた。
明かりをつけ、部屋を見回すが、誰もいない。気のせいだろうか。
ただ、一箇所だけ、違和感がある。
タンスが元の位置から横に動き、隠してあったシミが露出している。
地震があったわけでもないのに、こんな大きなタンスが動くなんて。
不思議に思ったが、私はタンスを元の位置、シミを隠せる位置へ戻し、再び眠りについた。
翌日。
家に帰ると、またタンスがずれていた。
やはり、こんな重いタンスがひとりでに動くわけない。
そこで私はタンスの位置に違和感があることに気が付いた。
タンスが動いたのではない。
シミが動いたのだ。
その事実に気が付いたとき、全身をぞわりと悪寒が襲った。
よく見ると、シミの形も最初に見たときとは違っている気がする。
最初はもっと丸かったのに、今は妙にごつごつとして、まるで人間の横顔のようだった。
なんだ、このシミは。
明らかに普通ではない。
金縛りに遭ったように、急に身体が動かなくなった。
シミの表面から、ドロリとした黒い液体が滴り落ちる。
そして、壁から這い出るように漆黒の手が伸び、私の首へとゆっくり伸びてきた。




