↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公務員(サムライ)を目指していたらラスボスになっていた  作者: 夏目くちびる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/26

022 袋のネズミ

 雨足が弱くなった放課後、無月小隊は徳川学園の校舎裏に集まっていた。

 夜叉、瀧院、仄目は、リーダーの滅茶苦茶なアイデアを聞いて驚きを隠せないようだった。



「だから、抜けてもいいぜ」



 ……突き放すような、冷たい声。



「きっと、ありもしねぇことで難癖つけられて、事あるごとに問題に巻き込まれる生活が始まるだろう。

 そんなもん、お前らからすりゃ――」


「一緒にいく。だって、初恋だもん」



 しかし、そんな言葉は聞きたくないと、遮って否定する夜叉。

 彼女に続き、瀧院と仄目も一歩を踏み出した。



「僕も行くよ。スリリングな青春の方が、将来思い出した時にセクシーだろうからねっ!」


「というか、他に行くところがないです」



 どうやら、要らぬ心配をしたようだ。

 無月は、気恥ずかしさに僅かに目を伏せてから、徐に立ち上がった。



「言い忘れてたが――これが終われば、柳生会長が好きな褒美をくれるってよ。お前らも、何か考えておけ」


「いや、褒美はキミから貰うよ。カゲロウ」


「あぁ? なんで?」


「僕らのボスは、キミだからね。そうだろ?」


「……アホ」



 そして、三人は無月の後に続く。

 学芸銀座を歩く途中、意外なことに、彼らは一度も襲撃を受けなかった。



「ところで、瀧院さん。夜叉さんって、無月さんと付き合ってるわけじゃなかったんですか?」


「僕も最近知ったけれどね、どうやら違うみたいだ」


「ふぅん」



 物騒な発言で愛を伝える夜叉を見て、静かに頷く仄目。

 しかし、彼女は改めて自分の服装を見つめると、ブンブンと頭を振って頬をピシャリと叩いた。



「瀧院さんは、なぜ無月さんと居るんですか?」


「なんだい、仄目。今日はやけに喋るじゃないか」


「ボクは、ただ、ボクのボスがどんな人なのかを知りたいだけです。比武で見た時と、あまりにも印象が違うので」


「そっか。ならば答えよう。僕は、カゲロウの生き方を近くで見ていたいんだ」



 静かに微笑み、ため息をつく瀧院。



「見ていたい?」


「気にならないか? 彼が、どんなふうに生きるのか。彼の道の先に、一体何があるのか」



 まるで、自分のことのように楽しそうな表情に、仄目は何も言えない。



「ドラマティックな出会いじゃなかった。かけがえの無い出来事を共有してるわけでもない。

 けれど、カゲロウは僕を仲間に選んでくれた。それだけで、男を賭ける理由には充分だ」


「……なるほど」


「キミだって同じだろう? 仄目。カゲロウは、何があっても変わらない。そう信じたから、仲間になったんだと思っていたけれど」


「そ、そう見えますか?」


「見えるね。キミは、自分の価値を他人に委ねることに慣れている。そんな自分が大嫌いで仕方ない……ってね」



 よく、人を見ている。



 なぜ、カゲロウが実力も分からなかった瀧院を最初に誘ったのか、その本当の理由が仄目には分かった気がした。



「見られてるな」



 ワイシャツのボタンを一つ開け、静かに呟く無月。



 どう考えても、昨日までとは雰囲気が違う。腕試しに挑んでくるのではない、明らかな敵意がそこかしこから向けられている。



「誰に?」



 夜叉が、桃水に手を置いて後ろを警戒する。



「侍至上主義派閥か、真田純勇士かじゃねぇの」


「平律志士って線は?」


「ないだろ。奴らが俺を敵認定する事件は、まだ起きてないぞ」


「それはどうかな。カゲロウくん、ミソラって人に偉そうなこと言ったんでしょ? それが気に食わない平律志士だって、たくさんいるんじゃないかな」


「……なら、引きずり出すか。火種は多い方がいい」



 合図を出すと同時に、十字路を四方向へ走り出す四人。

 監視していた連中は、決して一つの勢力からの刺客ではない。彼らは急な動きに迷い、それぞれを個別に追いかける。



(二人……武田生か)



 建物の壁面に張り巡らされた配管を素早くよじ登り、姿を現した刺客の背後を取った仄目は一撃で一人を叩き斬る。



「んな……っ!?」



 続けざま、追撃。



 ヒュッと音を立てて空を斬る脇差――『蝉丸(せみまる)』を、水平に構えて敵を見る。

 武器が刀じゃない。恐らく、平律志士だろう。踏み込んでメイスのような鈍器を叩きつける少年の首を、交差した瞬間に食い千切る。



「うげ……っ」



 気絶して、白目を剥く二人を横目に高い塔の上に立ち、指で作った輪を通して学芸銀座を見下ろす。



 ……見つけた。



 瀧院と夜叉は、既に勝利しているらしい。転がっているのは、いずれも平律志士だが――驚いたのは無月の状況だ。



「柳生ミソラと……さ、真田ユキナリ!?」



 無月小隊は、策にハマったのだ。



 ミソラは無月に断られた直後、真田とコンタクトをとっていた。

 真田は、彼女にとってのセカンドプランだったのだが――正義を信じる真田にとって、平律志士の思想は決して否定するものではない。



 それどころか、彼は守るべき存在だと確信していたのだ。



 更に、無月は自分の行動を過小評価していた。今や有名人の彼が桂と敵対したことは、既に情報屋を通して各勢力に伝わっている。

 そして、の事実は、平律志士の目にこの上なく不気味に映った。



 当然だ。



 自分たちの要請を断ったにも関わらず、対立する思想を持つ侍至上主義派閥と戦うなど意味不明にも程がある。



 そこで、彼らは無月の思惑を知るための作戦に出た。



 四人をバラけさせたのは、ミソラの策略だ。

 あらゆる場所から視線を送れば、無月は必ず刺客を炙り出そうとするだろう。



 そこで、平律志士と真田純勇士は、最大戦力を無月一人に集中させた。各個撃破と見せかけて、最初から無月を孤立させることが目的だったのだ。



「正義の味方が捨て駒かよ。あいつらは、雑魚に負けるような実力じゃねぇぞ」



 無月は、呆れたように真田へ告げる。



「お前を止めるための、仕方ない犠牲だ」


「一つ聞きたいんだが、あいつらを追った刺客の中に真田純勇士はいたのか?」


「……いや」


「あんた、歪んでるぜ」



 真田の眉が、ピクリと動く。



「あたいの作戦だ、責めるならあたいにしな」



 精神攻撃を読んだミソラが、すぐさま真田を肯定する。

 なるほど、これは厄介な敵だ。彼女の機転と迷いの無さに、柳生ジュウザの影を見たような気がする。



「ユキナリ、包囲が完了したよ」



 無月の後方から現れた海野リッカと三好(みよし)セリが、端的に告げて武器を構える。



 真田純勇士は、この広場に繋がる全ての道を封鎖している。海野リッカの計略だ。彼女の頭脳が、この孤立無援の状況を生み出した。



「さぁ、教えてくれ。無月。なぜ、桂先輩たちと敵対したんだ?」


「予見を使えよ。そうすりゃ、俺が大人しく答えるかどうかも視えるだろ」



 挑発されて冷静さを失いかけるも――しかし、静かに能力を使う真田。

 ……妙だ。彼の目に視えたのは、どういうわけか、背中を向けて全速力で逃げる無月の姿だった。



 そんなこと、あるはずがない。



 今、この状況でも、無月なら決して勝ち目がないとは言えない。

 一度、剣を交えたからこそ分かる。万全の悪魔には、それほどの実力がある……と。



 ならば、なぜ?



 そう考えた刹那――。



「よぉ、カゲローちゃん」



 空から、『最強』が降ってきた。



「み、宮本……先輩?」


「遊びに来たぜ。鈍繰には慣れたか?」


「……慣れた?」



 ミソラの呟きに、背筋を冷たい汗が伝う。



 この瞬間まで、無月は鈍繰の存在を無月小隊にすら、ひた隠しにしてきた。

 それは、決してプライドからではない。自分の獲物か使い物にならない鈍らだとバレれば、それだけで相手の手札を増やすリスクを負うと承知していたからだ。



 それを、この男。



「カカッ」



 一番最悪なタイミングでバラしやがった!!



「クソ……っ」



 すぐさま踵を返し、道の一つへ走っていく無月。



 しかし、誰よりも早く動いたのは宮本だ。まるで、水面を滑るように疾走って無月の正面に立ちふさがると――。



「ばぁ」



 ガギィン!!



 無銘金重を、何の躊躇も無く叩きつける。



 辛うじて鈍繰で防いだが――その衝撃で吹き飛ばされた無月は、ほとんど最初の立ち位置へ戻されてしまった。



「そういう場合じゃねぇのは分かるだろ、宮本先輩」


「でも、俺は言ったぜ。カゲローちゃん。『好きな奴に裏切られっと、殺したくなる』って」



 ……その一言で、無月は悟った。



 今、ここで力を示さなければ、自分は宮本武蔵に殺されるのだろう……と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。