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第15章:絆の場所 パート2

対話は、さらに熱を帯びていった。

それはもはや単なる会話ではなく、互いの信念をぶつけ合う激しい議論だった。

私は必死に、あの変な男の子を守ろうとしていた。対してきずなさんは、自販機の「独占者」の正体を暴くという職務を遂行しようと、冷徹な言葉を私に突きつけてくる。

私に言わせれば、それを「独占」と呼ぶのは少し乱暴すぎる。規則の上では、あいつが自販機の中身を買い占めるのは正当な権利のはずだ。だからこそ、私たちの主張は真っ向から衝突した。

「……何度も言っているわ、レナさん。生徒会には一般生徒から多くの抗議が寄せられているの。自販機が使い物にならない、と。私たちはそれを調査し、解決する義務があるのよ」

絆さんの声は相変わらず平坦だったけれど、その奥には私を追い詰めようとする確かな圧力が感じられた。

彼女は頑なに「独占」という言葉を使い続け、生徒たちの抗議と調査の正当性を説く。

「学年最高の委員長」、そして生徒会保安部のメンバー。彼女がその職務に忠実であることだけは、認めざるを得なかった。

けれど、不思議と嫌な気分ではなかった。

……こんなにも誰かと、本音で、よどみなく言葉を交わせるのは、私の人生で初めてのことだったから。

「……結局のところ、絆さんはあいつの正体を知りたいのよね? あのノートを見て、確信を持ったから」

「……その通りよ。だから、あなた自身のためにも、すべてを話しなさい」

沈黙が流れる。私は出口を探して思考を巡らせた。

これ以上議論を長引かせたくはない。けれど、あいつを裏切るなんて、口が裂けてもできない。

……どうすればいい?

絆さんの視線が、私の唇から漏れるはずの「言葉」を逃さず捉えようと、さらに鋭さを増す。

喉が渇き、生唾を飲み込んだ。額を流れる汗は、暖房のせいだけではないことは分かっていた。

何か、最善の解決策はないのか。

……あ、そうだ。

よく考えてみれば、今の状況はあの時の恵美えみさんとの一件に比べれば、少しも恐ろしくなんてない。私はただ、ありのままの自分でぶつかればいいんだ。

私はいつも、完璧で隙のない「レナ・シオリ」を演じることに囚われていた。けれど、もうそんな必要はない。完璧に立ち振る舞うことなんて、今の私には無意味だ。

目の前にいる中野絆という少女は、どこか私に似ている。

……誰かからの期待や、課せられた職務の重圧と戦い続けている、不器用な一人の女の子。

「……ねえ、絆さん」

私はようやく、口を開いた。

「人を好きになったこと、ある?」

自分でもどこへ向かうのか分からない、唐突な問いかけ。

ただの思いつきに過ぎなかったけれど、私はあえてそれを言葉にした。

絆さんが不思議そうに首を傾げる。論理的な議論から逸脱した私の言葉に、彼女の「鉄仮面」が初めて困惑の色に染まった。

あいつ――あの変な男の子に教わったんだ。「話をそらす」という魔法を。

絆さんから見れば、私の言葉は支離滅裂しりめつれつに見えるだろうけど……。

「……どうしてそんな質問をするの?」

絆さんが問い返してきた。

「いいから、乗ってちょうだい、絆さん。答えを聞かせてくれたら、私もあいつのことを話すわ」

彼女は一瞬、迷うように視線を泳がせた。

やがて、小さく、けれど確かに頷いた。

「……分かったわ。話しましょう」

彼女は淡々と続けた。

「恋……という感情。最初は理解できなかった。けれど最近、少しずつその輪郭が見えてきたような気がするの」

「それって……誰かを好きになったってこと? それとも、今まさに誰かを想っているの?」

私は好奇心を抑えられずに尋ねた。

絆さんは無表情のまま、答えた。

「……どうかしら。最近、叔母さんが恋愛小説を書いていて。プロットに行き詰まっているというから、私がリサーチを手伝っているのよ」

「手伝い……?」

「ええ。育ててもらった恩返しよ。だから私は、ロマンスというジャンルそのものを論理的に理解しようと努めているの」

最初は話がどこまでも拡散していくのかと思ったけれど、気づけば私たちの会話は、自然と一つの方向へと収束していった。

「それで? 何か掴めたの?」

「……『興味』よ」

彼女は短く答えた。

その瞳が、獲物を捕らえるかのような強さで私を射抜く。

「……つまり、あなたも誰かに興味を持ち始めたってことなのね?」

「……そうなるわね」

「誰なのか、聞いてもいい?」

「……教える必要があるかしら?」

あいにく、無理に聞き出すことはできなかった。情報を隠し、あいつを守ろうとしている私には、彼女を追求する権利なんてない。

私たちはしばらく黙り込んだ。

気まずさからではない。先ほどまでの張り詰めた空気が、少しずつ和らいでいくためのインターバル。

「……分かったわ、絆さん。正直に話してくれてありがとう」

沈黙を破り、私は微笑んだ。

「ノートに書いてあったあの人のこと。……もう気づいているでしょうけど、あいつは一人の男の子よ。……私は、あいつを守りたいの。……だって、好きだから。……これ以上に、納得できる理由なんてないでしょ?」

絆さんは黙ったまま、私の言葉を租借するように何度か頷いた。

「……理解したわ」

長い沈黙の末、彼女は言った。

「何を理解したの?」

「……人は恋のために、すべてを賭けることがある。……かつて読んだその一節を、ようやく腑に落ちる形で理解できた気がするわ」

恋のために、すべてを賭ける……か。

まさに、今の私のことだ。何一つ間違っていない。あいつのためなら、私は生徒会だって敵に回せる。

「……ごめんなさい、絆さん。男の人が怖くてたまらなかった私が、初めて好きになった人なの。だから、どうしても譲れないの」

「事情は把握したわ。……あなたがメイクもしていないのに、これほど美しいのは母譲りなのね。モデルをされているという叔母さんの話、本当だったのね。だからあなたは、多くの男たちに煩わされてきた……」

「……ええ。母の遺伝ね」

「……分かったわ。不問に付しましょう。……ただし、彼には次からは控えるように伝えなさい」

「……えっ?」

あまりに予想外の、そして救いに満ちた言葉に、私は目を見開いた。

……絆さんは、不問にしてくれるというの?

「他の役員には私から説明しておくわ。……でも、二度目はないから」

彼女は釘を刺すように、けれどどこか優しく言った。

「……本当!? ありがとう、絆さん!!」

私はこらえきれず、満面の笑みを浮かべた。あいつを救えた。私の我が儘が、この「鉄の委員長」を動かしたんだ。

「……叔母さんの小説の、良いリファレンスになりそうだわ」

「そうね。……あいつには、きつく言っておくわ!」

絆さんが短く頭を下げ、私もそれに応えた。

激しい論争の末、私たちは「和解」という名の穏やかな着地点を見つけた。

絆さんの顔を覗き込むと、彼女はどこか戸惑ったように首を傾げた。

「ねえ、絆さん。私たち、こんなに話したの、今日が初めてよね?」

私は笑顔で尋ねた。胸の奥が、信じられないほど軽くなっている。表情筋が勝手に動いて、この幸せな気分を維持しようとする。

「……そうね、レナさん。私は他人に心を開くのが苦手で、いつも黙っていたから」

彼女は続けた。

「でも、今日……。少しだけ、自分をさらけ出せた気がするわ。……こういう時間を過ごすのも、悪くないわね」

その瞬間、私は見た。

絆さんの唇の端が、ほんの、ほんの数ミリだけ上がったのを。

彼女は笑おうとして、けれどすぐにいつもの無表情へと押し戻した。

何があっても、もう大丈夫。嫌な予感なんて、どこにもなかった。

さて。……次こそは、あいつを捕まえて、このことを報告してやらなきゃ。

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