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第10章:コントラスト

恵美えみさんと一緒に作業をするのも、今日で二日目。

正直、彼女は「良いパートナー」とは言い難い。私たちがすべきなのは、ただ備品をチェックして体育祭のために整理することだけなのに、なぜか作業は滞りがちだった。進展がないどころか、停滞していると言ってもいい。

けれど、投げ出すわけにはいかなかった。陸上部の名誉がかかっているから。

それに、これは生徒会からの直々の命令だ。もし部活がこれに従わなかったら、どんな不利益を被るか分かったもんじゃない。予算の削減、活動休止……最悪の場合、強制廃部なんてこともあり得る。

本当なら部活の存続なんて興味はないけれど、どういうわけか……今は生徒会に目を付けられるわけにはいかない、という予感があった。それが、私がこの部活を助けようとする唯一の動機だった。

作業中、空気はずっと重く沈んでいた。

昨日の今日だ、気まずくないはずがない。私は今でも、どこかで身構えている。

もし彼女がまた鉄定規を取り出したら、昨日と同じように抗うしかない。手首を掴むか、彼女が泣き出すまで追い詰めるか。止めるためなら何だってするつもりだ。

……けれど、そんなことより私の頭を占めているのは、あいつのことだ。

あの変な男の子に、一刻も早く会いに行きたい。

「嫌いじゃない」と、あいつが真っ直ぐに言ってくれたから。

その言葉だけで、私の人生に新しい何かが芽生えたような、そんな晴れやかな気分でいられた。

今はまだ、その感情の正体をうまく掴めてはいないけれど……。今は、深く考えるのをやめておこう。

私は作業に集中することにした。早く終わらせるために。

体育祭で使う備品を一つずつ確認していく。

旗、ボール、ロープ、そしてリレーのバトン。

手帳を開き、リストアップした項目にチェックを入れていく。数が揃っていることを確認し、散らばらないように整頓する。

旗は紛失しやすいから、段ボールにまとめて入れた。赤と青、色ごとに分けて。

ボールやロープ、バトンはまだ管理しやすい。種類ごとに別の箱に詰め込めば、それで終わりだ。

本来なら、簡単な作業のはずだった。

昨日、あんなことにならなければ……埃だらけの倉庫を掃除するなんていう、無意味な時間を過ごさずに済んだのに。

私はノートを閉じ、恵美さんの方を向いた。

「……私は終わったわ。恵美さんはどう?」

沈黙を破り、私は尋ねた。

彼女が振り返り、私を見る。

「……ええ。あともう少し」

「そう。じゃあ……お先に失礼するわね」

もうここに残る理由はない。あいつを待たせるのは、今の私にとって一番避けたいことだ。

明日には報告書を生徒会に出して、この仕事からも解放される。そうすれば、中間試験まで自分の時間を確保できるはずだ。

けれど……扉を開けようとした瞬間、恵美さんに呼び止められた。

「……待って」

掠れた声だったけれど、私の足を止めるには十分だった。

「……何?」

私は振り返り、少しだけ苦い笑顔を浮かべた。

彼女は落ち着かない様子で、指先をせわしなく絡めていた。

「レ、レナさん……っ!」

彼女の声は震え、途切れがちだった。視線を泳がせ、私と目を合わせるのを避けている。

数秒の葛藤の後、ようやく彼女は私を真っ直ぐに見据えた。

「……ごめんなさい!!」

彼女は勢いよく頭を下げた。

……なんて返せばいいのか、分からなかった。私はただ黙って、彼女の次の言葉を待った。

「昨日のこと……本当に謝りたくて。怖かったわよね? 鉄定規なんて持ち出して、あなたを傷つけようとするなんて……。あの時の私は、どうかしてたの」

「昔から、情緒が不安定なの。目立つもの、輝いているものを見ると……どうしても憎たらしくなって、苦しくなるのよ」

彼女は独白するように続けた。

「……羨ましかったのよ、レナさん。私も、目立ちたかった。……無視されるのが、置いていかれるのが、怖くてたまらないの」

その言葉に、私は息を呑んだ。

胸の奥に、じわりと温かいものが広がる。

あんな行動に出た彼女の「根源」を知って、私の心が動かされたのを感じた。

「……そうだったのね。私の方こそ、あなたを不快にさせてごめんなさい」

気づけば、私も謝っていた。

「いいの。私が勝手に嫉妬して、自分勝手に振る舞っただけだから。……誰かに見てほしくて、必死にお洒落をして、ようやく手に入れたのが……零治れいじくんだったの」

彼女は俯いたままだ。その背中が、どこか小さく見えた。

彼女は自分の過ちを本当に悔いている。その誠実さは、十分に伝わってきた。

結局のところ、私と久保田恵美は「対極」にいるのだ。

注目されることを嫌い、期待という重圧から逃げ出したい私。

それに対して、注目されることを望み、誰かの特別でありたいと願う彼女。

「……それに、本当にごめんなさい」

彼女はさらに声を絞り出した。

「何の証拠もないのに、あなたが零治くんに色目を使ってるなんて決めつけて。……最低よね、私」

「最近の零治くん、大会の準備でずっと忙しくて……連絡もろくに取れなかったの。彼は部長として、何よりも競技を優先する人だって……最初から分かっていたはずなのに」

「……恵美さん。顔を上げて」

私は静かに告げた。

彼女がゆっくりと顔を上げる。頬は赤らみ、瞳には涙が溜まっていた。

そんな彼女を見て、私はたまらなく申し訳ない気持ちになった。

彼女を責める資格なんて、私にはない。死を選ぼうとした私に比べれば、必死に自分の居場所を守ろうとした彼女の方が、ずっと立派に見えたから。

恵美さんが欲しがっているもの――注目、美貌、完璧さ。私はそれらを持って生まれてきた。けれど、それは私が選んだわけじゃない。

すべては「運命」だ。抗うことのできない、絶対的なもの。

「……分かったわ、恵美さん。もう、蒸し返したりしない」

私は彼女の瞳をじっと見つめ、優しく微笑んだ。

「……許すわ。もう、気にしないで」

許されたことを知った瞬間、彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。彼女は慌ててそれを拭う。

私は、彼女が泣き止むのを待った。

今の私の笑顔は、いつもの作り物じゃない。誰かに見せるための仮面でもない、本当の笑顔だ。

静まり返った倉庫に、彼女の鼻をすする音だけが響く。

……その時だった。

重い鉄の扉が、外側から不意に開かれた。

――ガチャンッ!!

「……えっ?」

招かれざる訪問者に、私たちは言葉を失い、反射的に扉の方を振り返った。

一体、誰――?

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