【第2話】たーみねーしょん②
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チュンチュン・・・
やわらかな朝の陽ざしに包まれながら寝ぼけた目をこする。
近くのテーブルに置いてあった飲みかけの生温いドクターペッパーをぐいっと呷る。
昨日つけっぱなしのまま寝てしまったようだ、室内のテレビは今日の天気予報を終え目覚まし時計のキャラクターが現れ現在時刻を告げる。
「ぎゅいーん!8時!8時!」
「ぶーーーーーっ!!!!」
盛大にジュースを吹き出し告げられた時刻に絶望を突きつけられた。
僕の家から学校までは歩いて30分ほどかかる。普段は7時半には余裕をもって出発してちょうどいい時間に着くのでほぼ遅刻確定である。
「うわぁ、アラームセットしてなかったのか・・・!」
一刻も早く出発しなければならないが、昨日ほとんど何も食べずに寝てしまったためぐぅ~とおなかは自己主張しだす。
朝食なんて食べてる暇はない。すぐさま制服に着替えて家を飛び出した。
・・・走れば何とか間に合うか?
かなり厳しい状況だがとにかく走るしかない。
途中の商店街の街頭時計をみると、このまま突っ走れば何とかギリギリ間に合いそうな時間だった。
・・・はずだった。
学校が見えてきたところで昨日見たばかりで記憶に新しい大きめの背格好を見かけた。
・・・そしてそれを取り囲むように5人ほど。
言うまでもないがもめているようだ。制服はブレザーではなく学ランであり他校の生徒とみて間違いない。
学ランも着崩した着用、いずれもカラフルな頭髪。
・・・うん。見た感じ素行のいい生徒ではないな!
駆け抜けて素通りすれば遅刻は免れるか?
・・・結構道を塞いじゃってるみたいだし難しいか。
こっそりと近くの空き地の塀の陰に隠れて耳を澄ます。
「悪りぃけどどいてくれないか?停学解けてやっと今日から学校なんだ」
寧斗があからさまにめんどくさそうな顔をして不良グループに問いかける。
「しったこっちゃねえなあ!おめぇが万上さんの顔に泥塗ったのがいけねえんだろうが!」
頭頂部にバナナを乗っけたような黄色モヒカンの下っ端ヤンキーがハイトーンボイスでまくしたてる。
「いや、泥もなにもあんたが勝手に転んで脱臼しただけだろ」
「てめえが俺っちのパンチを避けるのがいけねえんだろがい!」
万上と呼ばれるリーゼントの親玉がいらいらした様子でむちゃくちゃないちゃもんをとばす。
「・・・とにかく勘弁してくれ、また停学になったらばあちゃんに顔向けできねえ」
寧斗は下手に出ていたがヤンキー集団は見逃すつもりはないようだ。一向に道を開けようとしない。
次第に我慢してた様子の寧斗もイライラしだしたのか徐々に口調が荒くなってきている。
僕が飛んで行ったところで事態がややこしくなるだけだし、火に油を注いでしまいかねない。
少し考えた末にその場しのぎではあるが打開策を実行してみることにした。
「お巡りさーーん!!こっちでーーす!!」
塀の陰から飛び出して大声で叫びながら不良の集団を指さす。
「ちっ、余計なことを。・・・解散するぞ!」
万上含めた不良たちはそそくさとその場を離れていった。
よし、今のうちに。
寧斗のそばに駆け寄り「ほら、今のうちに学校行くぞ!」と声をかける。
「お前は昨日の・・・」
呆気にとられたような顔で寧斗が僕の後について駆け足で校門を抜けた。
校門を抜けたところで朝のHRの予鈴が鳴った。
「あー・・・、間に合わなかったか」
がっくりとうなだれる僕に状況の整理が追いついたのか寧斗が礼を言ってきた。
「警察を呼んだってのは演技だろ?ありがとな」
「プリント届けた仲だからな」
そういうと「ははっ、そうだったな」と寧斗が笑った。
「担任に転入の自己紹介があるから登校したら職員室に先に出向けって言われてんだ。だからまだ急げばぎりぎり遅刻は免れられると思うぞ」と言って寧斗が僕の背中をポンとたたいて職員室の方へと走って行った。
寧斗と別れて教室に入ると教室中の視線が僕に注がれる。
なるべく目が合わないように俯きながら自分の席に着く。
いやー、暑い。汗だくだ。
家から着席までほぼ全力疾走だったからな・・・。
席について一呼吸終えると隣の席からシャーペンで脇腹をつつかれる。
「おそいぞ、寝坊か」
「寝坊だけだったらまだよかったんだけどな」
無表情の絵入さんとそんな挨拶を交わし、ブレザーの上着を自分の座ってる椅子に掛ける。
「ちょっとちょっとお、加湿器みたいなのが入ってきたんですけどお?」とわざとらしい嫌味が聞こえたが無視する。
僕が来てから少しして廊下のほうから藤崎と寧斗が教室のほうに近づいてくる気配がした。
「ここがお前の教室だ。まあ馴染みづらいかもしれんがいい具合にやってくれよ」
「すんません、いろいろ迷惑かけちまって」
「いいっていいって、小っちゃい姉弟がいるんだろ?」
そんな雑談が聞こえつつガラッと前方の入り口が開いて藤崎が教室に入ってきた。
「うーす、遅くなったな。巻きでHR始めるぞー」
特に休みはいなそうだな、といって出席確認をすっ飛ばす藤崎。
「ちょっと遅れたがもう一人の転校生だ。多見、入ってきていいぞ」
ガラッと教室の前方が開いて寧斗が入り口に頭をぶつけないように少し屈んで入ってくる。
体格のいい寧斗はそれだけで注目の的になっていたが、もとより体格に負けない厳つい顔つきが教室に緊張感と沈黙をもたらした。
・・・いや、あれは普段の表情じゃないな。緊張しているのか、全体的に固まっている印象だ。
ゴクリ・・・、と誰かのやっと生唾を飲み込む音が静かな教室に反響した。
沈黙を破るように藤崎が心配して声をかけた。
「お、おい大丈夫か多見?」
「ダ、ダイジョブッス」
あきらかに大丈夫ではなさそうだった。
教室の後方を一点凝視したまま両手を上げたり下げたりしている・・・。
「と、とりあえず黒板に名前書いて自己紹介してくれるか?」
「コ、コクバンニナマエ」
生まれたてのロボットみたいになっている寧斗がカクカクとした動きでチョークで黒板に名前を書く。緊張のせいか力が入りすぎて一本目のチョークがはじけ飛んだ。
緊張のせいか次はピンクのチョークを無意識にチョイスした。幸か不幸か少しだけハートフルな感じに仕上がった。
名前を書き終えてこちらに向き直ると「タミネイトデス」と自分の名前を読み上げた。
いつもならこの辺でクイーンの「キラキラネームすぎじゃな~い?」とかいう野次が飛んできそうなものだが、相手が寧斗なだけに切り込めずにいるようだ。
・・・と、ここで音糸が僕と絵入さんに気付いた。
「バツドサン!エイリサン!」
「えっ・・・、なんかやばくない?」とさすがに思ったことを口に出す立華さん。
「知り合いか?」と本気か冗談か判断に困る質問を投げかけてくる絵入さん。
「いや、昨日会ったじゃん・・・」
「ああ、抜戸と絵入は昨日プリント届けた時に会ったのか。まあ・・・なんだ、仲良くやってくれ」
教室内の凍てついた空気に耐えられず半強制的に藤崎が寧斗の自己紹介を打ち切った。
「多見とりあえず着席しとけ、・・・なっ?」
そういいつつざっくりと教室内を見回して寧斗の席を決めようとする藤崎。
・・・・まぁ、空いてる席ひとつしかないんだけど。
「じゃあ抜戸の前の席だな」
必然的に決まった自分の席に寧斗が着席する。
以前は普通に見えていた黒板が寧斗の逞しすぎる背中に8割方遮られて見えなくなったのは言うまでもない。
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「いや、ちげぇんだって」
1時限目が終わって休み時間になると廊下に出た寧斗がそう弁明した。
「みんなドン引きしてたぞ」
悪気はないんだろうけど、とどめを刺すかのように絵入さんが言った。
「・・・・」
絵入さんも同じ穴の貉だったと思うけど、それを別の意味で上回っていたような気がしたので僕は何も言わなかった。
「ああいう注目に耐えられないんだよ、昔っから」
「喧嘩とかのほうが緊張しそうなもんだけどね」
「そういうのは場数的なもんかな。最初は弱っちかったから震えてたけどな」
場数って・・・、どんだけ喧嘩してきたんだよ。
「まぁとりあえずこれからよろしくな。俺多分さっきのでやらかしたからお前ら二人しか身寄りがねえからよお」
と、ロボット自己紹介事件はあまり気にしていないようにけたけたと笑う寧斗。
「くれぐれもあまり目立つようなことはするなよ?」
「どの口がいってんのさ・・・」
急に先輩面をする絵入さんに冷ややかな視線を送った。




