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【第2話】たーみねーしょん③

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昼休み。

隣の席でがさごそと机の中からパンの耳を取り出して捕食している宇宙人に声をかけた。

「ねぇ、それ美味しいの?」

完全に自分の世界に入っていたのかビクッと驚いたような反応を示した絵入さんだが、しばらく咀嚼したのちにパック牛乳で流し込んだ後に、「信じられんくらいうまい」とややマジ顔で言う。

「そ、そんなに?」

僕が気にしているのを悟ってか、無表情のままがさごそと袋を漁りだした。

「ん、ちょっとおっきいやつあげる」と珍しく可愛げのある一言とともに絵入さんは非常食を差し出してくれた。

「ありがとう。お、砂糖がまぶしてあるのか」

ぱくっと一口食べてみると実に優しい甘みのあるなんだか懐かしい味だ。これは確かに美味い。

「美味いなこれ!」

「ふふん」と自分が作ったわけでもないのに得意げに胸を張る絵入さん。

「パンも美味しいんだが、おばちゃんが独自ブレンドした砂糖をまぶしてくれるんだ」

おばちゃんとは商店街のパン屋の店員さんのことだろう。縁あってパンの耳を授けられる仲になったとか言っていたが、・・・餌付け?

「めちゃくちゃいい匂いがする・・・」そういって寧斗もこちらに振り返ってクンクンと鼻を動かす。

僕と同様に絵入さんがパンの耳を取り出し寧斗にも与えた。

特に意識はしないつもりだったのにパンの耳の大きさを気にしてしまう。

「なんて優しい味なんだ。もうちょっとくれよ」

「だ、だめだ。私のストックがなくなる」

催促する寧斗に対し食べられまいと机の奥にがさっとパンの紙袋を押し込む絵入さん。

「おなか減ったし学食でもいく?朝ごはん食ってないんだよね僕」

僕の提案に絵入さんと音糸が賛同し三人で食堂に向かうことになった。



「何気に食堂行くの初めてじゃんか」

「・・・・・」

絵入さんが両手で紙袋を抱きかかえ僕と寧斗の少し後ろを歩く。

「そんな大事に持ち歩かなくても勝手に食ったりしねーよ」

寧斗が警戒を怠らない絵入さんに苦言を呈した。

「食われる心配はしてない。前に女ボスにいたずらされたことがあるから教室に置いとけない」

女ボスとは言わずもがな我らが立華美咲さんのことだろう。前に下校中に話を聞いたが席を外した合間に霧吹きでべちょべちょにされたことがあるらしい。

「何だそいつは、俺がとっちめてやるか」

そういって腕をぐりんぐりんと準備運動のように振り回す寧斗。

「とっちめてくれると嬉しいんだけどちょっと面倒なんだ」

立華学園の理事長の娘で幅を利かせていることを伝えると、寧斗も不満ながら事情をなんとなく理解してくれた。

雑談をしつつ食堂に向かっていると、通りがかった教室から突然ヘンテコな機械音の後に爆発音が聞こえてきた。

「のわ~~~~~~~!!」「きゃ~~~~~~!!」

・・・ついでに何かに巻き込まれたと思しき人の悲鳴も。

教室の表札をみると「仮設科学実験室」と書かれてある。

仮設という前置きに疑問を抱いたが、間髪入れずに教室の隙間からピンクの煙がもうもうとあふれ出てきた・・・。

「うわあ・・・、吸ったらやばい色してる」

入るのを躊躇っている僕をよそにいつの間にかガスマスクを着用した絵入さんが謎のポーズを決めて今にも飛び込んでいこうとしていた。

「どっからだしたのそれ!?」

「・・・・・・!!!」

なにか喋っているようだがジャストフィットしたガスマスクのせいで一切聞き取れない。

そして絵入さんはピンキーな煙のあふれ出る教室に飛び込んでいった。

「よっしゃ、俺らも行くか」

なぜか寧斗まで乗り気になっており、完全に突入する雰囲気が出来上がってしまった。

「食堂行くんじゃなかったのぉ!?」

僕もめいっぱい息を吸い込んでから一面ピンクで視界のさえぎられた教室の中に飛び込む。

「ぐえっ」

入り口入ってすぐのところでやわらかい何かを踏んづけた気がしたがとりあえず窓の方に向かう。

「はかせ~!!ご無事ですか~?」

「いたたたたっ!?誰だ貴様!!」

「あれ?教室から出ちまった!」

四方八方からカオスな阿鼻叫喚が聞こえてくる・・・。

かくいう僕も視界不良の中で教室内のテーブルに激突しながらなんとか窓辺にたどり着いた。

「ミタ!換気モードだ!」

「そんなモードありませんよぉ!」

なんかよくわからないやり取りが聞こえてくるがとりあえず窓を開け放つ。

ピンキーな煙が徐々に窓から逃げてゆき視界が晴れていく。

「もがもがー!」

「おいだれだ!?変なところを揉むな!って、本当に誰だおまえ!?」

入り口付近のところでガスマスクをつけた人物が白衣を着た人にしがみついてあばれている。

「すまんすまん、いつの間にか教室飛び出してたわ」

呑気に笑いながら最初に突入した入り口から入ってくる寧斗。

目の前で繰り広げられる混雑した状況に思わず少し後ずさる。

「うおっ!?何やってんだおまえら?」

入り口の白衣を着た人物と縺れたせいか絵入さんのガスマスクが大幅にずれて視界がふさがれている。

「そ、そこのあやしい人!博士を解放しなさい!」

外国の人だろうか?銀髪に近い髪と青い目の色をした少女が魔物と化した絵入さんに警告する。

「いったんおちつけ、絵入」そう言って寧斗が絵入さんのガスマスクをひっぺがした。

「はっ!ここは!?」

「終始いったい何がしたかったんだよ」

若干涙目になっている絵入さんを一瞥し残りの窓も開放し事態はなんとか収拾したのだった・・・。

つかの間の出来事だったにも関わらず、その場にいる全員が疲弊しているのがどこか滑稽であった。


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「・・・で、何なんだ君たちは?」

事態が収拾し、博士と呼ばれる人物は突然飛び込んできた僕らの情報開示を要求してきた。

僕たちは軽い自己紹介を済ませ、一番気になっていたことを尋ねてみた。

「さっきの怪しい煙はなんだったんだ?」

なんならちょっと吸い込んだし有害性が気になってしょうがなかった。

「ああ・・・あれか。心配ない。()()()()()()()()()()()()()

「あ、そう・・・、ん!?ただちにって言った?」

聞き逃してはならないワードがあって思わず聞き返す。

「む、言い方が悪かったな。ちょっとした副作用のようなものがあるかもしれん」

「副作用?」

気になった寧斗も質問した。

「君たちにわかりやすく伝えるとしたらあの煙は脳の成長促進剤みたいなものだ。先ほどの時間を吸った程度なら今夜寝付けなくなるくらいの副作用で済むと思う」

「学生にはあんまり好ましくない副作用だな・・・」

思ったことを口にする。

「まぁ個人差はあると思うが神経質な奴は眠れないかもしれんな」

内臓とかにダメージがあるとかじゃないからとりあえずホッと胸をなでおろす。

「ああ紹介が遅れたな、私は西園風味にしぞのふうみという。学年は2年だ」

クラスの近くで見かけたことはなかったが僕たち三人と同学年だったらしい。

「そしてこっちが私の助手の美多みた君、こう見えてアンドロイドだ。私が作った」

ふふん、と誇らしげに胸を張る西園さん。

「・・・・」

西園さんなりのつかみのギャグだろうか、明らかに人間である美多さんをアンドロイドだと言った。

「あんどろいどぉ?」

ギャグが通用しなかった寧斗が何言ってんだとばかりに怪訝な反応を示した。

「恐れながら・・・」と照れたような表情をしてぺこぺこお辞儀をする美多さん。

「・・・・・。」

西園さんと美多さん、二人の様子を眺めてて思った。

・・・あれ?これギャグが引っ込みつかなくなっちゃってないか?

気の毒そうな視線を送る僕たち三人を見た西園さんが何かを悟ったのか、仕方のなさそうな表情を浮かべてため息をついた。

「先ほどの暴発事件があったからちょっとおかしなテンションになってしまっていたな」

普通いきなりアンドロイドとか言われてもピンと来ないよなぁ・・・とブツブツ言いながら、ダボダボの白衣のポッケに手を突っ込んでリモコンのようなものを取り出した。

「ミタ、ちょっとごめんよ」

そういいながらリモコンのボタンを押して言った。

「音声入力、左腕パージ」

「あ、ちょっ、博士・・・」

ぽしゅっと音を立てて美多さんの左腕、丁度肩の関節のあたりから白い蒸気のようなものが吹き出した。

ごとん。

そして鈍い音とともに床に美多さんの左腕が落下した。

「わあああああああ!?!?腕が取れたあああああ!?!」

裏返った声で僕たち三人の絶叫が教室内に反響する。

「はっはー、言ったろう?アンドロイドだって」

得意げそうに西園さんが笑う。

しかしまずいことに、取れて落ちた腕から赤い液体がじわじわと滲み出している。

「いやいや、血出てるから!」

半分パニックになった僕の疑問をよそに西園さんは続ける。

「あー、それはオイルだ。リアリティあるかと思って赤色に着色してみた」

「うう・・・、これくっつけるときビビッとくるから嫌なんですよ博士・・・。」

ちょっと涙目になりながら美多さんが取れた左腕を拾い上げ自分でガチュンとはめ直した。

「あわわわわ・・・」

見てはいけないものを見てしまった。

開いた口がふさがらない僕の隣で、寧斗が直立したまま気絶していた。

絵入さんは、というと。

「か、かっこいい・・・!!」

と、心くすぐられた少年のようにキラキラした眼差しで目の前のアンドロイドにくぎ付けになっていた。

「お!ガスマスクの君!わかるかこの機能の良さが!」

子供のように喜ぶ絵入さんの反応に気を良くする西園さん。

「ほ、他にはどんな機能があるんだ?」

「ふっふっふ、夢のような機能がたくさん詰まってるぞ」

「こらこらー!わたしはオモチャじゃないんですからね!」

アンドロイドトークで盛り上がる三人の女子をよそに隣で気を失っていた寧斗が目を覚ました。

「ほげっ!・・・あれ?ここは・・・」

気のせいかまだ少し顔の血の気が引いている。

「気付いたか。落ち着いて聞いてくれ。あの子はほんとにアンドロイドだった」

状況把握できていない寧斗にざっくりとだが説明をする。

「・・・・なんの話だ?」

いかん、ショックで少し前までの記憶がなかったことになってる・・・。

再度寧斗にゆっくり説明すると「夢じゃなかったのか・・・」と俄かに信じられないような反応を示した。

「そういえば同級生なんだよね?教室付近で一度も見かけた記憶がないんだけどだいぶ離れてるクラスなのか?」

2年のクラスはAからF組まであって僕たちのクラスはB組だ。体育などは日によって2クラス合同でやったりもする。

西園と名乗る彼女はそれだけ特徴的な外見をしている。

小柄な体格の割に裾を引きずるほどオーバーサイズの白衣、溶接の時に使うような仮面、何日寝ていないんだろうと思うほどの目の下のくま

どこかで見かけていたら覚えていそうなものなのだが。

「ああ、私たちにクラスはないんだ」

「ん?クラスがないってどういうことだ?」

「そういう契約なんだ。授業免除」

「そうか・・・学費が払えずに」

僕は気の毒そうな目で西園さんと美多さんを交互に見て言った。

「まてまて・・・勝手な想像で授業免除理由でっちあげるな」

「なんと博士はもう大学を卒業してるんですよー」

そっか、もう大学を卒業しているのか・・・。

「・・・はい?」

美多さんのとんでも発言に思わず聞き返してしまう。

「あ、大学じゃなかった!大学院でした!」

てへっ、とした表情で訂正する美多さん。

「西園さん、今日4月1日じゃないんだけど・・・」

「私たちが嘘をついている前提で話を進めないでくれるかな」

西園さんがあきれたように切り返してきた。

「ここの校長が私の親戚でな。色々縁があって高校生活を送れていない私に1年間の在学許可を与えてくれたんだ」

「え、じゃあマジで言ってんのか!?」

真偽は定かではないがあまりに堂々とした物言いに寧斗が驚きの色を示し始めた。

「最初からマジなことしか言ってないが・・・」

「まぁ学生を謳歌しようにも、授業免除の異例生徒なんて腫れもの扱いしか受けなくてね。うまく馴染めず結局ここに閉じこもりっぱなしのありさまだ。ははは・・・」

愛想笑いをする西苑さんはどこか寂しそうな表情を陰らせた気がした。

「なんだおまえボッチなのか」

「ぼっ・・・、ボッチではないっ!群れるのが嫌いなだけだっ!」

ぼっちの常套句のような言い訳をする西園さん。

「は、博士!大丈夫です!美多がいますよ!」

絵入さんの暴言に痛いところを突かれたのか珍しくムキになる西園さんと必死にフォローを入れる美多さん。

「いうて僕たちも同じようなもんじゃん・・・」

「・・・・」

僕の鋭い指摘に苦虫を噛み潰したような顔をする絵入さん。

「お前たちもクラスにあまり馴染めていないということか?」

ふいに西園さんに痛いところを突かれる。

「うん、僕たち先日転校してきたばっかなのに色々やらかしてちょっと浮いてるんだ」

「むしろ浮きすぎて飛んでる」

絵入さんの発言にちょっとムッとしたがあながち否定できない状況にあったので否定もできずに沈黙する・・・。

と、ここで美多さんが何かを閃いたようにパッと嬉しそうな表情を浮かべて言った。

「あ!じゃあ私たち友達になりませんか?」

「いよっしゃ!ここ数日で一気に友達ができたわ」

寧斗がガッツポーズで喜びを表現している。

絵入さんも喜んでいるのか小さくガッツポーズしながらもじもじしている。

「まぁこれも何かの縁かもしれんな。私たちは基本的にここ、仮設科学実験室にいる。気が向いた時には遊びに来るといい。お茶やコーヒーくらいは淹れてやれると思う」

西園さんはどこか照れくささを感じさせつつもぶっきらぼうにそんなことを言っていた。

そんな新たな交友関係が増えたところで昼休み終了5分前の予鈴が鳴り、

美多さんに見送られながら僕たちは教室へ戻ることにした。

すっかり食堂に行くことを忘れていたため絵入さんの非常食を奪い合いながら・・・。

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