【第2話】たーみねーしょん④
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授業が終わり放課後。
帰り支度をしていると校内放送がながれた。
「2-B、多見寧斗君。至急職員室に来なさい。繰り返す、2-B・・・」
「ああ!? なんだよ一体・・・」
「またなんかやったのか?」
急な呼び出しに一番驚いている本人と決めつけで問いかける絵入さん。
「またってなんだよ。そんなに頻繁じゃねーよ」
人を常習犯みたいに言うんじゃねぇと寧斗が絵入さんに注意する。
「教室で待ってるから行ってきたら?」
僕の促しに応じつつ足取り重たそうに寧斗が教室から出ていった。
「野蛮いやよねぇ、これだから不良は」
ちゃんと教室から出て行ったのを確認してから立華さんが悪態をついていた。
教室に残っていた生徒があらかた帰ったころ、寧斗が戻ってきた。
「どうだった?」
「いやあ・・・、なんというかそのお・・・」
口ごもる寧斗が親指で教室の窓ガラスからくいくいと外を指さす。
・・・今朝がた見たばかりの黒い学ランの他校生が校門周囲に数名見える。
「通る生徒ほぼ全員に俺の居所を聞いてるらしい」
はぁ・・・とめんどくさそうにため息をつく寧斗。
一度は駆り出された体育の先生が追っ払ったようだが、その後も周辺にうろうろしていて苦情が来たらしい。
「もめ事を起こして見つかったらまた停学になっちまうし・・・」
帰るに帰れなくなってしまったわけだ。
「私にいい考えがある」
いつの間にか着席して腕を組んでいた絵入さんが目を閉じてすうっと息を吸った。
静かなトーンで話し出そうとした瞬間。
「「却下」」
どうせろくな考えではないと即座に察知した僕たちは二人に絵入さんの発案を中断させた。
「まっ、まだ何も言ってないだろ!」
見事なシンクロ具合で撃ち落とされた絵入さんは若干戸惑いながらも思いついた作戦を打ち明けた。
「ようするに揉め事を起こさなければいいんだろ?」
「まあそうだが」
ふふーんと胸を張って絵入さんが続ける。
「寧斗ががもう帰ったことにすればいいんだ」
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「おーい、持ってきたぞー」
男子更衣室の洗面所にあった忘れ物のヘアワックス(ジェルタイプ)をコトンと机の上に置く。
「あんまりこういう整髪料系好きじゃないんだが」
「甘えたことをいうな、今日だけの辛抱だ」
不満をいう寧斗にやや厳しめの口調で絵入さんが言う。
「っていうか寧斗、その髪型セットなしでオールバックなんだね」
「そうなんだよ。全体的に後ろに向かって生えてんだよ。いやな癖っ毛だぜ」
先ほどの既に帰宅作戦の流れで現在の状況に至っているが、事の流れはこうだ。
「こっそり帰るのはいいけどよ、あんだけの人数で待ち伏せされてたらどこから帰ろうが見つかっちまうだろ」
「そこは変装でカバーする」
「変装~?」
「寧斗だってわからなくなるくらいに変装する」
そんなんで果たしてうまくいくものかと疑問に思ったが、勢いで行動している絵入さんの衝動に気おされ僕たちも仕方なく指示されたものを準備することとなった。
脳による人の見た目の認識は髪型と顔でほとんど判別されているらしい。
そんな絵入さんの謎に説得力のある話にまんまと乗せられ、とりあえず髪型を不良とは正反対のがり勉風に変えてみることに。
(ブチュリュリュリュ~)
チューブ内に入ってる整髪料全部出たんじゃないかってくらい握って絞り出す絵入さん。
「だ、出しすぎじゃないか?」
と、その量に怯える寧斗。
「何を言う。歌舞伎町のホストはこれでも少ないくらいだぞ」
「歌舞伎町のホストの何を知ってるのさ・・・」
ぼたぼたと零れ落ちるヘアジェル。
「一応聞くけど、なんで僕の机でやってんの?」
「ん? 私の机を汚したくないからに決まってるだろ」
「ちゃんと拭けよ!? 明日来たときカピカピになってたらマジで怒るからな?」
口げんかを繰り広げる僕と絵入さんをよそに大量のヘアジェルに身構える寧斗。
べちょっと無造作に音糸の頭頂部にヘアジェルを擦り付けるとそこから髪の毛全体にヘアジェルを伸ばしていく。
超頑固な癖っ毛もこれには観念したのか徐々にきっちりかっちりの七三・・・。
・・・・いや、九一だこれ。
「ぶふっ!!」
しばらく無言で作業していた絵入さんがこらえきれずに吹き出した。
「頭皮が息継ぎしてない気がするんだが・・・」
「くっ!!」
必死に我慢していた僕もさすがに限界だった。
顔は厳ついのに髪型だけが勤勉さの象徴みたいになってるからギャップの落差が極悪だ。
「うくっ! ふっ・・・ふぅ・・・。で、でも目つきで寧斗だって辛うじてわかるな」
鋭い目つきは整髪料では誤魔化しきれず変装というにはまだ弱い。
「こんなのもあった」
絵入さんが教壇の近くからセロテープを持ってきて音糸の目尻のところに貼り付けて垂れ目にした。
もうこの時点で僕たち二人は彼を直視できなくなっていた。
そして絵入さんが鞄からジョークグッズのビン底眼鏡と出っ歯の付け歯を取り出す。
「くっ、くっ・・・!! これで・・・完璧」
「・・・・・・・」
悲しきモンスターが誕生したのだった。
「だはははははは!!!! 何のために垂れ目にしたんだよ!!」
我慢の限界を既に通り越した僕たち二人は腹を抱えてのた打ち回る。
「おめーらまじめにやれよ!!」
遊び出した僕たち二人に寧斗がキレた。
「そっ、そんなまじめそうな格好でいわれても・・・!」
いかにも語尾に「やんす」とか「ござる」とかつけそうビジュアルだ。
例え知人が彼を見ても寧斗だとは気づかないだろう。
「いいか寧斗、何を話しかけられても語尾にやんすを付ければ多分なんとかなるぞ」
「そ、そうなのか?」
「語尾」と、絵入さんがすかさず横やりを入れる。
「そうなんでやんすか?」
「・・・・くっ!!」
「お前ら絶対楽しんでるだろ・・・」
半信半疑であきれる寧斗とともにさっそく下校することにした。
昇降口に至るまでに数名の生徒とすれ違い気づいた。寧斗への視線が半端じゃない。
反応は大方驚きに近いものだが皆一様にギョッとした反応を示した。
「逆に目立ってねぇか、これ」
「・・・・・」
見た目は根暗な感じだがもともとの体格の良さがそれを見事に打ち消してしまっている。
そりゃそうか、寧斗の身長は180近くある。
僕の身長が辛うじて170ちょうどくらいだし絵入さんと横並びになると、もはや巨人と小人が並んで歩いているくらいの印象を受ける。
顔だけをみればいかにも絡まれそうな見た目だが、元々が筋肉質な体をしていることもあり異様な空気を醸し出していた・・・。
校門を抜けると少し離れた位置に朝見かけた学ラン姿が見える。
「やっぱ所々にいるな」
ほぼ完全に別人に変装できているが、近くで見られたら案外バレてしまうのではと不安がよぎる。
一緒に行動すると怪しまれそうなので寧斗が先行しその少し後ろを僕と絵入さんで追従する作戦で行くことに・・・。
校門から少し離れた交差点付近で今朝がた寧斗に絡んでいた例のバナナモヒカンがきょろきょろと周囲を警戒している。
えらく姿勢よく歩く寧斗にバナナが気付いて話しかける。
「おい、ちょっといいか? その制服、そこの立華の生徒だよ・・・・な?」
話しかけつつ視点が寧斗のつま先から顔へ行ったり来たりしているのが見て取れる。
「そ、そうでやんす」
「や、やんすぅ~?」
ま、まずい。別の意味で怪しまれている!
「変なやつだな。ちょっとこっちこい」
「うっ、そうはいかないでやんす。塾に遅刻しちゃうでやんす!」
「うるせぇ!塾なんて多少遅れてもいいだろ! 探してきてほしいやつがいるんだよ!」
バナナが寧斗の制服の裾をつかんで学校から離れたほうに連れて行こうとした。
「は、離すでやんす!」
「やんすやんすうるせぇんだよ!おとなしくこっちこいって!」
力ずく寧斗を引っ張るバナナだったがその場からびくともしない。
レスキューに飛び出そうとした時だった。
周囲をきょろきょろと見渡し、ほかの仲間が近くにいないか確認した直後、
「・・・・ふんっ!」
掛け声とともにバナナの延髄に綺麗な当身が入った。
「おぽにゃんっ」
なんとも情けない声とともにバナナが気絶しその場に卒倒した・・・。
「・・・・・」
寧斗が不可抗力だと言いたげな視線で僕たちを見る。
周囲にほかのヤンキーがいないことを確認し音糸のもとに駆け寄る。
「気絶してるのか?」
「ああ、うまい具合に当て身が入った」
先ほどまでノッポながり勉にしか見えなかった音糸が暗殺術を極めたどこかの国の殺し屋に見えてきた。
「ま、まあ良かったんじゃない?この場は静かにやり過ごせるわけだし」
今ので完全にバナナモヒカンにこの手は通用しなくなるが。
明日のことは・・・まぁ明日考えればいいか、と現実逃避。
「そうだな。とっとと帰ろうか」
「ほら行くよ絵入さ・・・、ん? あれ、どこいった!?」
後方を確認する途中で、聞きなれた声が聞こえてくる。
「おいおまえ! ダンゴムシ踏みそうになってるぞ!」
「ああん!? なんだてめーは!!」
「わ、わたしはダンゴムシの代弁者だ」
ちょおおい!!? なにやってんのあのこったら!
バナナの仲間らしきヤンキーの生徒の足元を指さし自称ダンゴムシの代弁者はとっさに思いついたであろう世迷言を口走る。
「わけわかんねえこといってんじゃねえ! ケンカ売ってんのか?」
ヒートアップが止まらないヤンキーさん。
いまにも衝突しそうだったので特に対策があるわけもなくその場に駆け寄る。
「す、すいませーん。この子幼いころにダンゴムシに育てられたのでそのころの名残でちょっと興奮しちゃったみたいで~」
我ながら酷い言い訳だった。
「私は腐葉土育ちじゃないぞ」
「(やかましい!お前はムシムシ言ってろ!)」
「む、むしむし・・・」
両指でダンゴムシの触覚のジェスチャーをしながら顔を伏せる絵入さん。
そそくさとその場を離れようとしたが虫の居所が悪かったのかヤンキーは見逃してくれなかった。
「おいふざけんな、勝手に帰ろうとすんじゃねえ」
「ぐえっ、げほっげほっ!」
制服の襟のところをつかまれて変な声と同時に咳き込んでしまった。
絵入さんが心配そうにこちらを振り返ったが、手でひらひらとこの場から離れるように合図を送る。
そして同時にギョッとする。
絵入さんの先にいる人物が修羅のような形相でこっちを・・・僕をつかんでいるヤンキーを見据えている。
ヤンキーもこれに気付いたのか慌てて僕を解放する。
「ひっ・・・、な、なんだ?」
見えるはずもない禍々しい黒いオーラが寧斗の体から吹き出ているような錯覚すら覚える。
一言も発さずに徐々にこちらに近づいてくる。
蛇に睨まれた蛙、まさにそんな状態のヤンキーはその場から動けずただただ硬直している。
眼前に鬼神のごとき音糸が立ち向かうや否や、すでに半泣きの状態になっているヤンキー。
「俺のダチになんか用か・・・?」
「あ、あわわわわわ・・・・」
ヤンキーは極度の恐怖に青ざめながら全速力でその場から逃げ去っていった。
マジ切れ寧斗恐るべし・・・。
気が付けば校門から近い位置でもあったため徐々にギャラリーが増え始めた。
寧斗にお礼を言って僕たちはその場を離れることにした。
「とりあえず撒いたか・・・」
学校付近さえ抜ければ迷惑ヤンキー包囲網は抜けたらしく、無事に寧斗の家にたどり着いた。
「わりぃな色々巻き込んじまって」
申し訳なさそうに寧斗が僕たち二人に言う。
「いや、さっきのはエッジの効いた絵入式イレギュラーがいけなかった」
「あいつが足でダンゴムシを蹴飛ばしてたんだ」
「よくそんな一瞬で分かったな・・・」
まぁ生き物を大事にしようとする心は褒めてあげたいところだが。
「この調子だと明日も待ち伏せしてそうだよね」
ふと思ったことを音糸に伝えてみる。
「ちょっとしんどいな・・・」
寧斗も今日一日でだいぶ疲れた様子。
「そもそもなんでそこまで執着するんだろうな? 一回やられたにしても過剰すぎやしないか?」
「仲間の一人が言ってたがあいつらのボスがその学校の番長らしいんだ」
なるほど、それで他校生にやられた面目が立たずここまでしつこく仕返しをしようとしてるってわけか。
「何とかしてやりたいが、暴力的な解決じゃ意味がないしなぁ」
喧嘩しているところなんかを報告されたら次こそ寧斗は謹慎だけで済まされないだろう。
「先生に言えばいいんじゃないか?」
絵入さんが非暴力的解決を思いつき寧斗に提案するが表情は冴えなかった。
「それ前にやったんだけどまともに取り合ってもらえなくてな。自業自得だって」
「ひでぇ、誰だよそんなこと言うやつ」
「生徒指導の・・・名前は知らん」
顔は思い浮かぶが僕も名前は知らなかった。というか担任の藤崎以外ほとんど覚えていない。
「担任の藤崎は話を聞いてくれたが相手方の高校とうちの高校があんまり仲良くないらしく、期待に副える対応は期待できないってなってな」
「むーん・・・」
寧斗には悪いが根本的な解決法がどうにも思いつかない・・・。
「まあ寄ってけよ、ばあちゃん達も喜ぶしな」
寧斗のお招きもあり、どこか落ち着く安心感のある多見家にお邪魔することに。
「おかえり。あら、こないだのお友達も一緒かい」
茶の間にいたおばあちゃんに挨拶し、お茶を出してもらった。
「あ、すみません」
絵入さんが急須でいれられたほうじ茶をひたすらふーふーしてる。猫舌なんだろうか。
「健坊と恵斗は?」
「さっき遊びに行くって出てったけど、公園のほうじゃないかねえ」
賑やかな二人が不在のためか前回来た時より家の中が静かな感じがする。
「私におそれをなして逃げ出したか」
「あれから健坊のやつはお前のことはスケベ姉ちゃんって呼んでるぞ」
やっと飲める温度になったお茶を絵入さんがぶふっと吹き出す。
「ちょっと待て、わたしはスケベではない」
「思い付きでおっぱい星人とか言うからだよ」
慌てる絵入さんに擁護しないで言い放つ。
「うぐぐぐ・・・」
納得いかない様子であったが、反論の余地がなかったのだろう。またちびちびお茶を飲み始めた。
茶の間でお茶を飲んで寛いでいるうちに、他校ヤンキーとのいざこざもあったせいで思った以上に疲れていたのか僕たち三人はいつの間にか横になって居眠りしてしまった。




