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【第2話】たーみねーしょん⑤

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居眠りから目を覚ますとほとんど目の前に絵入さんの寝顔があった。


普段無表情な分、無防備な寝顔に悔しいが少しドキドキしてしまう。

一瞬にして目もさえたので一度ゆっくり深呼吸して起き上がる。というか今何時だ?

柱にかかった掛け時計は午後6時を指していた。外は少しオレンジ色になってきている。

「くあー、いつのまにか寝ちゃったな」

僕の対角で大の字になって寝ていた寧斗も目を覚ましたようだ。

背伸びしつつ結構大きめの目覚めの第一声を放つ。それに反応するかのようにびくんっと起き上がる残りの一名。

「・・・知らない天井だ」

お決まりのアニメのセリフ付きで。


すっかり遅くなってしまったので絵入さんとともに帰り支度を始める。

・・・そういえば健斗君と恵斗ちゃんがまだ帰ってきていないことに気が付いた。

「恵斗ちゃんたち遅くないか?」

いつもこんな感じかもしれないので寧斗に聞いてみた。

「大体5時過ぎには帰ってくるけど特に門限はないんだ。まぁだんだん来るとは思うぞ」

そうは言いつつもどこか心配そうだ。なんだか動作に落ち着きがない。


 そんなやり取りをしてると玄関の戸がガラッと開いて健斗君が飛び込んできた。

「ばっち゛ゃあ゛~!! ね゛い゛どに゛ぃ~!!」

息を切らして嗚咽まじりの声で話す。ただならぬ様子に寧斗が駆け寄った。

「健斗! どうした!?」

「お゛でえ゛ぢゃんが~!! お゛でえ゛ぢゃんが連れでがれぢゃっだ~!!」

家中に響く健斗君の声にただ事ではないと思ってか台所の方からおばあさんも出てきた。

「どうしたんだい健斗、泣いてちゃ分らんから落ち着いて話してごらん」

ひとまず健斗君を落ち着かせることにした。


 おばあちゃんに抱っこされて、健斗君も先ほどよりは落ち着いた。

寧斗と一緒に健斗君の話を聞いた話によるとこうだ。

 恵斗ちゃんと二人で近所の公園で遊んでいたら柄の悪い高校生数人に話しかけられ、寧斗の兄弟とわかるや否やどこかに連れて行かれてしまったらしい。

健斗君は果たし状を渡すために一人帰らされたみたいだった。

果たし状には町はずれにある廃工場に寧斗一人で来るように書いてあった。もちろん警察などに通報したなら人質に危害を加えるとも書かれていた。

「・・・・・」

無言で果たし状を見ていた寧斗だったが明らかに冷静ではなかった。こめかみに血管が浮き出ている。

「お、おい寧斗」

「大丈夫だ。お前たち二人はもう帰ってくれ」

そういって寧斗は有無を言わず僕の声掛けを遮って靴を履きだした。

「ばあちゃん、ちょっと行ってくる」

「どうしたらいいもんかねぇ・・・」

自分には止められないことを分かっているからこそ、おばあさんが困りながらも寧斗を止めきれず見送る。


 玄関であっけにとられていた僕たち二人を見ておばあさんが困った顔で小さく笑う。

「ああなっちまうともうなに言っても聞かなくてね・・・。あたしがもっと頼りになればあの子も苦労せずに済んだのかもしれないけど・・・」

申し訳なさそうに話すおばあちゃんに僕たちはかける言葉が見つからない。

「あんた達もおうちに帰んなさい。あのこならきっと大丈夫さ、体だけは丈夫だから」


 なんともすっきりしないまま多見家を出て僕たち二人はとぼとぼと歩きだした。

・・・・会話こそないもののなぜか絵入さんも僕も自分の家の方角へは向かわなかった。


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「おい、楽。おまえんちこっちじゃないだろう」

「絵入さんこそこっちじゃないじゃん」

「わたしはあれだ。おまえが勝手な行動しないように見張ろうと思ってな」

寧斗一人で飛び出していったものの、恵斗ちゃんも心配だし何かの手助けができないかと廃工場の方に向かっていた。

キビ団子をあげたわけでもないのに絵入さんがついてきてしまったのは誤算だった。危険が及ぶ可能性もある。

「いや、やめてくんない? さっきも言ったけど僕これからスケベな本買いに行くんだから」

我ながら苦しい言い訳だった。

「そんなスケベな人間を野放しにできるか」


 ああだこうだ言ってるうちに廃工場が見えてきた。

「あ~もう! どうせ分かってついてきてるんでしょ?」

「真実はいつもひとつ」

どこぞの少年探偵のようなセリフを吐き無表情ながらのドヤ顔を決める絵入さん。

「寧斗に危機が及びそうなら警察を呼んで撤退するぞ。僕は武闘派じゃないから助太刀なんてできっこないし」

そして危険を感じたら一目散に逃げるようにと絵入さんに念を押した。

「わかった」

廃工場の搬入口付近に2人ほど昼間同様の学ランを着た不良が見える。ここで間違いなさそうだ。

資材置き場の陰に隠れて見張りの会話を盗み聞きする。

「なぁ、いつになったら多見のやつくるんだよ」

「知らん。とりあえず待つしかねーよ、だんだん交代の順番もまわってくるだろうし」

信じられない内容が聞こえてしまった。

寧斗さんまだ到着してない件。

え、嘘でしょ? 飛び出していってから1時間は経つよ?

多見家から廃工場までの距離はおよそ徒歩20分ほど。

僕は絵入さんの追跡を振り切ろうとしてたから遅くなってしまったが、それにしても遅すぎやしないか?

「おい、聞いたか楽」

「できれば聞きたくなかった」

あまり想像したくないが寧斗本人が向かう途中になにトラブルに巻き込まれてしまったのだろうか。

それともとんでもない方向音痴か。

いずれにせよひとまずは恵斗ちゃんの無事を確かめなければ。

その場を離れようとしたがふたたび見張りの会話が聞こえてきた。

「しかしあのお嬢ちゃんもかわいそうにな。今頃中で数人相手にお楽しみ中だろうよ」

「はやく俺もあの人質のお嬢ちゃんに楽しませてもらいたいもんだぜ、いっひっひ~」

「おいおい次は俺の番だぜ。ふへへへ」


・・・た、大変だ。


「あいつらなんて言ってるんだ?」

絵入さんが聞き取れなかったようで僕に尋ねてきた。

「い、いや。僕もしっかりは聞き取れなかった」

ほんとはばっちり聞き取れたけど絵入さんには刺激が強すぎると思って伏せる。

「とりあえずあんまり時間がなさそうだから急ごう・・・」

正面からだとすぐに見つかってしまうので廃工場の塀を迂回してどこか別に入れるところがないか探すことにした。

塀の一部にひび割れがあって絵入さんが何度か侵入を試みたが微妙に狭くてそのたびにスカートが引っ張られて少しずつ破けていったので3回目あたりでさすがに止めた。


正面とはほぼ正反対の塀の近くに資材が積み重なって登れそうなところを見つけた。

「絵入さん、ここから行ってみよう」

足場が崩れるといけないので僕が確認がてら先行する。

ぱっと見は少し老朽化していたが意外としっかりしていて登りは問題なかった。

向こう側に降りる際にやや高さがあり塀にぶら下がりながら着地する。

よく考えてみたらこれ見つかった時に戻る道がないなと思ったが後の祭りだった。

 音をたてないように近くに落ちていた軽石を塀の向こう側にぴょいと合図代わりに投げる。

「いてっ」

運悪く軽石が当たった声が聞こえたがすぐに「んしょっ、んしょっ」という資材を上る小さな掛け声が聞こえてきた。

「結構高いな・・・」

塀の上から絵入さんがぼそっとつぶやく。確かにその気持ちもわかる、僕も一瞬足がすくんだほどだ。

「しゃがんでぶら下がるようにして降りるといいよ」

「ちゃんと着地できるかな?」

確かに小柄な絵入さんにとっては高低差が気になるところだが、

「楽、下で軽く受け止めてくれないか?」

「ぼ、僕は別に構わないけど・・・」

「なんだ?」

「真下で受け止めるとなると絵入さんのパンツが見えてしまう恐れがある」

無表情で僕を見据えて少し考えたのち、

「そんなこと言ってる場合かっ」

「えっ、あ、はいすみません」

配慮したつもりだったのになぜか怒られた。

「よし、じゃあ行くぞ」

絵入さんの着地点でスタンバイする。

・・・やっぱりというか、先ほど塀のひび割れで作った数か所のダメージ加工のせいもありがっつりパンツが見えている。

「ねぇ・・・やっぱりパンツ丸見えなんですけど」

一応見えていることを伝えると珍しく赤面して絵入さんが言う。

「ぱ、パンツだと思うな! ハンカチの親戚だと思え!」

そ、そんな無茶苦茶な。

「よっ、と」

ぶら下がっていた絵入さんが手を放し落ちる。

とさっと思っていたよりずっと軽い印象で受け止めることができた。

「大丈夫?」

「ああ、問題ない」

ぱんぱんと服に着いた土ぼこりを払って絵入さんが背筋を伸ばす。


「さあ、気を取り直していこー」

踊り場になっている錆びた階段を見つけて二階へと上る。

結構錆びついているがもとの作りがしっかりしているのか若干軋むが崩れたりはしなさそうだ。

 二階に上り終えると中が見えそうなガラス戸があり、そこから恵斗ちゃんと思われる女の子の悲鳴が時々聞こえてくる。

さすがにこれは絵入さんも聞こえたらしく、

「おい、大丈夫じゃなさそうだぞ・・・」

と心配そうな表情を浮かべている。

「絵入さんはここにいて。ちょっと中の様子を見てくる・・・」

あまりにもショッキングな場面だと色々と問題が生じるので、少し離れた位置で絵入さんに待機を命じて僕だけガラス戸に近づいてみた。

ガラス戸の内側に暗幕があり中の様子が見えない・・・。

諦めようとした矢先、近くのガラス戸が施錠されておらず普通に開いてるのに気づいた。

「ここから中に入れそうだな・・・」

開いているガラス戸からこっそり暗幕を手で掻き分けて中を覗き込んでみた。

そこには信じがたい光景が広がっていた・・・。

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