【第2話】たーみねーしょん⑥
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「うおおおおお! また俺が大貧民かよおおおおお!!」
「お嬢ちゃん何連勝だよ! 引きがつえーなあ!」
「家でばあちゃんと弟とよくやってるんです、こんなに大勢でやったのは初めてですが」
体格のいいカラフルな頭髪の男たち数人に囲まれて幼女が大富豪を満喫していた。
「・・・・・」
状況に対しては突っ込みどころが満載だったが、まあとりあえず恵斗ちゃんは無事そうだ。むしろ楽しそうである。
「万上さん、ずっと大貧民じゃないっすか・・・」
「う、うるせぇっ! お前らがいいところで革命起こすからこうなってんじゃねーか!!」
「いや、でもそういうゲームっすから」
「そもそも俺たちなんで大富豪してるんでしたっけ?」
「それはお前、あれだよ。お嬢ちゃんが待ってるだけじゃ退屈そうだったから相手してやってんじゃねーか」
「ってか、多見のやつまだ来ないんですかね・・・」
「おせーよなぁ、あいつんちそんな遠くないんだろ?」
どこほっつき歩いてんだよと不満を漏らす万上。
その気持ちには同意せざるを得ない。
こちらの様子をちらりちらりと伺っている絵入さんを手招きで呼び寄せる。
なぜか匍匐前進で向かってくる絵入さん。
「恵斗ちゃんは無事みたい」
「なんであいつらトランプしてるんだ?」
素朴な疑問をぶつける絵入さん。
「そこまで悪い連中じゃないのかもしれないな」
絵入さんと話していると連中の一人がスマホを見てつぶやいた。
「万上さん、もう7時になりますよ。お嬢ちゃん返してあげた方がいいんじゃないっすか?」
番長らしき人物があごに手を当てて考えるようなしぐさをする。
「そうだなぁ、おうちの方も心配するだろうしなぁ・・・」
「誘拐しといていうセリフじゃないっすけどね」
「ばっ! お前バカ! 誘拐とかいうんじゃないよ! お嬢ちゃんにも言ったように多見に出向いてもらうように同意のもと一緒に来てもらってるだけじゃねーか!」
「ええっ、でも果たし状の文面に結構過激なことなこと書いちゃいましたよ!?」
「はあああ!? 前科作りてーのかお前ら!?」
「まぁまぁ喧嘩しないでください。私が家に帰ればそこまで大事にならないですって」
と、あまり動揺する様子もなくむしろヤンキーをなだめる恵斗ちゃん。
「うう、すまねぇ。俺たちの面倒事に着き合わせちまって」
「じゃあうちの近くまでおくっていきましょう」
「そうだな、今日のところは解散だ」
「あのー、できればうちの兄とも仲良くしていただけるといいんですが・・・」
「んんんー、まぁお嬢ちゃんの頼みじゃしかたねえな! 今後ちょっかい出すのはもうやめにする!」
あれ?なんかいいかんじに解決しちゃったみたいだ。
和やかな雰囲気の中ヤンキーたちがトランプを片付け始めた。
「僕たち必要なかったみたいね」
絵入さんとヤンキーたちの撤収を見守りながらつぶやく。
「・・・っていうかそれ何食ってんの?」
口の周りに食べかすをつけてボリボリと咀嚼音を立てる絵入さん。
「歌舞伎揚げ」
ポッケに入ってたと。寧斗家にお邪魔した時に拝借したのだろうか。
緊張感のない音がすぐ横で響く。
「もう一個あるけどいる?」
「人んちのお菓子をえらそうに・・・」
完全に夕飯を食べるタイミングを見失ってしまっていたので空腹であることを思い出した。
絵入さんがごそごそと制服のポッケから取り出したこれまでのよくわからない衝撃で結構砕け散っている歌舞伎揚げを受け取る。
ヤンキーたちと恵斗ちゃんが廃工場の入り口に向かって歩き始めていた。
また暇なときにトランプしようなどと和やかに雑談しているようだ。
目を離して歌舞伎揚げを食べようとした時だった。
入り口の鉄扉の激しく揺れる音とともに外の見張りのヤンキーのものと思われる絶叫が聞こえた。
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さっきまで綺麗な夕焼けだったのに空が徐々に曇り始めて、ぱらぱらと雨が降り出した。
廃工場の中からは大富豪で盛り上がっているであろう複数人のにぎやかな声が聞こえる。
「雨降ってきちまったな」
「ああ。俺傘持ってきてねーや」
「本降りになる前に帰れるといいんだが」
そんな会話をしていると中からメンバーの一人がきて言った。
時間も遅いしお嬢ちゃんを家に帰して今日は解散になるらしい。
お嬢ちゃんが風邪ひくといけないから近くのコンビニでビニ傘を買ってくるか。
小降りのうちに早足で行ってきちまおう。
廃工場の敷地からでたところで、曲がり角から誰かが出てきた。
およそ同世代とは思えない体格の人物がこちらに気付いて目が合う。
・・・明らかにこちらを敵視しているその視線だけで心臓が直に握りしめられるような錯覚に陥った。
恐怖と動揺で微動だにできない中、相手がこちらに近づいてくる。
鬼のような形相のその男の眉間に寄ったしわが確認できるくらいの距離に近づいたと思った次の瞬間、鈍い衝撃とともに自分の体が宙にはじけ飛び視界がフェードアウトした。
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「うおぅ! なんだ! 何が起きた!?」
ガンガンと鉄扉に何かをたたきつける轟音が響く。
「てめぇらあああああ! 開けやがれえええ!!」
怒り狂った声とともに叩いているが開くはずもない・・・その扉は引き戸だ。
「た、多見っすよ!! この声は!!」
「ば、ばかやろー! その扉は引き戸だ! 鍵なんかかかってねぇよ!」
万上が言い終わりかけた時、信じられないことに固定されている鉄扉が蹴破られ飛んできた。
「あぴょっ」
入り口に近づいていたヤンキーが吹き飛んできた鉄扉に運悪く当たってしまい一緒に吹きとばされる。
「おいおいウソだろ・・・老朽化してるとはいえ金属でできた扉だぞ・・・!!」
吹きとばされたヤンキーが近くにいた恵斗ちゃんにぶつかり一緒に倒れこむ。
倒れこんだヤンキーと恵斗ちゃんは衝撃で気を失ってしまったのか起き上がってこない。
「おい! お嬢ちゃん大丈夫か!」
万上が二人のもとに駆け寄り無事を確認する。
「倒れた時に少し頭を打ったのか・・・、けがはしてないみたいだが・・・」
鉄扉を蹴破って入ってきた寧斗の目には気を失った恵斗ちゃんと万上だけが映るという最悪のタイミングが映った。
「恵斗になにしやがった?」
破壊された入り口から幽鬼のごとく恐ろしい表情と血走った目で直立する人影。
両方の拳からは先ほどの轟音から察するに数回全力でたたきつけた時に負傷したと思われる出血がぽたぽたととめどなく垂れている。
工場内にいる他のやんきーは完全に恐怖に?まれ動けずにいた。対話をできるような状況ではなくなっていた。
「おい、やばくないか?」
絵入さんがただならぬ寧斗の雰囲気を前に僕に問いかける。
「うーん、かなりやばい。寧斗のやつ完全にキレちゃってる」
「いや、あいつもやばいが・・・」
絵入さんがきょろきょろ周りを警戒しながらひそひそ声で続ける。
「崩れそうだぞ、ここ」
「・・・え?」
絵入さんに言われて気づく。天井のあちこちからぱらぱらと欠片のような壁材が落ちてきていることに。
建物全体がゆがんできているのかよく見ると窓ガラスがあちこち割れてきている。
元々老朽化は進んでいたのだろうが、先ほどの寧斗の破壊でガタがきてしまったのかもしれない。
「う、嘘だろ・・・こんなの崩れたらひとたまりもないぞ・・・」
こうしてはいられないと窓から入り込み中にいる全員に向かって叫ぶ。
「た、建物が崩れるぞーーーー!!! 全員避難しろーーー!!」
突然の二階からの叫び声にヤンキーたちが驚いて僕の方を見る。
張りつめた状況だったせいで崩壊が始まりつつあることに全然気が付づいてなかったようだ。
「ば、万上さん! 大変だ!! 建物自体がゆがみ始めてる!!」
「まじかよ・・・、多見ぃ! このままじゃ生き埋めになっちまう! 一旦外に出るぞ!」
万上さんが出入り口付近で仁王立ちしている寧斗に向かって叫ぶ。
「・・・・・」
返事はない。というか聞く耳持たずって感じだ。
しかしこうしちゃいられないと一人のヤンキーが出口に向かって駆け出す。
寧斗の横をすり抜けようとしたところで横なぎの蹴りが飛んできて蹴りとばされたヤンキーが泡を吹いて気絶した。
「ぐえっ」
「おいおい! 何やってんだよ!」
建物が崩れていく状況の中、一切周りに注意を向けずに立ちふさがる寧斗。
もしかしてあいつキレすぎて周りが見えていないのか?
ふーっ、ふーっという荒い寧斗の呼吸音が広い廃工場内に響く。
一階の状況を見守ってはいたがよく考えれば僕と絵入さんも相当危ない。
このままここにいたら崩落に巻き込まれてしまう。
「絵入さん、僕たちもここにいたらまずい。とりあえずさっきの階段から工場の正面に回ろう」
「でもその階段さっき崩れ落ちてたぞ」
「んな馬鹿な・・・」
ちらっと後方を振り返ってみると先ほどまであった階段が無惨に崩れ落ちていた。
「んわぁーーー!? 階段がなぁーい!!」
結構な高さがあるので外側から降りるのが困難なのは明らかだった。
ど、どうしよう。あのロールプレイングゲームのラスボスみたいなのが立ちふさがってる正面入り口しかないじゃないか。
「と、とりあえず中の一階に降りるしかないか」
絵入さんと目の前のガラス戸から入って一階に降りた。
「お、おまえら何で中に入ってきたんだよ」
万上が気の毒そうな目で僕たち二人を見て言う。
「上り階段が壊れて戻れなくなっちゃったんだよ・・・」
「残念なことにこっちも出るに出れない状況になってんだ・・・」
廃工場全体がつぶれて傾いてきている。
「寧斗! 僕がわかるか? こんなことしてる場合じゃない!」
入り口で立ち尽くす本人に呼びかけてみるが思った通り反応はない。
「このままじゃ共倒れだな・・・、ん?そういえば誰なんだお前たちは?」
僕たちに気付いた万上が訝しげな顔で素性を聞いてきた。
「寧斗の友人だ。・・・なんでここにいるかを今話してる暇はない」
「お、おお。そうだな。見てのとおり八方ふさがりだ。せめてお嬢ちゃんだけでもここから出さねーと」
あちらから動く気配はないんだが、近づくものに反応して攻撃してくる。
このままではジリ貧だ。
「こうなったら仕方ない、俺たち全員であいつを抑える。その間にあんたら二人でお嬢ちゃんを連れて脱出してくれ・・・」
苦渋の判断だったのだろう。かなり苦々しい表情でその作戦を提案する万上。
それもそのはず。この作戦では全員の脱出が確約されない。音糸を正気に戻さないことには根本的な解決には至らないのだ。
半ば諦めかけて半泣きになるヤンキーもいた。
「なあ楽」
ふと隣に立っていた絵入さんが僕の袖をクイクイと引っ張った。
「私たちとあいつは友達なんだろ?」
「ん? ・・・ああ、そうだな」
「ちゃんと話しかければ分かってくれるんじゃないのか?」
「・・・・」
かなり近い位置、そうだな・・・懐に入れれば対象の顔の認識くらいはできるかもしれない。
・・・ただ認識におよぶと同時か直前に必殺に近いカウンターが襲いかかってくるからそれを捌けないと一撃で沈められる。
もちろん僕にそんな身体機能はない。
一刻を争う状況の中で、判断力も鈍っていたといえばそうだが。
絵入さんに一言遺言でも残しておこうと思った。
「絵入さん、不幸中の幸いでも確実に気絶はするだろうからせめて外に連れ出しておいてね」
全員で突撃しようと我を奮い立たせているヤンキーたちを横目に万上に声をかける。
「僕が行く」
「何言ってんだおまえ! そんなに足も震わせて、敵うわけねーだろ!」
言われたとおりだった、両足は激しめのマナーモード並みにがたがたと震えている。
「だ、大丈夫。多分カウンターが来ても当たる直前で我に返って止まるはずさ」
自分に言い聞かせるように強がってみる。・・・・止まるよね?
周りのヤンキーから引き止める声があがっていたが寧斗に近づくにつれ自分の心音しか聞こえなくなる。
寧斗の顔色が伺えるようになってきたあたりでスッといつでも迎撃できる構えがとられた。
一発目が飛んでくるとしたら右の拳か蹴りだな。
構えの状態からそんな推測を交わすが確証はない。先ほどのヤンキーに炸裂した蹴りに関してはほぼノーモーションだったし。
緊張が高まる中、普段であれば確実に声の届く範囲に入ったため大きめの声で呼びかける。
「寧斗、聞こえてるか?」
・・・しかし、やはりというか反応はない。
と、ここで寧斗の方から僕の方へ近づいてきた。
予測していたにもかかわらず右の拳が飛んでくるのに反応するのが精いっぱいだった。
大ぶりのパンチは僕の顔面すれすれをかすめ、切れた頬から血が垂れる。
こんなのまともに喰らったら気絶だけじゃすまされない。
「寧斗! 僕だ! 分かるか!?」
至近距離で声掛けするもまだ届かない。
続けて声を出そうとするが、同時に鋭い衝撃が僕の左わき腹を襲った。
めりっと沈むような重みを伴う音糸の蹴りが無防備な脇腹に入っている。
「・・・っ!!!」
すさまじい鈍痛とともに呼吸ができなくなる。
霞む視界のなかで倒れるのをこらえ歯を食いしばった。
「いい加減にしろおおおお!!」
ボクサーの極限状態ってこういう感じなんだろうか。
ぼやけた意識の中で自分と相手の動きがスローモーションに見える。
僕の最後の力を振り絞った拳は寧斗の顔面に向けて放物線を描いていたが、同時に寧斗の拳も僕の顔めがけて放物線を描いている。
ただ、寧斗の拳の方が明らかに僕の拳より早く、いくらスローモーションに見えても当たるものは当たるし、避けれないものは避けれないのであった。
気付いた次の瞬間には重たい衝撃とともに僕の視界は真っ暗にフェードアウトしていった。




