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【第6話】バッドラックジハード⑭

-------------


「……」


放心状態の抜戸を一瞥し講堂を去る。


今すぐにでも声を掛けてやりたいが他の生徒会役員の手前それはできない。


…なぜ負けた?


私は私で困惑していた。

あれほどまでに勢いづいていた裏掲示板での扇動も、及ばなかったというのだろうか?


いや…そんなはずはない。現に半数近くの賛成は得られていたし、抜戸の申し立て自体もそれぞれの生徒には響いたはずだ。


現状の生徒会に不満を抱いている生徒の数は多い。

それは裏掲示板のアンケートでも把握していた。

アンケートに答えた人数の総数もおよそ500人と生徒会役員を除くほぼほぼ全校生徒が見ていることを確約していた。


今後の抜戸の処遇について生徒会室で議論が行われるので役員のみが放課後に招集を掛けられている。

いまからもうどうすることもできないが、不正などが行われていないか確認する必要がある。


…不正。


いつもの教室に戻るとさっそく自身の端末で裏掲示板を開く。


総会前に盛り上がっていた書き込みを覗いてみると飛び交うようにコメントが更新される。


“おいおいどうなってんだよ!”


“あの状況で反対票入れる奴いるか普通…”


各々が賛成票に入れていたことを主張するコメントで溢れている。

その真偽は定かではない。直前で怖気づいて反対に入れる可能性は捨てきれない。


コメントを閲覧していると不意に教室の扉がノックされた。


「フレイヴ…いるか?」


予測するまでもない。声の主は抜戸だった。


施錠されている扉に向かうことなく私は息を殺す。


…我ながら最低だと思う。

立場があるとはいえ自分で直接行動せずに大役を押し付けた挙句、私はこの協力者を突き放そうとしている。


恐らくこのままだと抜戸はこの帝麗を去ることになるだろう。

校則違反という建前の元の停学から理由をこじつけて退学がもっとも選ばれそうなセオリーといったところか。


それまでは間違いなく生徒会に目を付けられる。


扇動の協力者の有無などの確認もされることだろう。

フレイヴという代行者の利用により私の正体が発覚することはないが…。


尋ねた声になんの反応も返ってこないのをみて扉の前に映っていた人影は力なく肩を下ろしてその場から去っていった。


「本当に申し訳ない…」


力なくその場にしゃがみ込みながら、自分の計画に半ば無理やり巻き込んだことを当人に届くはずもないのに謝罪する。


今は電源が落とされていて私の横で制止している彼が尋ねてきたロボットを見降ろすとその無様さにどうしようもない敗北感を突きつけられた。

目頭が不意に熱くなり何かがこぼれたが、無念さだけが自分の中で渦巻いて、私はただ突っ伏してうずくまことしかできなかった。



-------------



放課後になり生徒会室へと向かう。


無性に纏わりつく倦怠感に足取りが重くて仕方がない。


少し遅れて生徒会室に着くと、私以外の役員は既に着席していた。


「悪い、遅れた」


誰が咎めるわけでもなく私が着席すると補色が議事の進行を始めた。


「それでは臨時総会後の処遇について話しあいます」

「先ほどの臨時総会の結果でしたが抜戸楽による異議、現生徒会の解散要求は棄却されました」

「その内容の一部で関与がタブーとされている幽霊に関する取り決めですが、彼はその制約に著しく違反しているとみなされます」

「…彼の今後の処遇ですがいかがしますか?」


決定権のある全堂を見て返答を待つ。


「無論、停学だ。まあ復学したところで居場所はない。自ずからこの学園を去っていくだろう」

予想通りの決断を全堂が下した。


「残当」

カチカチと携帯ゲームをしながら御子柴も吐き捨てるようにネットスラングをつぶやく。


「では後日、運営委員経由で停学の手続きを取らせます」


「ああ」

補色が話す今後の流れに全堂が適当な相槌をうつ。

そんな中、急に思い出し笑いのように吹き出して全堂が嘲笑うような声をあげた。



「いやしかし…くはっ! 傑作だったなあの絶望した顔は」




そして信じられない一言を言った。





「まさか投票数が操作されてるとも知らずにな」





「……は?」

その一言に思考が停止し、思わず聞き返してしまう。





「操作…違う。あくまで機器の不調」

その真意を知っていると思しき御子柴が同調するように付け加えた。


「ああ、そうだったな。あれは計数機のマシントラブルだったか」



臨時総会時に御子柴がいなかった理由が分かった。

何らかの工作をして本来の投票結果を偽造したのだ。



「おい、ふざけるな…! 無効だろ、こんな結果…!」

とうに沸点を通り越した怒りを無理やり抑え込み異議を唱える。



「あの場でだれも結果に異論を唱えなかったではないか」

時効だ時効、と悪びれる様子も微塵も見せずに全堂が吐き捨てる。



「副会長! いいのかそれで!?」

我慢できずに語気が強まる。

こんなことが許されていいはずがない。


「……」

補色がまるでゴミを見るような刺す視線で二人を見据えていたが口は閉ざしたままだった。



「おいおい諦めろ。今から撤回できるはずもないだろうが」

罪悪感など微塵もないように悪びれる様子もなく全堂が吐き捨てる。


「馬鹿どもを統制するものがいなければこの学園は無法地帯になる」

「何も知らぬ転校生の一時の反抗心で秩序が瓦解してしまう…それが防げただけでも良かったではないか」


防げた。


うっかり漏らしたのかもしれないが、全堂のその言葉は実際の投票結果が抜戸に軍配が上がっていたことを示唆していた。



「…それともなにか? お前が代わりに生徒会長を務めるとでも言うのか?」

要求が現生徒会の解散であったためそれは叶わない。

役員だけでなく運営委員も含め再編成される。



「解散させられた生徒会役員がどんな学園生活を送るかはお前も想像がつくだろう…」

学園ランキングによる役割交代とはわけが違うんだ、と全堂が冷ややかな目で言った。



「……」


過去に業務が滞り臨時総会で解散を要求された生徒会役員がいた。

異議の申し立ては可決され敢無く解散となったが、同時にそれは“無能”の烙印を押されたのと同義だった。


校内では常に見下された視線にさらされ、ひどい場合はいじめの対象になることもあった。



抜戸の異議申し立ての可決による現生徒会解散によるデメリットは認識していたが、それも覚悟の上ではあった。


少なくとも私の中で“それ”はあいつを幽霊にしておく言い訳にはならない。



役職解任においては生徒会長ともなれば他の役員の比ではない。

解散後は悪い意味で一番の好奇の目に晒される。

独裁体制を貫く全堂においては目も当てられないような処遇が待ち受けていると言っても過言ではない。



何も言い返せずに立ち尽くしているうちに全堂とそれに連れられるように御子柴も生徒会室から退室した。



私の勝手な我儘に付き合わせたせめてもの報いに抜戸だけでもこの学園から避難させなければ…。



そんな責任とも罪滅ぼしとも言える感情がただ私の中で渦巻いていた。




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