【第6話】バッドラックジハード⑬
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「表情が硬すぎるだろ」
総会を目前にして緊張のピークに曝されている僕を見てフレイヴが呆れ顔で言う。
「し、仕方ないだろ! これからどんだけでかい花火打ち上げなきゃいけないと思ってんの!」
カタカタと震える両膝を手で無理やり押さえつけながらフレイヴに反論する。
昼休みの後に開かれる総会を前にして僕は例の教室でフレイヴと最後の作戦会議を行っていた。
「生徒会役員に裏掲示板の存在はやはり気づかれてしまったがさしてそれは問題ではない」
「やつらに我々の扇動を止めるすべはないし、異議申し立ての下準備は十分に整ってる」
自信満々に掲示板の画面をこちらに提示してくるフレイヴ。
最初に僕たちが告知をしてから、今日までに反応として帰ってきたコメント数は表示上限を超えてしまい続きとなるスレッドがもう何度も更新されている。
「あとはお前の勇気だけだ。重要な役ばかり任せることになるが申しわけない」
「……」
もうちょっと緊張を和らげる言い方とかなかったんだろうか。
ただでさえ緊張しているのにさらに僕の心拍数は上がる。
でも誰かが異を唱えなければこの状況は変わらない。
その誰かが出てくるのを待っていられるほど僕は辛抱強くなかったようだ。
自暴自棄に近い感情のまま、僕は総会会場である講堂へと向かうことにした。
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全校生徒が続々と集まる中、学年順に指定された席へと座る。
生徒の入場が終わり、会場が埋め尽くされたころに生徒会のメンバーと思われる女子生徒が講壇わきのテーブルで司会進行を始めた。
「定刻となりましたのでこれより臨時総会を開催します」
「生徒会役員 入場」
騒めきだってた会場がその一言をきっかけに一瞬にして静まり返る。
僕たちが入ってきた入り口とは別の入場口から生徒会の役員が入場してきた。
4人いるはずの役員は会計席の役員を除いた3人しかおらず、その先頭に立つ会長である全堂王我が毅然とした態度で自分の席へと歩みを進める。
全堂は自分の席に向かう途中で一瞬立ち止まり、
迷いなく僕の方を一瞥した。
「……!!」
射殺すような視線。
自分に向けられた牙に対して返り討ちを約束するかのようにその敵意をむき出しにしている。
今回の異議申し立てが僕によって引き起こされたということを彼は間違いなく把握している。
転校してさほど日数は経過しておらず、全堂とも直接的な面識はほとんどなかったはずだが…。
だがここで臆している場合ではない。
いずれにせよ演説の時点で顔が知れることに変わりはないのだから、今の自分の思いをそのままぶつけるだけだ。
生徒会役員の着席も終わりいよいよその時がやってきた。
「臨時総会 代表生徒の異議申し立てにうつります。抜戸楽さん登壇お願いします」
「……」
数百人はくだらない全校生徒の視線という視線を浴びながら壇上へと向かう。
この中の生徒の何人があの裏掲示板を利用しているのだろう。
味方が大勢いると信じて一歩一歩踏みしめるように進む。
「頑張れ…!」
「…!!」
通路を歩く途中で誰とも分からない小さなエールが送られた。
…確かにいる。
このふざけた学園のルールに異議を抱いているのは僕一人じゃない。
自分でも良くわからない決意とともに壇上の定位置に向き直り講堂全体を見渡す。
視線という視線が降り注ぐ。緊張もあり一瞬頭が真っ白になる。
…ビビるな。不安を見透かされたら圧し負けるぞ…。
「それでは抜戸さん、お願いします」
司会の進行で発表へと移る。
震える足を思い切り自分でつねりあげ無理矢理抑え込む。
「…2年、抜戸です」
一呼吸をいれてから、恐らく大半が既に周知しているであろうテーマを告げる。
「この学園は異常です」
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「皆さんご存じだと思いますが、この学校には幽霊がいます」
「正確には幽霊扱いされている一人の生徒です」
「彼が何でこんな扱いを受けているのかを僕は知りません。なんなら本人も知りませんでした」
「ただ、どんな理由であれ学校全体でこんな状況をつくりあげてしまっていること自体がおかしいと思いませんか?」
講堂内は特に賛否の反応もなく静まり返っている。
しかしそれは仕方がない。賛否の反応をした時点で幽霊に関する取り決めに触れてしまうからだ。
「このふざけた取り決めしたのは現生徒会役員です。しかもたちが悪いことに学園に強制的に干渉するように取り決めが為されています」
「今まで仕方がないからといって無視していた人たちも良く考えてほしい。幽霊が皆さんに何かしましたか?」
「異論も唱えられないような状況を作り出し、一方的な迫害を強要する生徒会役員を彼らの代が終わるまで続けるつもりですか?」
「この理不尽な学園での生活は皆さんの記憶に一生しみついて残ります」
「変わるなら…今じゃないですか?」
「僕は今の生徒会体制の解散を要求します」
期待していなかったと言えばウソになるが、拍手もなにも反応が得られぬまま申し立ては終わった。
「…以上を持ちまして抜戸さんの申し立てを締め切ります。生徒会長、全堂王我さん…反論などはありますか?」
反論…。そんな時間もあるのか。
役員席から立ち上がるわけでもなく、全堂が手元のマイクを取り口を開いた。
「反論も何も、これは何の茶番だ?」
そう言ってこちらを睨みつける。
目を逸らさずにこちらも負けじと全堂を睨みつける。
「俺たちは頭のいかれた転校生の世迷言に時間を奪われただけ」
「まさかこいつのほかに幽霊が見えるなんて気の狂った妄言を吐くやつはいないだろうな?」
そう言って講堂全体を嘗め回すように見回す。
「…さっさと投票に移れ」
その一言で講堂内が今まで以上に無音かと思われるくらいに静まり返る。
「そ、それでは。これより投票を行います。各列に順番で回ってくる端末で賛否を入力ください」
講堂内で投票が執り行われる中、僕は降壇し発表者の席に着席する。
張り詰めた講堂内の空気を感じつつ投票が終わるのを待つ。
「それでは投票が終わりましたので結果開示に移ります」
「賛成票が7割を超えていた場合、抜戸さんの異議申し立てを承認し現生徒会を解散します」
事前にフレイヴに全校生徒の人数を聞いていたが全学年併せておよそ500名弱いるらしい。
つまり350名以上の有効票があれば僕の異議は承認される。
「……」
壇上のスクリーンに投票の振り分けが表示された。
「…くそっ!」
「賛成票230票、反対票279票……異議の申し立ては棄却されます…」
足りない…。
先のことを考えていなかったこともあり思考がまとまらず頭が真っ白になる。
ただ、自分のこのあとの処遇がどうしようもなく良くないことだけははっきりとしている…。
「それではこれにて閉会します…。皆さん退場ください」
立っている感覚が分からないくらいに混乱する。
フレイヴに会って話さなければ…。
思考が纏まらない。
…どのくらいの時間放心していたんだろうか。
気が付くと僕以外の生徒はすでに講堂から退場していた。
「抜戸さん…大丈夫ですか?」
魂が抜けたような僕を心配してか、生徒会メンバーの司会をやっていた女子生徒が声を掛けてくれた。
「あ、ああ…すみません」
「えっと…なんの励ましにもならないかもしれませんけど、私は抜戸さんの意見に賛成でした」
生徒会のメンバーだから投票には関わってませんでしたが、と付け加えて言った。
この際その励ましが嘘だったとしても構わない。
少しでも僕と同じ考えの人がいるのが目に見えるだけでこんなにも安心するとは思わなかった。
「あ、ありがとう…」
不意に目から何かがこぼれた。
悲しいとかそういうことじゃないのによくわからない感情が渦巻いて溢れた。
なんとなくその場にいるのも落ち着かなかったので講堂を後にして藁にもすがる思いでフレイヴの元へと向かうことにした。
…僕はこれからどうなるんだろう。




