【第6話】バッドラックジハード⑫
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「遅刻」
定刻を過ぎ既に会長、副会長、書記が揃っている状況で遅れてきたにも関わらず悪びれる様子もなく会計の御子柴門司が生徒会室に入ってきた。
明らかにオーバーサイズのパーカーを制服の上から羽織り、奇抜なデザインのアイマスクを数枚装備したその出で立ちがまさにその協調性のなさを表現しているかのようだ。
「集合時間すぎてますよ? ゲームのやりすぎで頭いかれて時計も読めなくなったんですか?」
副会長の絵入補色が苛立ちを微塵も感じさせない声調で御子柴を攻める。
「おいおい、そんなに攻めてやるな。御子柴も学園のために日々統計処理などに尽力してくれている。その疲れもあるのだろう」
絵入補色とは対照的に会長の全堂王我が御子柴の非を許容する。
情報処理に長けた御子柴の手腕を買っているところもあるが、付き合いは長いらしく全堂は御子柴に基本的に甘い。
「反省」
必要最低限の謝罪を発して御子柴が自分の席にのそりと座る。
その様子を表情も変えずに補色が一瞥して諦めたかのように会議に話を戻した。
「全員揃ったようなので生徒会会議を始めます」
手元にあるまとめの資料を見ながら補色が会議を進行する。
ある程度の生徒からの要望などは副会長である補色が単独で解決してしまうが、会長である全堂に意見を求める必要がある案件はこうして会議が開かれる。
例によって今回も総会要求を中心とした話し合いになるようだ。
「では初めに、学園風紀における問題点が一点」
淡々と会議を進行する補色が続けて全員に確認を行った。
「各員、裏掲示板という名前を知っていますか?」
「裏掲示板? なんだそれは?」
恐らく初耳だったのだろう。全堂が聞きなれない様子で聞き返す。
「噂には聞いたことがあるが実際に見たことはないな」
黙っていても変な感じがするので適当な返答で合わせる。
「御子柴会計はどうですか?」
「既知」
補色が一応尋ねると、顔を上げるわけでもなく持参した携帯ゲームを操作しながらそう一言だけ呟く。
こいつの協調性はどこにいってしまったのだろう。
迷子とかいうレベルの話じゃない。もはや遭難してしまっている。
そんな御子柴に見向きもせずに補色が続ける。
「簡潔に言えばこの学園における情報交換が匿名でできる掲示板です」
「……」
やはり生徒会の耳にも入るか。
以前までは一部の生徒間でしか使用されていなかったが、最近の過激な内容が影響してか学園内でも頻繁に耳にするようになった。
「匿名か。ふっ、名も名乗れない意気地なしどもが集まっているだけだろう」
さして気にもかけずに吐き捨てる全堂。
「問題視すべきはその内容です。次の総会で現生徒会の解散要求に持ち込もうとしている動きがみられます」
生徒会の備品であるタブレットを操作して補色が裏掲示板の内容をプロジェクターで表示した。
「くだらん。今のこの学園の状況で大半が反旗を翻すとは到底思えん」
表示された画面を見ようともせずに頬杖を突きながら全堂がつぶやく。
「…それが幽霊に関する取り決めへの異議要求だとしてもですか?」
補色の一言に明らかに全堂の反応が変わった。
「…どこの馬鹿だ、そんな異議を立てようとしている奴は?」
「抜戸楽。…つい先日編入してきた転校生ですね」
要求表を確認しながら補色が名前を読み上げる。
「裏掲示板でのとあるユーザー一人が此度の総会で現生徒会の解散を実現させるために扇動を行っています」
「異議のための総会開催要求のタイミングからしてほぼ確定で同一人物かと」
総会の開始まで扇動に気づかれなければベストではあったが、どこかで裏掲示板のことが生徒会の耳に入ることは想定の範囲内だ。
掲示板で扇動を行ってる人物と総会開催要求者から抜戸が同一人物と特定されるのも同様。
ただそこにあの扇動が抜戸楽のものである証拠はない。
そのために抜戸の携帯で書き込みをしなかったのだ。
仮に総会前後に扇動を抜戸によるものだと証明するために抜戸の携帯で書き込みを行いIDの開示が行われようと、
あの扇動を行ったコメントのIDとは一致しないのだ。
「裏掲示板における扇動によって不特定多数の生徒が異議への賛成投票をほのめかしている状況ですが、どうされます?」
意義の内容が生徒会長への不満であるためか他人事のように淡々と述べる補色。
「内情を知らない転校生風情が正義漢ぶりやがって、俺が直接コンタクトを取ろう」
「……」
面倒なことになったな。
抜戸がテンパって扇動に加担していることを漏らしてしまえばそこで終わってしまう。
総会も開かれることなく停学処分を受けることになるだろう。
「では会長が直接対処されるということで。主な議題は以上になりますが今日はこれで解散で良いですか?」
「ああ」
総会の日程が決まるのは全堂が抜戸に接触してからだな。
その前に抜戸がしらを切れるように事前に声掛けをしておかねばならない。
「まて、西園」
生徒会室を出ようとした矢先に全堂に呼び止められた。
「…なんだ?」
「お前確かIT関連詳しかったよな?」
「まあ、人並みには…」
本当はその裏掲示板の創設者だが。
「その裏掲示板を使用できないように何か手を加えたりはできないか?」
そうきたか…。
「セキュリティとかのプロテクトがしっかりしている場合は難しいな」
まあ私が作成したものだしそうそう破られるようなセキュリティはかけていない。
「そうか、もし妨害できるようならやってみてくれるか?」
「まあ、やれるだけやってみるよ…」
微塵もそんな気はないが一応協力的な態度で誤魔化しておく。
「ああ、期待している」
そういう全堂の目はこちらこそ真っすぐに見据えているものの信頼に近い感情が皆無なくらいに黒く淀んでいた気がした。
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他の生徒会役員が次々と退室していき、教室内には俺と御子柴の二人だけになった。
カチカチと携帯ゲーム機にとり憑かれたように集中している。
「門司、頼みごとをしていいか?」
門司の持っているゲーム機から暴発音とともに悲しげなBGMが流れる。
「うん、なに?」
「万が一、総会で異議が通りそうな状況になったら情報操作できるか?」
「…わかった。やってみる」
一瞬考えた後に門司が頷いた。
これは直感だが生徒会のメンバー内に俺に牙を剥こうとしている人物がいる気がしてならない。
俺の作り上げた生徒会だが、実際のところ門司以外は誰も信用していない。
帝麗というこの箱庭を自由にしていいのは俺だけでいい。
異を唱える奴は一人残らず揉み消してやろう。




