【第6話】バッドラックジハード⑩
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「この閉鎖された帝麗という箱庭において自由に発言できる場は必要だと思ってね」
作ってみた、とさも簡単そうに打ち明けたフレイヴ。
「いや…作ってみたって」
そんな容易なもんじゃないだろう匿名の掲示板を作成するなんて。
「フレイヴ、君は一体何者なんだ?」
「ん? 私か? 前にも言ったろ、君とキョウの協力者だ」
「それは聞いたけど、この学園の生徒なのか?」
遠隔で操作されているフレイヴの向こう側にいる人物に問う。
「んー…まあその辺は言ってもいいか…」
少し悩んだあとにフレイヴが口を開く。
「そうだ。この学園の生徒だ」
特定されると今後の作戦に支障が出るかもしれないからそれ以上は言えないと、それ以上の情報開示はなされなかった。
ボイスチェンジャーを使用しているのだろう。くぐもった機械的な音声で話すフレイヴ。
言葉遣いから勝手に同じ男子生徒のイメージでいたが正直性別もなにも推測できない。
「おいおい、人の忠告は素直に受けたほうがいいぞ?」
推測しようとしてるのに感づいたのか、再度僕にフレイヴが忠告する。
「はあ…わかったよ。でもこの作戦がうまくいったら…その時は君の本当の名前を教えてくれないか?」
「随分気が早いな。…まあいいだろう」
今一つ実態の見えないフレイヴとけじめにも似た約束を交わす。
「話を戻すぞ。裏掲示板の内容だが…そうだな、自分で見てもらった方が早いかもしれん」
そう言って僕の携帯電話に不明通知者からメッセージが届く。
今のやり取りでフレイヴから送られてきたものと分かったので開くとウェブサイトのリンクが添付されていた。
「これがその裏掲示板の…」
リンクを開くとバイオハザードマークが敷きつめられたようなトップページが表示される。
中ほどにENTERとBACKの選択肢がありENTERを選択してサイト内に入る。
黒を基調としたなかに各テーマがシンプルに白文字で表示されており、直近で更新のあったものから順に掲載されていた。
【学園の幽霊の話:ヘ(^_^ヘ)~】と書かれたテーマが続々と更新されていく。
隣に書いてある顔文字は幽霊を表現しているのだろうか…。
選択して入ってみるとキョウに関する様々な意見交換が為されていた。
《昨日の放課後、幽霊ぶつかられて転んでた》
《ぶつかったやつの顔、血の気引いててやばかった》
《幽霊なのにすり抜けない件。》
etc.etc.……
「なんだよこいつら…好き勝手に…!」
匿名性を利用した物言いに無性に腹が立つ。
「イライラする気持ちは分かるが他のコメントも読んでみてくれないか?」
フレイヴに促されるままに過去のコメントも読み進めていくと他にもいろんな内容があった。
《でもあんなに無視される必要ないよな?》
《自分だったらと思うとぞっとするよ…》
《なんでこんな異常な状況なのに外部に漏れないの?》
《別に悪い奴には見えないんだけどな》
そう言ったキョウを擁護するようなコメントもあちこちに目立った。
みんな口には出せないがこの状況が異常という自覚はあるようだ。
「コメントにもあるけどどうして外部に漏れないんだろう」
「伝統ある学園の方針だから大人が介入できないのさ」
実際に帝麗を経営する母体がこの地域の根幹に関わる組織らしく、学園外で騒ぎ立てようものなら瞬く間に情報修正されてしまうそうだ。
「ふーん…ん?」
ふと投稿の中で気になるコメントを見つける。
《幽霊の正体について》
コメントの内容を続けてみていくとキョウの本名についての話題が出ていた。
《幽霊の名前書き込もうとすると強制的にサーバー落ちるんだが》
《あ、ほんとだ》
《多分これ仕様だよ。別の文字で打ってもエラーメッセージ出るもん》
《そうか、幽霊になる前を知ってるやつもいるもんな》
「詳しく個人が特定されないように配慮した」
僕の言わんとしていることを察してか隣で覗き込んでいたフレイヴが言う。
まあキョウという名前が分かっていれば僕はそれでいい。本名が分からなくとも差支えはない。
「それで、結局僕は何をすればいいんだ?」
「ん? 計画に大きな変更はない。君は予定通り総会で全堂王我を下すための異議申し立てをすればいい」
「すればいいって…、今のままじゃ勝ち目がないって言ったのは君じゃないか」
「ああ、今のままではな」
そう言いながら自己のネットワークを操作しフレイヴも裏掲示板を開く。
コメントの投稿欄に何か入力し終えるとその画面を僕に見せてきた。
《勇気ある生徒諸君 僕に力を貸してくれないか?》
「生徒会の不可侵なこの環境で扇動を行う」
そう言ってフレイヴが入力したコメントを投稿する。
投稿してまもなく携帯から返信コメントの通知音が頻回に鳴る。
「うわ、反応はやっ」
それだけこの学園における裏掲示板の利用状況が多いことを示しているようだ。
《え、誰?》
《悩み相談掲示板なら回れ右推奨》
《詳細はよ》
《おい、ID表示になってるぞ》
客観的な反応が多いもののその内容を求める反応が目立つ。
「よしよし食いついてきたな」
フレイヴが得意げになりながら投稿を続ける。
《この学園の闇を共に明かそう 生徒会長の恐怖統治に震える必要はない》
《次の総会をもって 現生徒会役員をあの席から引きずり下ろしてみせる》
実質生徒会長への宣戦布告を行った。
先ほどより勢いのある通知音が鳴り続く。
《まじ?》
《お祭りが開かれると聞いて》
《本気ですか?》
半信半疑の反応も多いが軒並み興味を示した反応が多く見受けられる。
《一人でも多くの有志を募る》
「まあとりあえずはこんなところか」
フレイヴがそう言って裏掲示板からログアウトした。
「あれ、もうおわり?」
続けざまに見方を増やすためにコメントを続けるのかと思いきやあっさりとやめてしまう。
「必要なのは起爆剤だ」
結果は明日になればわかるだろう、そう言って携帯の通知をOFFにしてフレイヴがこちらに向き直った。
「そういえば学生にこれだけ知られているんだとすれば、生徒会のメンバーにも裏掲示板の話が耳に入ったりするんじゃない?」
ふと懸念したことを尋ねる。
「まあ、多分存在は知っているだろうな」
「え、そしたらまずいじゃん…反乱が起こされようとしているのバレちゃうんじゃない?」
誰でも閲覧できるのであれば当然そのリスクは考えなければならない。
こういった動きがあることを知られてしまえば生徒会が摘発に動き出すのではないだろうか。
「バレても問題ない。そのための匿名性なんだ」
管理人であるフレイヴの技術により、自分から名乗り出ない限り裏掲示板での個人の特定は不可能だという。
「君の携帯でもその後の掲示板の様子はチェックできるだろう。とりあえず今のところは閲覧だけにしてくれ。下地を作ってる段階だからな」
フレイヴに釘を刺されながら科学準備室を後にした。
学校が終わって家に帰ってから再び掲示板を覗いてみたが、決起予告をしてからのコメントの数がとんでもないことになっていた。
過激な内容も一部あったので詳細は割愛するが、現生徒会に一太刀入れてやろうぜ!的なノリが完全に出来つつあった。
学園内ではやはり表に出せないものの、キョウの扱いに対して異常だと疑問視しているのが大多数であることに確信を持つ。
様々な返信を読み返していると、今すぐにでも臨時総会をこの異常な学園の取り決めを廃止してやりたい気持ちになるがぐっとこらえる。
何か大きな使命を背負ったような自己陶酔感を反芻しながら僕は眠りについた。




