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【第6話】バッドラックジハード⑨

-------------



昇降口から出て校門へと向かう。

下校をする他の生徒があちらこちらに行きかっている。


こうしてみると穏やかな普通の学園にしか見えない。


そんな中に一人、他の生徒に極力接触しないように少しはぐれた位置でとぼとぼと歩く人物がいた。


声をかけたいところだがこんな往来ではそれもかなわない。


そんなことを考えていると幽霊の後方から校門の方へ向かってふざけながら走っていく男子生徒が数名。

前方を十分に確認しないまま走り出し、そのまま幽霊にぶつかる。


「……!」


完全に意識していないほうからぶつかられたキョウがそのままバランスを崩して受け身も取れずに転倒する。


「うわぁすみません!」

前方不注意でぶつかった男子生徒が反射的に謝罪してぶつかった相手を見る。

相手が誰だか視認した男子はギョッとした表情で青ざめる。


「は…ははは! お前誰に向かって謝ってんだよ…」

どう見ても無事じゃないキョウをまるで労わる様子もなく仲間の男子がそんなことを言った。


「あ、ああ…そうだな! つまずいちまったよ~」


周囲に数人いても誰一人キョウには駆け寄らない。

遠巻きに見ている他の生徒も気の毒そうに傍観しているだけだ。


狂ってる。


素直にそう思う。


無意識に倒れたままのキョウへと駆け寄ろうとした。


「止まれ」


急にそう呼び止めらたかと思うと左手が強く引き留められた。


「落ちつけ。今この状況で助けでもしたら明日にも停学だぞ」

僕にしか聞こえない音声でフレイヴが忠告する。


「じゃあただ見てろって言うのかよ…!」


理不尽な状況に野次馬だけが徐々に増えていく。


「オ、オトシモノデース」

周囲に人が増えてきたのもあってフレイヴが他の生徒と接しているときのように変に片言な口調に戻る。

そのまま近くのベンチまで誘導され座らせられた。


「あくまで私と会話している風に装うんだ」


「…分かった」


せめて見守るというフレイヴの意図をくみ取り、雑談しながらも転んだキョウの方を横目で見た。

ゆっくりと起き上がると制服についた土埃を手で払う。

少し離れた位置で見てもわかる程に頬に擦り傷が出来ていた。


痛みがあるのか顔を手で触れながらそのまま校門の方へと向かう。


キョウが校門から出たのを確認してからフレイヴが僕に言ってきた。


「…幽霊の取り決めは基本的に学園内でのルールだ。つまり敷地から出てしまえば口外すること以外はこの取り決めは適用されない」

私はこの体で学園から出れないから、すまないが君にお願いしてもいいか?と申し訳なさそうにそう言った。


聞き終わる前に僕の足は校門の方へと走り出していた。


校門を抜けてキョウが曲がった方へ向かう。

少し見回すと、ぶつけたところが痛むのだろう。そう遠くない距離にいた。


「大丈夫か…?」

誰かに声を掛けられると思っていなかったようで急に道端で出くわした野良猫みたいに身を委縮させるキョウ。

学園を出ても無関係を貫こうとする生徒がほとんどなようで、こちらを見るだけで誰も手を貸す様子はない。


「あ…えっと…」

話しかけていいものか困惑したのか、キョウが周囲と僕を交互に見回す。


「学園の外だから気にしなくて大丈夫」

そう伝える。


「そっか…」


「ほら、顔見せてみろ」

そういって持っていたハンカチを取り出してかすり傷ができた頬に添える。


「砂がくっついちゃってるな…」

立ち尽くしているキョウの手を引いて近くの公園に入った。

水道のところに連れて行き濡らしたハンカチで頬の砂を優しく拭きとる。


「ごめん…」

顔を拭く際にキョウが長い前髪を自分でかき上げて拭きやすくしてくれた。


上は制服だがなぜか下が指定ジャージというファッションスタイルのキョウ。

前に服装について聞いたが動きやすくて楽だし誰も指摘してこないからそのスタイルに落ち着いたとか言ってたな。


男子の割には非常に細身でちゃんとご飯を食べているのか見ているこっちが不安になる。


顔を拭き終わった後に徐に水飲み場に向かうキョウ。

水の吹き出し口を綺麗にゆすいだ後にその直線状に自分の目を向けはじめた。

おそらく転んだ時に目に砂でも入ったのだろう。ゆすごうとしているみたいだ。


「お、おい。そんなワイルドなやり方じゃなくても…」

忠告し終わったかどうかのタイミングで調節を誤ったのか勢いよくキョウの眼球を公園の水道水が撃ち抜いた。


「っっっ~~!!」


撃ち抜かれた目を抑えながら悶絶して転げまわるキョウ。

その様子を見て僕も思わず吹き出す。



その後、キョウの目が落ち着いてから公園で別れそれぞれの家路についた。


帰りながらも決心は深まる一方だった。


絶対にこのふざけた学園の現状を打開してみせる。


-------------


翌日の昼休み。


事前にフレイヴから前回と同じ場所での集合を告げられていたので購買を経由して昼飯を買ってから科学準備室に向かう。


周囲に人の気配がないことを確認してから教室に入る。当然だが鍵は開いている。


「フレイヴ、いるか?」


問いかけてみるが返事はない。

さほど広い空間でもないが奥の方にいるのかと思って少し覗いてみる。


「うわ…すごいな…」

雑然とあたりに散らばっていたのは義手や義足、はたまたガトリング銃のような武器と思しき様々なパーツがそこにあった。

自分にこれらのパーツを付け替えるのだろうか?

変に触ると怒られそうだったので後ずさりして戻ろうとする。


「おい、なにをしている」


「うわあ!?」

気配もなく自分の背後にいつのまにかいたフレイヴに驚いて思わず絶叫してしまう。


「ば、ばか! デカい声を出すな! 近くに他の生徒がいたらどうする!?」

珍しく焦ったようにフレイヴが息を潜めて僕に注意する。


「急に話しかけるからだろ…!」


「その辺は暴発する部品とかもあるから無暗に触らないようにしろよ」

そう言って昨日と同じ定位置に移動して充電を開始するフレイヴ。


「この多量のパーツは全部君のものなのか?」

気になったので素直に聞いてみた。


「ああそうだ。作ったのは私だが、実際に使うのは私の知人…というか助手というか…」

まあそんなところだ、と適当にはぐらかされてしまった。

あまり深くは追及せずに本題に戻すことにした。


「昨日話してたプランBのことだけど…」

「正直なところ今の僕がこの学園の生徒に幽霊に関する取り決めにおける異議を唱えても、他の生徒が賛同してくれるイメージが湧かないんだよね」


これまでそうされてきたように仮に僕が総会を催したとしても要望が却下された際のリスクをわざわざ冒してまで賛同してくれる生徒が果たして何人いるだろうか。

不正がないように投票は無記名では行えない決まりになっている。

つまり生徒会長に牙をむくにも自分を晒さなければならないのだ。


「今日話そうと思っていた内容はそれだ」

予め僕が指摘しようとしていた問題点は既にフレイヴは把握済みだったようだ。


「まあ、君の心配してる通りで今のまま総会を開いてもまず勝ち目はない」


「何となくわかってはいたけど、そしたらプランとして成り立たないんじゃ…」

一気に気落ちして声にまで力がなくなってしまう。


「まあそこなんだが。私が無策でプランを立てると思うか?」


「……」

手詰まりの際には毒を盛ろうとしていたことを思い出して何とも言えない気持ちになってしまう。


「実はこの学園にはネットに裏掲示板があるんだ」


「裏掲示板?」

怪しげな響きに思わず聞き返す。


「痕跡を残さずに情報交換ができる掲示板だ」

もちろん生徒会の追跡も及ばない、と自慢げに付け加えるフレイヴ。


「んでその裏掲示板がどうかしたの?」


「日々そのサイトでは匿名で学生同士の情報が交換されている」

最近では転校生である僕の話題で盛り上がっていたそうだ。

内容がものすごく気になるところだが…さながらパンドラの箱か。何を言われてるか分からないので恐ろしくて自分で閲覧しようとは思えない。


「ちなみにざっくりどんなこと書かれてた?」

…が、好奇心には勝てずフレイヴに尋ねてしまう。


「あー…聞きたいか?」


「あ、やっぱいいです。ごめんなさい」

フレイヴの気まずそうな反応を見て即座にブラウザバックをする。


「あんまり頭がよさそうには見えないって書かれてたな」


「こらああああ!! やっぱいいですって言ったじゃないかぁ!」

ブラウザバックが間に合わずフレイヴに答え合わせをされてしまった。

精神的にダメージを受けながらも人を見た目で判断する帝麗の裏掲示板ユーザーに憤りを覚える。


「はあ…話を戻そうか。その裏掲示板で何をするつもりなの?」


「最近のテーマで盛り上がっているのが“学園の幽霊のこと”なんだ」


「……!」

学園の幽霊、つまりキョウの話題だ。


「帝麗の情報交換の場でありながら、帝麗の支配者である生徒会の不可侵領域である裏掲示板」

「私はその裏掲示板の管理人だ」




フレイヴが僕の目を真っすぐに見て言う。




「私たちでここから革命を起こそう」





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