【第6話】バッドラックジハード⑦
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翌日。
クラスメイトから食堂でのランチのお誘いがあったが金欠を言い訳に安い総菜パンを求めて購買へと向かう。
数日前に一度食堂でクラスメイトと食事をとったことがあったが、成績や講義の復習に関しての話題ばかりでひどく退屈であったためそれ以降一緒に食事することはなくなった。
例によって購買でパンを買って昨日と同じ空き教室に向かう。
よく見ずに買ったが今日のは「ほとんどキャベツのメンチカツパン」という総菜パンだった。
それはもはやメンチカツではないのではとセルフつっこみをいれつつ一息つきながらモサモサと頬張る。
無心でパンをむさぼっていると昨日までは誰も来ないことを願っていたはずなのに、一緒にパンを食べた誰かさんが来ることを心のどこかでちょっとだけ期待している自分がいた。
なんだか落ち着かない…。
…警戒してこなくなってしまったのだろうか。
そんなことをモヤモヤ考えていると、昨日と同様に教室の後方の扉が開いた。
僕がいることに気づいてか軽く一礼してから幽霊が入ってきた。
よたよたとおぼつか無い足取りでまた少し離れた位置にしゃがみ込む。
心なしか昨日より距離が狭まっている気も…しなくもない。
一息ついた後にがさがさと懐から本日のパンを取り出す。
昨日よりも若干距離が近いおかげで購入したパンの名前が見えた。
ラムネパン…。
随分と個性的なパンを買ってきたな…と思いながら横目で見ていると、
当の本人もパンの包装をみて首をかしげている。…自分で選んだんじゃないか。
もちもちと弾力のあるパンの音に混じって時折ぼり…ぼり…というラムネの咀嚼音が教室内に響く。
「…美味しいの、それ?」
ほんとに無意識に。
ふと気になって尋ねてしまった。
一瞬びくっと驚いたような反応を示す幽霊。
話しかけられたことに対してなのは間違いなさそうだ。
口を開くのかと思いきや何かを躊躇いながらも小さく頷いた。
ラムネパンを食べ終わると何かを思いついたように自分のカバンを探り出す。
A4のキャンパスノートを取り出すとペンで何かを書き出した。
書き終えたキャンパスノートを僕とのちょうど中間ぐらいの位置に広げて置いた。
“校則 知ってる?”
そう書いてあった。
校則とはおそらく幽霊に関する取り決めの事だろう。
「…知ってるよ」
僕の返答に呆気にとられたような反応を示してからノートを回収する。
“じゃあ どうして?”
自分に話しかけてくるのか、とでも聞きたいのだろう。
「この教室なら大丈夫なんじゃない?」
「それに僕、転校してきたばっかでここのルールとか知らないし」
知ったことかとでも言わん顔でそう伝えると幽霊の肩の力が少し抜けたような気がした。
「君、名前なんていうの?」
「……」
名前を聞いてみたものの返事が返ってこない。
踏み込みすぎたか。
そんなことを思っていると、
「あ…、キョ…キョウ」
かなりの時間差で返事が返ってきた。
「キョウか…。僕は楽。抜戸楽だ」
一応転校初日に挨拶はしたが、自分も名乗った方がフェアな感じがしたのでそうする。
「楽…」
改めて認識してもらえたような感じがしてなんだかこそばゆい。
「まあ、万が一にも明らかに会話している所を見られるとお互いにまずいだろうから向き合わずに会話しよう」
そういって教室の後方にある月間予定表を見つめながらのシュールなコミュニケーションを僕たちは取り出すことになった。
こうすることで後から一緒の教室にいたと追及されても苦しい言い訳はできるかもしれない。
停学のリスクがあると言うのになぜ接触を試みたのかは…自分でもよく分からない。
過去にいじめから誰かを助けた余韻が抜けていなかったと言えばそうかもしれない。
ただなんとなくこのキョウという生徒を放っておけなかった。
それから何日かかけてキョウとコンタクトを取った。
本人が答えてくれた範囲で分かったことがいくつかある。
まず一番重要な幽霊扱いされている原因について。
…なんとこれは本人も分からないとのことだった。
入学してからの1年間はそういったこともなかったのだが、2年に進学したある日を境に学園の誰もが目を合わせなくなったらしい。
…まるでそこに誰もいないかのように。
初めのころは自分から話しかけてみたりもしたが、みんな怯えたように離れていってしまうのでそのうちに話しかけるのを諦めたのだという。
これに関しては例の幽霊に関する取り決めを恐れての事だろう。
問答無用で停学なんて健全な学生からすれば恐怖でしかない。
そして驚いたことに停学を通り越して退学の実例もあったらしい。
その生徒は最後まで学園の方針に異を唱えていたらしいが、あっという間に学園から姿を消したというのだ。
聞けば聞くほどダークな情報しか飛び出してこないのでキョウと話した日は謎の胃もたれを起こす。
それでも何か打開策がないかと色々考えてみてはいるが…。
「どうしたらいいかさっぱり分からん…」
キョウの主観的な意見が情報源なので肝心の幽霊に至った理由がいまだにはっきりしない。
本人もコレといった心当たりがないようで核心には迫れずにいた。
ただ疑問に思うことはこんなふざけた状況で彼は卒業までこの学園に囚われるつもりなのだろうか…?
言い方は悪いがその場所に縛られているという意味では幽霊は幽霊でも地縛霊なんじゃないかと悪い冗談すら浮かんでくる。
…まあ、キョウの場合は未練とかそういうのがあってではないのだろうけど。
そんな特にどうすることもできないまま数日が過ぎた。
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ある日の放課後。
家に帰ろうと教室から出て昇降口に向かう途中で何かにぶつかった。
「ハローォ」
「ん!?」
僕よりも一回り小さい人型のロボットがそこにいた。
「マイネームイズ フレイヴ ナイスツーミーチュー」
…片言の英語でめちゃくちゃ話しかけてくる。
どうやら名前はフレイヴというらしい。
ちょっと恥ずかしいので周囲にあまり人がいないことを確認してから返事をしてみる。
「おー まいねーむいず らく・ばつどぉ」
ナイストゥミ―チュートゥーといって友好的な態度を示す。
「オー イエース アー……」
「…?」
なにかを考え出して急に黙り込むフレイヴ。
「…はぁ、しんど。普通にしゃべってもいい?」
「えっ」
突然ダウナーな感じに切り替わって意表を突かれる。
他の生徒には内緒だよ、と魔法少女の様な忠告までされた。
「むしろ最初のしゃべり方はなんだったの?」
「愛嬌が湧くかと思ってそういう設定にしているんだ。結果自分の首を絞めることになったけどね」
先ほどまでとは違いめちゃくちゃ流暢にしゃべっている。
…というか別の場所から誰かが音声通信しているようなかんじ。
実はこのロボット、会うのはこれが初めてじゃない。
確か帝麗の学園案内コンシェルジュロボットだったかな。
転校してきてから何度か廊下などで他の生徒に話しかけられてるのは見たことがあったが、自分が会話をするのは今回が始めてだ。
向こうから話しかけてきたところをみるに何か僕に用件でもあるのだろうか。
「突然で警戒しているとおもうが…私なら君の悩みに力を貸せるかもしれない」
「…へ?」
なるべく周りの生徒に怪しまれないようついてきてくれ。そう言われた。
まさかとは思うが僕の悩みとはこの学園での幽霊の取り決めに関することだろうか。
どこからどう見ても怪しいが、僕だけの力では行き詰まっているのは事実だ。
今はこのロボットの言うことを信じてみるしかないと自分に言い聞かせて後を追うことにした。
実習棟のほうに入っていき、あまり人気のない方へと進んでいく。
技術開発室と書いてある教室を過ぎ、科学準備室という名の部屋へと案内される。
「よし、入れ」
周囲に人がいないことを確認してから僕を招き入れる。
雑然と段ボールやよくわからない器具が所狭しと置かれている。
フレイヴはその一角にある充電器の様な椅子に腰かけてこちらを見た。
「はああ…生き返る」
温泉にでも浸かったかのように渋い声を出す。
ロボットなのに気持ちよさとかあるんだろうか。
「面白いだろ? 充電つなぐと自動で言うように設定したんだ」
「ん? う~ん…」
「ま、まあ…これも余計な機能だったな」
僕の反応が薄かったせいか若干気まずそうに取り繕うフレイヴ。
「さて、気を取り直して本題に入ろう…この学園の幽霊についての話だ」




