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【第6話】バッドラックジハード⑥

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大きな講堂へ移動すると各自自由な席に着席して筆記用具を取り出す。

前方にある大きなスクリーンに今回の講義の議題が表示されている。

オンライン講義でありリアルタイムでの質問も受け付けているようだ。


「ちょっとトイレに」


ふと先ほどの生徒が気になり不自然な感じにならないように席を立つ。

講堂の後方にあるトイレへと向かいがてらさりげなく全体を見渡す。


…いた。


あまり目立たない隅っこの方で確かに座っている。


勿論隣や周囲に他のクラスメイトはおらず完全に一人で孤立している。


さほど尿意もないが一度立ち上がった手前、男子トイレへとそのまま入ることに。


「はあ、なんなんだよこれ…」


誰にも相談できず自問自答で頭を抱える。


いじめ…なんだろうか。

さながら幽霊のようにいないもののように扱われている。


悶々とその姿が頭をよぎって講義に集中するどころではなくなってしまった。


良くわからず神経をすり減らしたまま一日の学園生活が終わりを迎えた。

下校のチャイムが鳴ると隣の例の生徒もおもむろに帰宅の準備に取り掛かろうとしていた。


他のクラスメイトがその近くを通った時に積んであった教科書が接触して床に崩れ落ちた。

接触した生徒は一瞬崩れた教科書を気にしたようなそぶりを取ったが、特に直すわけでもなくその場を通り過ぎて僕に話しかけてくる。


「おつかれ。転校初日どうだった~?」


「えっ?」

まるで何もなかったかのように僕に接してきて、こちらが意識して固まってしまう。

曖昧な返事をしながらも横目に隣の席の生徒を見てみると、無言で崩れた教科書をもとの位置に直していた。


クラスメイトとそのままの流れで下校のために教室を出ると廊下で僕を見つけた野々村先輩が話しかけてきた。


「おーい、抜戸君。ちょっといいかね?」


「…はい。なんでしょう?」


「帰る前にちょっとだけ時間もらえるかい? 校則のまとめの説明があるんだ」

そういって運営室の奥にある生徒相談室につれていかれた。


「まあ座ってよ。お茶と珈琲どっちがいい?」

気さくに話しかけてくる野々村先輩。


「じゃあ…お茶で」


「はいよー」

慣れた手つきでお茶を入れてくれる先輩。

一通り準備が終わると斜め向かいソファに座ってお茶をすすりだした。


「転校初日お疲れ様。一日を通して何か気になることはあったかな?」

私に答えられることは何でも答えるよ、と胸に手を当て聞く姿勢になる先輩。


怖い。


心拍数が跳ね上がる。


聞いてよいものなのか本当に分からない。


でも個別で呼び出されているということはそういうことなんだろうか?


彼女は僕が“あれ”について質問するのを待っている。


「同じクラスの生徒について聞きたいんですが…」


「ほうほう。誰のことだい?」


「僕の左隣の席の生徒です」


それを聞いた瞬間に野々村先輩の表情が明らかに曇った。


「えーっと…君の左隣かい?」


そこには生徒がいないはずなんだけど、という信じられない答えが返ってきた。


そんなはずはない。

そう言おうとした矢先に先輩が続けて話し出す。






「ああ、そうそう。そういえばこの学園、幽霊がいるんだよ」







-------------


運営室を後にして家路につく。


信じられない話を聞かされたせいか足取りが異様に重い。

何も考えずにこのまま眠ってしまいたいくらいだ。


相談室で野々村先輩が話していた内容はこうだ。


この学園においての生徒会長の定めた校則は絶対である。

その一つが学園にいる幽霊に関しての取り決めだ。


・幽霊に接触してはならない。


・幽霊に接触を試みたものは原則として生徒会判断のもと停学の処分を下す。


・学園外における上記に関わる情報の漏洩を深く禁じる。


つまるところ学園総ぐるみでの個人の無視ということになる。

良く考えなくても異常であることがわかる。


内部告発みたいなことをすれば解決できそうな気もするが転校してきたばかりで大きな動きは出来そうにもない。

まだ初日だしとりあえず様子を見ることにした。


-------------


衝撃的な転校初日から数日が経った。

学園の一日の流れには慣れてきたものの、相変わらず幽霊の存在には慣れないままだ。

クラスメイトとの交流はあるものの校則とは言え一貫して一人の人間を無視しつづけている連中と打ち解けられるはずもなく…。


「なんて居心地の悪い学校なんだ…」


ほとんど利用されることのない空き教室でぼやいていた。


先日校内を散策した際に実習棟で唯一施錠されていないこの教室にたどり着いた。

授業か放課後の部活動でしか利用されることのないこちらの棟は昼休みに訪れる生徒がほとんどいないためいわゆる穴場になっていた。

ましてや余分に常設されたためか使用目的が決まっていないこちらの教室は僕以外基本的に誰も来ることはない。

購買で買った焼きそばパンを頬張りながら何も考えずにぼーっとするこの時間がつかの間の休息だった。

無心でパンを咀嚼していると教室の後方の扉が開く気配がした。


「やばっ…」


見つかったらまずいと思いつつも、今から隠れても間に合わないので諦めてその場に息をひそめる。

静かに教室の中に入ってきたのは見回りなどの生徒ではなかった。


噂に名高い学園の幽霊だった。


その手には購買で買ったと思わしきパンを抱えている。


幽霊なのにパンは買えるのか…と余計な詮索をしているとキョロキョロと見まわした際にやっと僕の存在に気付く。


「あっ…」


幽霊はそう小さく声を漏らすと酷く落胆したように踵を返して教室から出て行こうとした。

その小さい背中を見て呼び止めようとしたが先輩の言っていた学園の取り決めが一瞬よぎる。


「ふぅ…」


知ったことか。この教室にはどうせ僕しかいないんだし。


気が付けば「僕のことならお構いなく」…そう声をかけていた。

その声に一瞬立ち止まった幽霊はおずおずと躊躇いつつも引き返し、僕から少し離れたところにちょこんと座った。

あまりじろじろ見ているとやりづらいだろうと思って僕は僕で教室の後方を眺めながら無言で焼きそばパンを再びかじり始めた。


幽霊もパンを出したりしまったりと最初は挙動不審だったが、若干の警戒を残しながらガサガサとメロンパンらしきものを少しずつ食べだした。


どうして無視されているのか、名前はなんていうのか、友達はいないのか、、

色々聞きたいことはあったが、はじめから変に警戒されても嫌なので無言を貫く。

静まり返った空き教室で二人の咀嚼音だけがシュールに響いた。


特にすることもなかったしそれはそれはゆっくりパンを食べた。

それ以外にすることもなかったし、早く教室に戻っても落ち着ける環境じゃないからだ。


昼休み終了が近づき、教室に戻ろうと立ち上がる。


「一応言っておくけど、ここでご飯を食べてることを誰かに言ったりはしないから…」


念のために敵意はないことを伝えておくことにした。

…なんの念のためか知らないけれど。

敵意がないことは伝わったのか、幽霊はこちらを向いたまま小さく頷いていた。



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